見出し画像

-稼働-


キョウタは、
自分自身で、
今の部署において
誰よりも結果を残している
という自負を感じていた。

あんなやつには負けない
負けていない、
そう思って
日々の業務に取り組んでいた。

しかし、
若手ながらの果敢な行動は
時に周囲の反感を買うことも多く、
ストレスを感じながらの
毎日を送っているのも事実であった。

その日も疲れて
寝床につく。
オーバーワークな
ところがあるのも
感じてはいたが、
いまのところ
それしかできそうにない。

すぐに眠りに落ちたが、
あっという間に目が覚める。

気が付くと、
自分がアリの姿になっているのが
わかった。

そんな、、
とビックリしたが、
自分が身を置く
巣の中では、
他の働きアリがせっせと
すでに動いている。

なにがなんだか
よくわからなかったが、
自分だけ
サボるわけにもいかないので、
キョウタ自身も
他のアリに混じって
働くことにした。

キョウタはよく働いた。
どうやら手を抜くことが
難しい性質のようであった。
他の働きアリからは
新入りなのによくやるぜ、
という称賛の声をもらった。

ただ、
巣にいる働きアリの皆が
動いているわけではなさそうである。
いや、むしろ
あまり働かないアリも結構いる。
キョウタはこう思った。
それにしたって
人間の時より楽かもな、
変なやっかみとかは
なさそうだから。

ある時、
少し遠くまで
食料を集めに出かけた時に、
キリギリスという虫に出会った。

キリギリスは楽器を弾くのが
得意のようであった。
そのキリギリスと話をした。
キリギリスはわりと怠け者のようで、
そんなに働いてどうするのか、
という感じで
アリであるキョウタに
問いかけてきた。

そんなこと言ったって
もうすぐ冬だぞ、
食べ物がなくなるぞ
と声を上げて、
キョウタは急いで
その場所を後にした。

背後のキリギリスは、
変わらずに
バイオリンを奏でているようだった。

さて、
冬を迎えた。
アリの巣は今冬もなんだかんだで
乗り切れそうだ。

春を迎える。
キョウタはまた、
少し遠くまで
食べ物を探しに出かけた。

すると、
いつの日にか話した
キリギリスと
また相対した。

あんなに怠けていて
よく冬を乗り越えられたな、
とキョウタは
キリギリスに話しかけた。

キリギリスはこう答える。
仲間はみな死んでしまったよ。
僕だけ、とある虫から
「君はバイオリンが上手だね。
これをあげるよ」
と言われて、
ある程度の食料を
分けてもらったんだ。
ただ、どうだろうか。
仲間はみな死んでしまったし、
悲しいこと、この上ないよ。
そう言って、
またいつか聴いた音色を
奏でているようであった。

キョウタは、
なるほどな、
という感じで
キリギリスの話に少し
聞き入ってしまったが、
そのうち我に返り
すぐに自分の持ち場へと戻った。

巣には帰ったが、
日頃の疲れもあり
少し休むことにした。
他の働きアリの助けを借りることも
いつしか覚えていた。

そうするうちに、
眠りに落ちる。

結構深い眠りではあったが、
わりと短時間で目を覚ました。

気が付くと、
時計の針は
朝の7時を差している。

キョウタは、
あれ、、と思ったが、
やはりちょっとした
夢をみていたようである。

急いで
身支度をして、
いつも通りに出社する。

いろいろと考えることも
あったが、
結局自分は、
変わらずによく働くのだろうな
と思った。

それが自分のやるべきところだ。
そう感じて、
今日も結果を残すことにする。


6月の雨が続く
このごろではあったが、
日差しが降りそそぐ
日々も増えていきそうな、
そんな予感もする。







以上

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?