「変わる組織」はどこが違うのか? 46
ポジティブ・デビアンスを活かす
ベスト・プラクティスという言葉はよく耳にすると思いますが、それと似た、でもちょっと違うポジティブ・デビアンスという言葉を聞かれたことがあるでしょうか?
デビアンスとは、はみ出ていることです。なので、ポジティブ・デビアンス(PD)は、直訳すると「良いはみ出し」という意味です。それに対して、ベスト・プラクティス(BF)は、最高のやり方ということですよね。
この2つがどう違うかというと、下図を観て頂くとわかりやすいと思います。
例えば、業績が最もいいトップセールスマンがベスト・プラクティス(BP)だとしても、その人は、ベテランで過去に培った人脈があり、業界のこともよく知っているのでお客さんからの信頼も厚い。担当しているお客さんも業績が良くてどんどん製品を買ってくれる。そういう人なのかもしれません。
そういう人の真似をしろと言われても、新米営業マンには参考になりませんよね。ひょっとすると、彼我の差に愕然として自信をなくすかもしれません。
しかし、この図をよく見るとPDと書いた領域の中に3人、平均以下のリソースしかないのに、比較的好業績をあげている人がいることに気づきます。これがポジティブ・デビアンスです。
この人がたちが、どうやって平均以下の条件の中で良い結果を出せているのか。それがわかると、他の人たちにとっても大いに参考になるはずです。というわけで、最近このPDに注目が集まっています。
実はこのPD、思わぬところから知られるようになりました。それは、セーブ・ザ・チルドレン(SC)* というNGOのアメリカ支部が、1990年から推進したベトナムの子どもたちの栄養改善プログラムです。
当時のベトナムは、あいつぐ災害による穀物被害で、子どもたちの約65%が深刻な栄養失調に陥っていました。そこでSCが支援を申しでたのですが、それに対するベトナム政府の答えは、なんと「予算はゼロ。6カ月間で解決すること」というものでした。やれるならやってごらん、という冷たい態度です。
しかし、プロジェクトリーダーだったスターニン夫妻は、そんな政府の回答にめげずに考えます。「非常に貧しい家庭にもかかわらず、例外的に栄養状態の良い子どもはいないだろうか?」と。
そして調べてみると、食料不足の中にあって、少数ながら栄養状態の良い子どもがいることに気づきます。そして、その子供たちが何をしているのかを観察して、家庭においてPD行動があることを発見します。たとえば、(食べる習慣のない)田んぼの中にいる小エビやカニを食べたり、食事の前の手洗いで衛生状態を維持したりしていたのです。その他にもすぐにまねのできる良い行動をとっていました。
スターニン夫妻は、それらをわかりやすく地域の人たちに伝え、普及させていくことで、ベトナム政府に定められた6カ月という短期間に大きな成果をあげます。当然、その活動は横展開されて全国的に拡大し、7年間で約5万人の子どもたちの栄養状態を改善したといわれています。
この話は新型コロナ禍でも注目され、たとえば、エレベーターのボタンを指先で押さずに曲げた指の関節部分で押すといった、ごく一部の病院で行われていた感染症対策のPDが、いまや世界で普通に行われるようになっています。みなさんもやっていませんか?
それがいま、ビジネスにも応用できそうだということで、注目されています。みなさんの会社の中にも必ずいるPDな人を探して役立ててみましょう。
*: セーブ・ザ・チルドレンは、能登半島でも活躍しています。
https://www.savechildren.or.jp/
参考文献: 森 時彦 (著, 編集), 伊藤 保 (著), 松田 光憲 (著)「ファシリテーターの道具箱」(ダイヤモンド社)
フェイスブックに、ポジティブ・デビアンスのサイトもあります。
https://www.facebook.com/PositiveDevianceJapan/past_hosted_events?locale=ja_JP