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読書リハビリ:お口に合いませんでした

珍しく連載物も読み始めてしまった。
定期購読している文學界の連載は正直なところあまりちゃんと読んでいない。
月に一度だと、前回どうなっていたっけと記憶が朧げになってしまうことがあり、以前に文學界に掲載されていた西村賢太の連載はなんとか乗り切れたものの、他は途中で挫折してしまったのだ。
「どうなっていたっけ」で前回を読み返すには気力が持たないのだ。

そんな中、このオルタナ旧市街の連載は読み続けられている。
なぜだろうと、思い返すと単純に面白いからなのだろうけど、特に今回の第6回「町でいちばんのうどん屋」にはパワーワードが豊富にあり、内容とともに記憶の定着を助けてくれているのかもしれない。
ボルダリングのリードのように、そこここに引っ掛けながら進んでいくスタイル。

「町でいちばんのうどん屋」オルタナ旧市街

出会った酷い食べ物の話が語られる連載なのだが、今回はシンプルな構成でとにかく印象に残る言葉が多くあり、心を掴まれてしまった。

地方都市へ出張へ向かう主人公、社用車で向かう道すがらサービスエリアで昼食。
今回はサービスエリアか、と思ったところ、ここはそれなりに満足できる食事だった。
確かに最近のサービスエリアはそこまで酷くない。フードコートの食事のレベルはある一定水準にまで到達してそこで歩みを止めているだけだ。
「他にすれば良かったな」くらいの軽い後悔はあっても、酷い一食とまでは言えない。

さて、主人公は取引先に到着し、商談を交わした後、お昼を誘われて「町でいちばんのうどん屋」に行くことになる。

ここまでで、すっかり主人公のお気楽な出張に浸っていたのに、冷や水、または冷ぶっかけうどんをかけられることになる。

とにかく店の描写が秀逸だ。
びっしりと貼られた芸能人のサイン
先客だと思った婆さんが店員
気になるかならないかギリギリの汚れがついたコップ

そして間違えられる注文、この辺りから悪い予感は確信に変わっていく。
で、うどんがまずいという文章になるのだけど、これがあまりにも素晴らしく。本当に不味そうなうどんが想像できた。
あまりにも容易に想像できたため、これを引用してしまうことは、不味いものをまた誰かに想像させることになるのでやめておく。
それくらいに適切な不味いうどんの表現だ。
美味しそうな食べ物の表現はよくあるが、不味いものがここまで巧みに表現される様はなかなかない。
褒め称えていいのかどうか、は一考する必要があるが。

そうなるとこの不味いうどん。
取引先から提供されているに等しいため、なんとか処理しなければならない。
これまた秀逸に、処理する工程を表現している。

なんにしても、連れてきてもらった店で残すわけにはいかない。腹の下にぐっと力を入れて、懸命に手も口も動かしてみたけれども、おそろしいことに食っても食っても漆黒のつゆの奥底から麺と油にまみれたカスがどんどん出てくる。ほとんど生ゴミに近かった。

お口に合いませんでした 第6回「町でいちばんのうどん屋」オルタナ旧市街

なぜだか、取引先の営業部長が、以前に勤めていた会社の人の顔になった。
メガネで大柄でやけに声が大きくて、悪い人ではなさそうだけど、あまり好きになれなかったタイプの上司だ。

食べなければいけない場面の不味い食べ物は非常に苦痛だ。
このような体験は大人なら誰しも持っているものだが、ここまで本当に不味そうな食べ物を表現されたのは初めてで、衝撃的な1作だった。

そして全てを洗い流して、許してくれそうなウルフルズの「ええねん」がかかるというチョイスと「あかんねん」という感想も素敵な結びとなっていた。

おまけ

読み終えたところに掲載されていた関連商品がうどんなのだけど、これは宣伝効果があるのだろうか。

「たぬき」ではないのが救い

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