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世界の「声」と宝塚歌劇~宙組公演「NEVER SAY GOODBYE」より~

今、日本から遠い国で戦争が起こりました。
 宙組公演「NEVER SAY GOODBYE」を観て、物語以外の感情がどうしても沸き起こってしまう思いを抱いた方も少なくないでしょう。スペインを守る為、立ち上がった市民達の苦しみが、今、現実に戦う彼らを思い起こさせてしまうのは、人として当然の事だと思います。
 この作品の上演が決まった時にまさか世界がこの様な状況であるなんて誰も想像しなかったかと思います。不思議な運命のいたずらによって、今、この瞬間に起こっている事とリンクせざるを得ない台詞や感情を演じる事になったタカラジェンヌ達も、きっとこれまでと違う使命感や知らなかった感情が湧き起こる瞬間を体験をしているんだと思います。お客様にとって、それをご覧になる事は時に辛い体験かもしれませんが、目を背けてはならない事でもあり、だからこそ胸打つんだとも思います。

 かつて、ミュージカルは戦争や貧困、差別という歴史の中での苦しい思いから素晴らしい名作が生まれてきました。どの物語においてもそれを肯定しているものはなかった筈です。そんな作品たちが少しづつ時間をかけて、人々の心に思いやりや愛を生んできました。それなのに、どうして人は同じことを繰り返すのでしょう?もはや、冷静で無くなる出来事やトラウマに苛まれているのかもしれません。人間が過去の教訓から少しずつ育んできた事が、こんなにも無残に忘れ去られてしまうのかと憤りを感じずにいられません。ただ、この時、この瞬間にこの作品に巡り合った宝塚歌劇はまた観に来るお客様に何か強くて大切なメッセージを残していくのだろうと思います。 歴史と共に生き抜いてきた宝塚歌劇。それは、こういった巡り合わせの奇跡が沢山起こってきたからかもしれません。

 夢を描く宝塚歌劇。辛いからこそ夢の世界を観るのか、辛くても現実を描き分かち合うのか、何を観るかはお客様がそれぞれで選択していく事です。今回の公演は思い寄らぬ所で意図していない思いを抱くものになった様で不思議な気がしています。

 物語の最後、自分の居場所を見つけ、戦い抜いたジョルジュは晴れやかな顔で去って行きました。国への理想や平和、そして愛を願い、戦い抜く…物語の様で今、現実も描いています。

 でも、トップスターは最後に必ず大羽根を背負って大階段を笑顔で降りてきてくれます。この瞬間が何よりの救いです。そしてコロナを乗り越えて舞台に戻ってきた宙組は、より強い団結力と意志を感じます。

宙組の完走を願い、また世界の平和を願います。NO WAR。

すーさん

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