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憲法と抵抗権

2014年2月4日 facebook投稿
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<プロジェクト担当者より補足>
約10年前に書かれたもので、取り上げられた首相はすでに故人ですが、良きリンクも貼られているのでアップします。
(補足ここまで)

本当に切実なお願いなのですが、どなたか安倍晋三首相に、政治学、法学、歴史学の基礎を、ゼミ合宿みたいでいいですから、教えてあげてください。
昨日の衆院予算委員会で安倍首相はこう答えたそうです。

【憲法】
 畑浩治氏(生活) 憲法の性格をどう考えるか。

 首相 国家権力を縛るものだという考え方があるが、それはかつて王権が絶対権力を持っていた時代の主流的考え方だ。

以前からですが、首相は「国家権力を縛るというのはやめて、国民にこれをしてはいけないあれをしてはいけないというものに変えなければならない」と主張しています。

世界のすべての民主主義国家は「政府が国民を縛るなんてとんでもない」と憲法などで決めています。首相の価値観を共有できるのは北朝鮮や中国などの独裁国家だけです。国際的に「日本は中国や北朝鮮と同じ価値観で運営している国家」だと思われるようになります。まずいです、ほんとまずいです。この主張は昨日のことだけではなく、昨年の7月にも党首討論会で詳しく述べています。

「まず、立憲主義については、『憲法というのは権力を縛るものだ』と、確かにそういう側面があります。しかし、いわば全て権力を縛るものであるという考え方としては、王権の時代、専制主義的な政府に対する憲法という考え方であってですね、今は民主主義の国家であります。その民主主義の国家である以上ですね、同時に、権力を縛るものであると同時に国の姿についてそれを書き込んでいくものなのだろうと私達は考えております」

この発言のトンデモぶりについての批評は、宮台真司さんと神保哲生さんのネット番組で見ることができます。ご参照ください。
「総理大臣が立憲主義からの離脱を表明しても問題にならない国」
http://www.youtube.com/watch?v=G9_lN5S121k

それで、ほかの民主国家の憲法を参考にするのですが、「政府が暴走したら、国民がそれに抵抗できる権利」というのはほとんどの国の憲法に明文化されています。

ドイツ基本法(憲法)はこう書かれています。

第20条 [国家秩序の基礎、抵抗権]
(1) ドイツ連邦共和国は、民主的かつ社会的連邦国家である。
(2) すべての国家権力は、国民より発する。国家権力は、国民により、選挙および投票によって、ならびに立法、執行権および司法の特別の機関を通じて行使される。
(3) 立法は、憲法的秩序に拘束され、執行権および司法は、法律および法に拘束される。
(4) すべてのドイツ人は、この秩序を除去しようと企てる何人に対しても、他の救済手段が存在しないときは、抵抗権を有する。

ドイツは戦前、当時最も民主的と言われたワイマール憲法にも大統領の「非常大権」という条項があって、戦争や国家的危機のときには大統領が独裁できるという内容がありました。軍人出身のヒンデンブルグ大統領がこれを乱用し、その流れで、憲法改正ということで全権委任法ができ、ナチス独裁に至ったという歴史があります。

そういう歴史を踏まえ、ドイツ基本法は「国民の抵抗権」を制定しています。安倍首相は「いまは民主主義の世界なのだから絶対王権の時代とは違う」なんて言いますが、「現在の民主主義国家でも国家が暴走する可能性」はあるので「その時に国民が国家を縛る」という安全措置はとられているのです。

アメリカ憲法も、ちょっとわかりにくいのですが「抵抗権」があります。

修正第1条[9]
連邦議会は、国教を樹立し、若しくは信教上の自由な行為を禁止する法律を制定してはならない。また、言論若しくは出版の自由、又は人民が平穏に集会し、また苦痛の救済を求めるため政府に請願する権利を侵す法律を制定してはならない。

修正第2条
規律ある民兵は、自由な国家の安全にとって必要であるから、人民が武器を保有しまた携帯する権利は、これを侵してはならない。

修正憲法が18世紀後半にできたのは、連邦政府がむちゃくちゃなことをしたら、国民や州がそれを武力を使ってでも抵抗できるという精神からでした。

修正2条はいまでは「アメリカ人は銃を持つのが権利」みたいになってしまいましたが、もともとは「政府の暴走を止める手だて」だったのです。余談ですが、そのあたりはマイケル・ムーアのドキュメンタリー映画『ボウリング・フォー・コロンバイン』が参考になります。

いまの日本の改憲派が「立憲主義を破壊しようとしている」ことについては、2006年出版の長谷部恭男東大教授(憲法)と杉田敦法政大教授(政治学)の対話本の『これが憲法だ!』がとても分かりやすく、参考になります。
https://www.amazon.co.jp/%E3%81%93%E3%82%8C%E3%81%8C%E6%86%B2%E6%B3%95%E3%81%A0-%E6%9C%9D%E6%97%A5%E6%96%B0%E6%9B%B8-%E9%95%B7%E8%B0%B7%E9%83%A8-%E6%81%AD%E7%94%B7/dp/4022731141/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&crid=PHLIFBDKS0HZ&dib=eyJ2IjoiMSJ9.IHyKPfLav1jJeIOUKp39b7vLPqkkYBFRF1Uy8zZBNIyZU0vtietmv052KPhdHtuQkhKqg_W3_CrSD4-b39ov0xTolkQBd5-sFPmb1Y0kX8Rj_VMv6m0uymfnxpNJuMP1fREeLuYBpigr9NkwCoIrbCn9-Ho9M1QbNf1LAVMyec-ItEfh-lDkO8Lg-nhAp4aCTxalxukVqRFW_5YaI1moUtcP9VUTkNxT9-7o5I_NK2o.Ij60pXvq2urH85dJH4_wuhWZFoSxRw_Q1v6oG-TBF4g&dib_tag=se&keywords=%E3%81%93%E3%82%8C%E3%81%8C%E6%86%B2%E6%B3%95%E3%81%A0&qid=1714722886&s=books&sprefix=%E3%81%93%E3%82%8C%E3%81%8C%E6%86%B2%E6%B3%95%E3%81%A0%2Cstripbooks%2C378&sr=1-1

長谷部さんは「憲法を変えてもいいけれど、立憲主義を変えるのはでたらめ」ということを言っています。あたしも改憲については微妙ですが、その通りだと思います。

長谷部さんも杉田さんも政治的立場としては「保守」と表明しています。こんなことを断らないといけないご時世がほとほといやなんですが、あたしはマルクス主義にもとづく左翼ではありません。「保守リベラル」というぐらいだと思います。それでも「極左」にみられてしまうので、疲れてしまいます。

いつもエーリッヒ・フロム「自由からの逃走」の「知識人(あたしは知識人ではないですが)がナチスに屈したのは内的疲労とあきらめ」ということを思い出して疲労回復につとめてはいるんですが。

国家主義的な佐藤優さんですら「安倍政権の思想だと、ほかの民主主義国家から『おなじ価値観を共有できない国』とみられて、日本の国益が著しく損なわれる」とずっと警告しています。

お願いですから、日本を「普通の民主国家」に戻してほしいのですが・・・。

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