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【教員新刊】『メディア考古学とは何か?』

久しぶりに登場のコミュニケーション学部教員の光岡です。今回は、私が翻訳に携わった『メディア考古学とは何か?:デジタル時代のメディア文化研究』(東京大学出版会、2023年)のご紹介をさせて頂けるということで出張ってきました。

 本書を紹介するうえで最初に触れておくべきことは、そもそも「メディア考古学」が、メディア研究においてどのような位置づけを持つのかという点です。研究者によってその分類の仕方は分かれますが、メディアの研究には幾つかの主要な研究領域が存在します。例えば、「メディアの影響を測る量的な研究」「メディアの歴史を描く研究」「ジャーナリズムの研究」「メディアの輪郭を明らかにする理論研究」などが代表的なもので、それぞれ短くとも半世紀以上の研究蓄積があります。一方で、日本において「メディア考古学」が認知され始めたのは、基本的には21世紀に入ってからであり、メディア研究者にとって共通の理解があるアプローチとまでは言えないかもしれません。このような背景があって、メディア考古学の全容を描くことに挑戦した(が成功したかは分からない…)本書の翻訳を、私も含めたチームとして必要だと判断した経緯があります。

そのうえで、改めて紹介するとなるとなかなか難儀だなと感じるのは、本書が「対象」ではなく、「方法」を論じた書籍だからでしょう。本書の著者であり、非常に多産な北欧のメディア研究者であるユッシ・パリッカ(Jussi Parikka)も、

メディア考古学は、しばしば忘れ去られたもの、風変りなもの、自明ではない装置や実践および発明の存在を強調するとともに、過去のニューメディアから洞察を得ることによって、新しいメディア文化の研究を行う方法として導入される。(パリッカ 2012=2023:7)

と序章において述べています。では、本書の方法における特徴とは何なのでしょうか。大きく二点あります。

 一点目は、直線的に発展していくテクノロジーの歴史とは異なるメディアの歴史の描き方(の一つ)を志向している点です。メディアの研究全体としても、もはや発達史観に依存した記述はさほど多くありませんが、一方で社会のなかでは、メディアテクノロジーの発展は私たちの生活をより豊かに、より快適にしてきたと語られる傾向は依然として根強くあるように思います。それに対して、パリッカの記述は現在のメディア環境が抱える課題を、古いメディアを現代の社会に召喚することであぶりだすという一風変わった手法を取ります。

 二点目もこの点と関連しますが、その召喚の手法としてのアートを重視していることも、既存のメディア研究との大きな違いです。この古いメディアを現代に召喚することで見えてくる課題は、口述しがたい側面を含みますが、そのあたりを上手く処理して、理解できるようなかたちにまとめあげているのが、(メディア・)アーティストなのだという視線は、本書を通底しています。日本のメディア研究において、「方法」を問う試み自体が必ずしも盛んとは言えないなかで、多くの読者にとってこのようなアプローチは新鮮に映るのではないでしょうか。例えば、本書のなかで何度も取り上げられるポール・デマリニス(Paul DeMarinis)の作品をご覧頂ければ、なんとなくその感覚がつかめるでしょうし、日本ではOpen Reel Ensembleなどもメディア考古学的なアーティストと言えます(注1)。

 上述のような観点から本書を読んで頂けると、読者の皆さんそれぞれの関心や研究に引きつけて理解できるように思いますし、是非そうなって欲しい。なぜなら、方法としてのユニークさがあるため、今後メディア考古学と向き合うにあたって重要なのは、メディア考古学の「使い方」だと思うからです。

(光岡寿郎)

注1:それぞれ以下の自身のウェブサイトが参考になります。
⚫︎ポール・デマリニス 

⚫︎Open Reel Ensemble 




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