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登山は「ほぼ無限」説 〜登山なんてやるかと思っていた

登って降りるだけの行為なんて意味がある?



端的に言うと登山をやる人をバカにしてた。ただ登って降りるだけの行為。異常に長い行動時間(7時間歩くとかですよ)、その多大な労力。その時間と労力があれば生産的な行為なんて幾らでもできる。盛大な無意味の愚行。約10年前、30歳までそう思っていた。
運動神経が無く、体力も無い。体育の成績はいつも1だ。登山に連れていかれてもただ前の人の揺れるザックを追うのみ。景色? 写真でみりゃええやん。わざわざ行く価値がそこにある?
と思ったら40歳ではこうなってたりする。

宮崎県比叡山、3KNスラブルートにて

休みごとに行きたいのは岩か沢。登りに行くチャンスは100%行くと決めている。遂に仕事まで山っぽい仕事になってしまった。どうしてこうなってしまった? 

山野井靖史さんの徹底的なストイックさと笑顔



30歳のときに出会った山野井靖史さんが1つのきっかけだ。

20代までは音楽を聴いてきた。ずっとストイックな人が好きだった。ストイックに、ハードコアに、徹底的に完膚なきまでに自分の決めたことをやりきる人が好きだ。Moondog、ジョン・ケージ、クラウス・ディンガー、チャールズ・ヘイワード。有名ではないがとにかくやり尽くす人達。そしてその尖った音楽。クオリティとかバランスとかではなく、とにかく心の奥底にぶっ刺さる硬質な音楽。
山野井靖史さんの文章や映像を見て、そんな音楽にカタチを与えたかのように、凄まじいストイックさで山に登り続けるのを見て「!?」と思った。衝撃を受けた、というほど分かりやすいものではなく、喉元に何かを突っ込まれたような「!?」だ。
そして山野井さんはどこまでも楽しげだ。ぜひ機会があればNHKの「白夜の大岩壁」を見てほしい。大きな岩を見つけたときの山野井さんの曇りの無い笑顔。最高だ。あまりにも屈託の無い朗らかさで一緒に笑ってしまう。

「神々の山嶺」の圧倒的な経験



そしてもう1つ、マンガ「神々の山嶺」。エベレストの登記無酸素単独登頂に人生を賭ける男の話。ミステリー要素もありストーリーも抜群に面白い。そして谷口ジローの絵の迫力。

こんなシーンがある。

『神々の山嶺』4巻より

「日常なんてぬるま湯」と思うほどの圧倒的な経験。気になりません? それがどのようなものか、知りたい。そう思い、私の30歳の山経験が始まった。

高尾山から沢から岩へ

詳細はまたの機会に書きますが、最初に登ったのは高尾山。少しずつ経験をついて北アルプスの北穂高へ。山の知り合いとロープを使った登山にチャレンジしてみたく、山岳会に入る。岩と沢に出会い、どっぷりとつかる。
ちなみにその中で一度怪我をして、ゴルジェという音楽を始めることになったのですがそれもまた別の機会に。
子供が生まれたり仕事が忙しくなったりで幾度もの休みを挟みながらも続けている。

「登山」という意味のイノベーション=カウンターカルチャーとしての登山

個人において、意味のイノベーションが起こることがある。今まで点として捉えていた事象が爆発的な意味を獲得して、まったく違うものに見えてくることだ。
音楽ではよくあることで、テクノやジャズなど、ステレオタイプなイメージでしか捉えていなかったものが、ある事象が原因で変容してしまう。爆発的に豊穣な文化で対峙する対象として立ち現れてくる。耳が開く。補助線が引かれる。そんな風に表現できることもあるかもしれない。
登山。「中高年がやる緩い趣味」としてしか捉えていなかった。それが山野井靖史さん・「神々の山嶺」を知って変わった。こんなにも情熱的で、狂気で、スピリチュアルで、フィジカルなカルチャー。
調べれば調べるほど面白い。ロック・クライミングのルーツとして知られるヨセミテの60sカルチャーは、ヒッピー文化の1つの形だ。ウッドストックなどで爆発していたカウンターカルチャー。それが垂壁の中でも爆発していた。さらにそれが綿々と受け継がれて今のフリー・クライミング、ボルダリングのカルチャーと繋がっている。
登山はパンクだ。そして爆発だ。いきなり意味が変わってしまった!

体験としての登山は、ほぼ無限の広がり

面白いのが、登山(クライミング・ボルダリング含む)は「体験」しなければ意味がないということだ。自分の足で手で歩き、攀じ登る。その時間的経過を過ごすことに意味がある。
やる前は生産性ゼロの行為だと思っていた時間と労力。それがあるからこそ意味があるという逆転。この説明は未だに難しい。今後、いろいろな観点から説明していきたい。
当然のことながら、山や岩や壁は有限だ。しかし人間の人生も有限。すべてを体験するためには、時間は短すぎる。なので、今週末も岩に行かなければならない。登れなかったあのルートを登らなければ。
ほぼ無限にやることがある。人生は短い。なんて辛くて楽しいんだ。仕事なんてしてる場合じゃない。

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