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水商売の時の話。リンちゃんのこと。

24歳の私は
広くて窮屈な田舎のラウンジで
ホステスをしていた。

ド陰キャでコミュ障の私が
そんな場所にいたところで何もできる訳がなく、
1年間働いたうち指名されたのは2人で、
同伴出勤は1度だけだった。
そんなダメダメホステスの私は
当然、お店の女の子達からも浮いていて
最後まで店に馴染む事は出来なかったけど
それでも何人かは、話をしてくれる女の子がいた。
今回その中の1人、
リンちゃんのことを書こうと思う。

(漫画にしようか迷ったけど、
文章の方が伝わりやすそうだったので
noteに書きます。
他にも何人かいるから書けたらいいなぁ。

この頃の漫画はこちら👇🏻



⚠️このお話は実際のお名前やエピソードなど
個人が特定されないようフィクションも交えています。
⚠️お産に関して悲しい内容が含まれます。
苦手な方は閲覧を控えてください。



リンちゃんは、私の1ヵ月後に入店してきた
4つ年上の女の子だった。
背が高く、名前の通り凛とした黒髪美人の彼女は
見た目とは違って、
ガハハ!と豪快に笑う愉快な女の子だった。

明るく気さくでさっぱりした性格のリンちゃんは
お店の女の子達とすぐに打ち解けた様子で
オープン当初からいたようにお店に馴染んでいた。
しかし、1人でいる事も好きらしく、
店の隅で1人、煙草を吸っている所もよく見かけた。
リンちゃんが静かに煙草を吸う姿は
誰にも媚びずに咲く大輪の花のようで、
とにかく美しかった。
私はあまりの美しさに、
圧倒されて立ち尽くしてしまった事が何度かあった。
さすがにキモすぎると思いつつも、
息をひそめてその様子をみていたのを覚えている。

そんなリンちゃんは
転勤族の彼氏と日本中を転々とし、
引っ越し先で水商売をしているらしかった。
仕事モードのスイッチが入ったリンちゃんは
普段とは違う色気と強さがあり
リンちゃんを指名するお客さんは瞬く間に増えていった。

そんなリンちゃんとは
帰りの車で話す事が多かった。
黒いアルファードにお店の女の子が5.6人乗って
それぞれの家へ送りに向かう。
私の家はお店から1番遠かったので
私の番は1番最後だったのだけど、
次にお店から家が遠いのがリンちゃんだったので
自然に話すようになった。
その頃指名客がゼロだった私は
お店ではほぼ空気みたいな存在だったけど、
リンちゃんはそんなことも気にせず、
いつものさっぱりとしたノリで話しかけてくれたので
私は嬉しかった。

ある日、珍しく酔った様子のリンちゃんは
私に昔話をしてくれたことがあった。

「あたしさぁ、ここに来る前は福岡にいたんだけどさ。
一昨年かな?
子供が出来ちゃったんだよね。

最初は二日酔いだと思ってたんだけどさ
こんな続くはずないと思って
まさかと思って調べたらガチでさ。

でも彼氏には言えなかったんだよね。
信頼してないとかじゃないんだけど
何かが変わるかもしれないじゃん。
言えなくてさぁ…。」

リンちゃんは煙草の灰を車内の灰皿にトン、とすると
指に細い指輪が光っているのが見えた。
ゆっくり煙を吐きながらリンちゃんは続けた。

「で、仕方ないから出勤するじゃん?
だんだん、酒とかの匂いが駄目になってきてさ。
体調が酷くて仕事休んで寝てた時さ、
急にお腹めちゃくちゃ痛くなって
救急車呼ぼうと思ったけど
携帯にギリ手が届かなくてさ。

そのままちょっと記憶が途切れて
起きたら、なんか様子が変でさ。
ベッドと床、血まみれなの。

やべーと思ってさ。
でも1番先に思ったのが、
賃貸だし彼氏にバレたらやばい、だったんだよね。
だから、ベッドシーツもカバーも全部洗濯機いれて
床もとりあえず拭いてから病院いってさ。

もう駄目だったって聞いて。」

私が返事に詰まっていると、
リンちゃんはそんな顔しないで、
とも言いたげに笑って手を振った。
暗い車内の中で、
リンちゃんの付けたピアスが揺れた。

「帰って大掃除よ。
貧血でフラフラしてるから
とにかくサプリとか飲んでさ、
すぐ効くわけねぇと思いつつさ。
プルーンとか薬局で買ったやつ爆食いしたね。

何であの時、
彼氏に言えなかったんだろうねぇ。
言いたい事って、
言った方がいい時に限って
なかなか言えないんだよねぇ…。」

その時、必死で床を拭いているリンちゃんや
病院で説明を受けているリンちゃんの姿が浮かんだ。

リンちゃんはずっと
色々な事を自分1人で抱えていたのだろう。
そして、この先何があっても
この人は1人でこれから起こる全てのことを
抱え続ける覚悟なんだろう。
そう思ったら鼻がつんとしたけど
折角湿っぽい空気にならないよう
リンちゃんが明るく振る舞うので、
私も一緒に そーだねーと言って笑った。


それからリンちゃんは、
4ヶ月も経たないうちにお店を辞める事になった。
彼氏と東北の方へ引っ越すらしい。
お客さんも店長もお店の女の子も
口々に別れを惜しんだ。

リンちゃんと最後に話した時も
いつもの帰りの車の中だった。

「とける子ちゃんはお金貯まったら東京行くんでしょ?」

当時私は、上京するお金を貯めるために
ホステスをしていた。

なぜ上京するのか人に聞かれた時、
私は『向こうで絵の活動がしたくて…。』
と答えるようにしていたけど、
本当の理由は
苦しい実家から抜け出したかったのと、
当時好きだった人の近くに住みたいという
思いからだった。

でも、そんな事は情けなくて誰にも話していなかった。
けど、ふとリンちゃんになら
話しても軽蔑されないかもしれない、と思い
私は本当のことを話した。

「絵の活動がしたいんだよね…
っていうのは建前で、
本当は彼氏が東京にいるからさ、
近くに住みたくて…。」

言ったのはいいものの、
口に出したらソーゼツな経験をしているリンちゃんと比べ
めちゃくちゃ自分が幼く感じてしまい、
私は急に恥ずかしくなって
情けねぇ〜!と笑って誤魔化した。
するとリンちゃんはぽかんとした顔をして

「え、そんな事なくない?超いいじゃん!
好きな人の為にお金貯めてるんでしょ?
そんなに大切な理由、他にある?」

と真剣に言ったので
私は えーそうかな、と言うと

「全然偉いよ!やっぱうちらの原動力は恋だよ!
それでじゅーぶんだよ!」
と言ってリンちゃんは笑った。




その後、私が上京してからも
リンちゃんとはたまに連絡をやり取りしていたけど
2.3年もすると連絡先も分からなくなってしまった。

今でもリンちゃんは
この日本のどこかで水商売をしているんだろうか。
何年も前の出来事だし、
今は家庭を持ってお母さんをしているんだろうか。

いずれにせよ、
リンちゃんはどこにいても
大輪の花を咲かせているのだろう。
あの日の車内に響き渡るように
豪快にガハハ!と笑いながら。

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