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菜園ライフ by 福島千里

今回のテーマ:コロナ生活

ニューヨーク、ではなくて、その隣のニュージャージーに暮らす私が、アパートから近隣の一軒家へに引っ越したのは昨年2月のことだ。夫と猫1匹。アメリカ生活22年目にして初の戸建て住まい。新生活への期待が高まるのもつかの間、よもやその1か月後に長期巣篭り生活が始まるなんて思いもよらなかった。


3月15日、引っ越しの後かたずけも終わらないうちに外出禁止令が発出された。夫は在宅勤務となり、出張やニューヨーク市内での仕事が多かった私も必然的に在宅になった。


巣ごもり中、たいていの日常品は通販でどうにかまかなえた。が、一番頭を悩ませたのは野菜だ。当時、界隈のスーパーのオンラインサービスは整っておらず、供給を上回る急激な需要にネットは常にパンク気味。なんとか購入できても、物流の停滞により商品がなかなか届かない。


「この状況もどのぐらい続くか分からないし、もういっそ庭で育ててみようか?」と、夫がひとこと。

なるほど、たしかに新居には庭がある。しかし庭といっても、実際には雑草と石ころだらけの “荒地”だ。こんな枯れた土地で野菜が育つのか疑問だし、ましてや夫婦ともに農業の知識など皆無だ。色々な不安も頭をよぎったが、最終的には「運動不足解消にもなるよね」ということで、とりあえず我が家の菜園計画が始動した。


まずはYouTubeで事前学習、続いて実習へ。幸いにも前の家主が残していったショベルとつるはしがあったので、それらをもって作業に挑むことに。雑草や石を取り払い、土をふるいにかけ、地面をならす。これを仕事の合間に何日もかけてやる。まだ寒い季節だというのに、しっかりと汗をかいた。なかなかの重労働だ。次に庭の大半には芝の種を撒き、さらに一角には木材を組んで作った野菜専用のガーデンベッドを並べた。「夏には感染状況が落ち着いてるといいね」と、夏野菜の種に願いを込めて撒き、芽吹いた苗の成長を毎日欠かさず見守った。


6月になるとカブが採れた。7月にはレタスやナスが、晩夏にはトマトやオクラが実り、日々の食卓を彩った。そのころには世の配達事情は改善され、通販野菜もちゃんと届くようになっていた。けれども、野菜作りはすでに我々の生活の一部となっていた。いわゆる真の「自給自足」にはほど遠いが、コロナをきっかけに始めた菜園は、閉塞的な巣篭り生活の中で収穫物以上の達成感と喜びをもたらしてくれたのだ。


そして季節は変わり、今年5月。ワクチン普及と同時にニューヨークは大規模な規制緩和に踏み切った。もちろん、我がニュージャージーも、だ。経済は再び動き出し、街中には人が溢れている。もう巣篭りは不要なのだ。どこにだって行けるし、買い物だって自由だ。けれども、すでにいっぱしの農工具が揃い、庭仕事の味をしめた我が家では、今後も菜園生活が続きそうだ。


2021年6月

◆◆福島千里(ふくしま・ちさと)◆◆
1998年渡米。ライター&フォトグラファー。ニューヨーク州立ファッション工科大学写真科卒業後、「地球の歩き方ニューヨーク」など、ガイドブック各種で活動中。10年間のニューヨーク生活の後、都市とのほどよい距離感を求め燐州ニュージャージーへ。趣味は旅と料理と食べ歩き。園芸好きの夫と猫2匹暮らし。

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