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読書リハビリ:激ヤバ

随分と空いてしまった。
読書をしていなかったわけではなく、心に引っ掛かるものがなかったのかもしれない。
少しだけ読書から遠ざかったときにはこれを読んでもう一度立ち位置を確認している。

そして年末。
妻の実家に幽閉されるタイミングで、大量にエッセイやら短編を読んだ。
その中でも一番引っかかったのが「激ヤバ」だった。
もう少し何かなかったのかとも思うが、そうだったのだからしょうがない。

激ヤバ:伊藤幸司

ランジャタイのおとなしい方、伊藤幸司のエッセイ集。
年末の軽い読み物という気分で、Amazon Kinlde Unlimittedに入っていたのでダウンロードしておいた。
なんとなく、読むものが途切れたタイミングで読んでみると、スラスラと最後まで読んでしまった。

24編のエッセイが収録されており、鳥取での少年時代の話や、芸人として東京で過ごす日々、M1で一躍名が売れたあとの話などが淡々と語られている。
声を出して笑うようなものではないのだが、どれも楽しい語り口で、文体も思ったよりも文学的で、読後感が良いものが多かった。

中でも時に好きなものをいくつか。

僕はグラップラー刃牙をはく

POISON GIRL BANDとの思い出。
POISON GIRL BAND(ポイズンガールバンド)はなんか英語で表記したい名前だ。
テレビで観た時から、気になっていたお笑い芸人ではあったが、いつの間にか目にすることはなくなっていた。
この辺りの経緯はTokyo FMで昔聞いた倉本美津留とランジャタイの対談番組によって知った。
(TOKYO SPEAKEASY 2022年01月26日 倉本美津留/ランジャタイ)
お笑い芸人としてのPOISON GIRL BANDは2022年当時ですでに活動を停止しており、今もその状態と考えられる。
ランジャタイとPOISON GIRL BANDの繋がりを知った時、何か意外な組み合わせだなと感じたのだけど、細かなエピソードはなかった。
そんな二組の細かなエピソードが、このエッセイには記載されていた。
特に表立って語ることのない伊藤幸司が雄弁に語っていたのだ。
本当に好きな先輩だったのだということが伝わってきた。
似たような話で、浜口浜村についても語ったエッセイもあったが、こちらの方がよりエモーショナルだった。

激ヤバ

タイトルにもなっているエッセイ、母親の死と葬儀の話。
こちらも普段動きの少ない伊藤幸司からは想像できないような、浮き沈みのある話だった。
そして相方である国崎和也が亡くなった母親に渡すためのサイン色紙に記した言葉が「激ヤバ」だ。
生前、母親がランジャタイのサインが欲しいと言っていたので、実家に帰る前に国崎のアルバイトさきに寄りサインをしてもらう。

国崎くんは、「辛いよなあ」と言いながら、サインの余白上のところに、サインより大きな字で一言、
「激ヤバ」
と書いた。
僕はそのとき、あれ、なんだかおかしいな?と思ったけど、大人しく、
「ありがとう」
と言ってガソリンスタンドを後にした。

「激ヤバ」 伊藤幸司

眉を顰めながら、サインを書いて、「激ヤバ」と書く国崎が容易に想像できる。
そして無表情でそれを受け取る伊藤幸司も。

最終的にそのサインは気を利かせた葬儀場の人によって母親の棺桶に入れられ、「最後のお別れ」で、参列者に審判の日を迫る。
母親の顔の横に置かれた「激ヤバ」のサイン。
いやでも目に入るその字に笑わずに最後のお別れをする参列者。
こういうお笑い芸人らしい、見送りのエピソードはたまらない。
まあ、母親なんだけど。
なんともランジャタイらしい話が詰まったエッセイで、これを単行本のタイトルに持ってきたのも理解できる。

真夏の芝浜

立川談志の芝浜に感動した話。
ランジャタイの国崎和也が創作落語をやっていたのをYOUTUBEで観たことがあった。

落語ではないけど、落語的な何かといった印象を受けて、なんだかんだで最後まで観てしまったし、なんなら筋も覚えているという不思議な引力を持った話だ。

これを観ていたので、てっきり国崎和也が落語に惹かれていたのかと思っていたのだけど、そもそもは伊藤幸司が立川談志の芝浜に感動して、うる覚えの芝浜を国崎和也に聞かせたことが始まりだったとのこと。
M1の縁もあり、後日立川志らくの落語会に呼ばれて、真夏に芝浜を観ることとなった。

芝浜をなんとなくコピーするという行為もなかなかだが、それを全て聞いて、創作落語を作る国崎和也というのも、ランジャタイらしい話だった。

黄金を抱いて跳べ

売れない後輩芸人荒波タテオが腰骨を折って死にかけた話
この激ヤバの中で、最も好きな話だ。

後輩芸人の荒波タテオがアルバイトの窓清掃で転落し腰骨を折るような重傷を負って入院した。
当時、関係性が少し壊れていた伊藤幸司と荒波タテオではあったが、入院先に見舞いにいくことに。

タテオは涙腺が壊れているのかどうなのか、、泣いているわけでもなく、ずーっと目尻からわずかな涙を流し、それがこめかみと耳を伝って枕を濡らしている。
そしてなぜか両人差し指を、顎の下でずっと天に掲げていた。
僕にはなんだかそれがジュリーの真似をしているように見えて、「ジュリーのものまねしてるの?」という言葉が喉仏を越えて喉ちんこをぐんぐん押し出そうとしていたが、喉ちんこにぐっと力を入れてなんとか跳ね返した。

「激ヤバ」 伊藤幸司

荒波タテオは後遺症もなく、復帰できたそうで良かった良かった。
なんとなく、読んでいる時はスーパーニュウニュウの大将を想像して読んでいたが、改めて確認したら全く違った。
そういうものだよね。

まとめ

面白かったので、全編続けてスラスラと読んでしまった。
またこんな伊藤幸司のエッセイを読みたいなと強く思う。
ランジャタイの魅力が綺麗に半分入っている作品だった。

サポートをしていただけたら、あなたはサポーター。 そんな日が来るとは思わずにいた。 終わらないPsychedelic Dreamが明けるかもしれません。