京都紀行200802

ある同級生の影響で紀行文を書いてみたいと思い、母と一緒に京都に出かけた時のことをここに記しました。拙い文章ではありますが、最後まで目を通していただければ嬉しい限りです。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ガタンゴトン、ガタンゴトン。
僕と母は阪急電車に揺られた。古き良き街へと向かうため。

西院で下車。地上に出てきた僕等に真夏の太陽光が痛いくらい降り注ぐ。
蒸し暑い街路を、三条の商店街へと歩いていく。
活気があるとも廃れているともいえない京都の街。「はんなり」とはまさにこの街のためにある言葉だろう。

商店街に入る前に、まず、僕等は食器や雑貨を売っているお店に向かった。ここではフォークとスプーンを買ったことがある。でも、今回は何も買うつもりはなかった。ただ商品を見るだけで大丈夫だった。

クラゲを逆さにしたみたいな硝子の小鉢、鳥みたいな形をしたアイアンの置き物、深い海の色をそのまま引っ張り出してきたような瑠璃の器。自然が美しいからこそ芸術は美しいのだなと情に浸っていたのも束の間、僕の目の前に「彼女」が現れた。

球形に近い純白の身体、ピンと立った長い耳、キラリと光る真っ黒な瞳。一目惚れ。

楠を彫って作られた雪うさぎ。値札には「指輪置き、9,000円+税」。とうぜん僕は未成年だし、結婚指輪なんてある訳がない。しかもファッション用の指輪ですら持っていない。だけど、置き物、いや擬似ペットとしては申し分ない。
因みに僕は大人になってもペットを飼わないことにしている。なぜかって?だって世話が大変だし、貴重な自分の時間がペットに費やされることにもなる。それに、永遠の別れが嫌で仕方ない。

少し考える時間が欲しかった。なぜなら、僕は9,000円も持ってなかった。となると、母の力を借りるしかない。
こういう時に母は頼れる。相談したところ、先にほかの目的地へと行って、その間に彼女を連れて帰るか考えたらという返事が返ってきた。言われた通りにすることにした。

そうこうしているうちに、商店街の中にあるオーガニックフードの店に到着。愛用している缶入りのココナッツパウダーを買おうとした。

ここで我が家のココナッツパウダーの使い方について説明しておこう。うちではココナッツパウダーをカレー、スープなどに加えて味を変えるために使っている。

しかし無い。どこを探しても見つからない。あまりにも見つからない。だからとりあえず店員さんに聞いてみた。すると、生産中止になってしまったそうだという返答が返ってきた。あーあ、なんてこった。僕等はオーガニック店とココナッツパウダーに悲しく別れを告げたのであった。

気を取り直して、商店街を東に向けて進む。オーガニック店から2分ほど歩いた先に、ジェラートの店がある。そこのジェラートがとっても美味しかったので、僕等はリピーターになったのだ。

因みに裏話。ここのオーナーがジェラートを作り始めたのは4年ほど前だそう。しかし、一昨年、去年、今年と3年連続で本場イタリアのジェラートコンテストで入賞した。良い意味でとんでもない店だ。

とりあえずジェラートを頼む。食べたことのない味に挑戦しようかという考えが頭の隅をかすめたが、結局はお互いにいつもの味にしてしまった。

「ザ・忍者」「モンブラン」「ピスタチオ」。これが僕等のいつもの味である。
後のふたつは分かっても、忍者って何のこっちゃと思われる方もいるかもしれない。忍者ジェラートは、その昔忍者食として使われた竹炭や麻の実を混ぜこんでいて、色が黒い。

ジェラートが運ばれてきた。忍者はあっさり、モンブランとピスタチオは濃厚で美味しい。あまりにも美味しくて、僕は彼女のことを忘れていた。

母の言葉で、僕は彼女のことを思い出した。丸くて綺麗な木彫りの雪うさぎのことを。
僕は彼女を連れ帰ることに決めた。そして、お代の半分ちょっとを僕が出し、残りは母に出してもらった。そして有頂天になった僕は彼女に名前を付けることにした。「リンちゃん」。直感だった。彼女が本当に生きていて、自分の名前はリンだと言ったような気がした。心が通じ合えたようで体が震えた。その時はほんもののうさぎの魂が入っているのかとさえ思った。

リンちゃん。可愛いので時々ナデナデしてやっている。

そして三条通りを更に東進。商店街を覆うアーケードが無くなってすぐに、ほんとうの目的地が見えてきた。
でもやっぱり僕は夢心地でいた。リンちゃんが僕のものになったからだろう。心はやたら軽いのに、身体がやたら重く感じられた。
重い身体を無理やり持っていった先は仕立て屋。デニム生地でオリジナルの服を作っている小さな店だ。
この店には3回ほど訪問したことがある。前回、母はここで市松模様のジャケットを注文した。それが出来上がったからここに来たのだ。

しかし、僕は服を試着するまでもなくお手洗いへ向かうことになってしまった。ジェラート屋で水を飲みすぎたのだ。あそこで水を10杯は飲んだ。まさに鯨飲だよな。
結局、そこで僕はお手洗いを3回も借りることになってしまった。仕立て屋のお兄さんは快く貸してくれたけど、非常に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。きっと母もそう感じただろう。

サンプルを試着したり、お兄さんと少し談笑したりしたあと、僕等は三条通りを更に東進し、河原町の駅の方へと向かった。

駅に向かう途中で服屋に寄った。

前回、そこで僕は藍染のジャケットを買ってもらい、母も藍染のワンピースを買った。

店員さんは僕等のことを覚えてくれていた。少し気恥しかったけど嬉しかった。でも、僕も母もお金が尽きてきていたので服は買わないつもり満々だった。少なくとも僕は。

だが、そこでも母は服を買ってしまった。しかも母自身ではなく息子である僕のために。

それは藍染のデニムパンツであった。気になって試着してみたところ、驚くほど僕に似合っていたのである。元々長い脚が更に長く見えたので僕は嬉しかった。最後の1本だったことも相まって、母の所持金の少ない中でクレカを使って買ってくれた。マジかよ。

しかも今年の9月に同じようなズボンでサテン地の新作が出るらしい。これも買うそうだ。ただでさえ多い僕の服が更に増えてしまうのかと少し憂鬱になったが、ズボン自体はかなり気に入ったのでまあいいだろう。これから増やすとしたら、自分がカッコ良く見える素材のいい服だけにしよう。

そして店員さんに別れを告げたあと、僕等は三条通り、寺町通りをブラブラしてから帰路についた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

追伸:あとから考えたけど、リンちゃんのリンは「リング」のリンなのかなぁと思う。自分はほんとうは指輪置きなんだよと伝えたかったんだろうな。
いつか本来の用途である指輪置きとして使える日が来るかもしれない。でも、僕と相思相愛の仲になった人はまだいない。お兄さんにはもう言ったけど、まずは彼女を作るところから始めるしかないね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?