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読書リハビリ:こちらあみ子

ついに文庫本に辿り着いた読書リハビリ。
このゴールデンウィーク終盤、ぼくは体調を崩してしまい家にいました。
天気も良くなかったし、読みたい本もあったしと気持ちを切り替えて文庫本を手にしました。
今村夏子の「こちらあみ子」、ちくま文庫の1冊です。
いつ、どうして買ったのかあまり覚えていないのですが、そんなに厚くないし3つの短編が収録されたものなので、読みやすそうです。

「こちらあみ子」今村夏子

まずは「こちらあみ子」
元は「あたらしい娘」という題名だったが、「こちらあみ子」に改題された。
読み終えると、確かに「こちらあみ子」がしっくりくる。
ちょうどいい長さで、話の構成もわかりやすくて読みごたえもあった。
ただ、話がせつなすぎた。

現在のあみ子、いくつかポイントになりそうな点が提示されつつ、話が始まる。
前歯が折れていること、それは好きだったのり君に殴られたから。
そして幼い頃の話からここに至るまでの話が始まる。

なにぶん祖母と一緒に暮らす前、ここからずっと遠くの家に住んでいたころの話だから、もうほとんど忘れてしまった。

「こちらあみ子」今村夏子

幸せな家族、ごく普通の家庭かと思われるが、どこか問題がある。
少し普通じゃないあみ子、どこか冷たいような家族。
問題はあるけれどなんとか前に進んでいた家族だったが、ある出来事を境に変わってしまう。

兄が不良になったのは突然のことだった。不良以前と不良以後があるだけで、あみ子はその中間を思いだせない。兄だけでなく、同じ時期に母も変わった。兄が突然不良になったように、母は突然やる気をなくした。

「こちらあみ子」今村夏子

あみ子は誕生日のプレゼントをもらう。
銀色のトランシーバー、チョコがコーティングされたクッキー、24枚どりの使い捨てカメラ。
そのどれもが後の話に繋がっていた。

産まれなかった赤ちゃん、母はその後少し優しくなった。
これが「あたらしい娘」だったのだろうか、話の転換点になっていた。
しかし、あみ子の行動が予期せぬ結果を生み、母はやる気を失ってしまう。
ほんの少し、あみ子と周りの呼吸がずれてしまっている、それだけのようだし、いつからか皆がそれを前提に、あみ子を見ていないように思える。

「こちらあみ子」というタイトル、これは作中に出てきたトランシーバーでの応答だった。

「応答せよ。応答せよ。こちらあみ子」
誰からもどこからも応答はない。
「応答せよ。応答せよ。こちらあみ子。こちらあみ子。こちらあみ子。応答せよ。」
何度呼びかけても応答はない。

「こちらあみ子」今村夏子

引越しのため荷物を整理している際に、そのトランシーバーが出てくる。
ただし1対であるトランシーバーは片方しか見つからなかった。
もう一つのトランシーバーは兄の部屋にあるのではないかと、ぼくは期待してしまっていた。

中学を卒業し、引越しを控えたあみ子、一人部屋で何気なくトランシーバーを使う。
繋がらないトランシーバーに思いを吐露していると、部屋にいる幽霊が恐ろしくてたまらなくなってしまう。

「・・・・・・幽霊がね、おるんよ。ベランダのところにね」そこまで言うと唐突に怖ろしさが湧き上がり、とまらなくなった。
「どうしよう。こわいこわい。こわいよ。こわいこわいこわいこわいっ。こわいんじゃこわいんじゃ助けてにいちゃん」
雷のような音が足を伝わり、バシンと鋭い音をたてて部屋の襖が開けられた。見上げるとそこにライオンみたいなひとが立っていた。
ぽかんと口を開けているあみ子に向かって、仁王立ちしたライオンのひとは軽くこくりと頷いた。

「こちらあみ子」今村夏子

部屋の幽霊を退治してくれたのは田中先輩こと不良になった兄。
本当は優しかったのかもしれない。
妹想いないい兄だったから、引っ越すことが決まったあみ子に会いに帰ってきたのかもしれない。

「こちらあみ子」という応答には結局誰も答えてくれなかったのか。
父、母、兄、のり君、近くにいた人々、名もわからぬ同級生、保健室の先生。
それも「もうほとんど忘れてしまった。」のだろうか。

「ピクニック」今村夏子

人気のお笑い芸人と付き合っているという七瀬さんの話。
こちらはあみ子とは異なり、七瀬さんの周りの私たちとは会話が成立しており、七瀬さんとのやりとりは正常だ。
でも、少しだけ不穏なところがありつつも、七瀬さんのキャラクターが話を力強く引っ張っていく。
あみ子とは違った作品で、楽しげな話であったが、どこか物悲しさもあり、今村夏子の不思議な物語の世界が堪能できた。
登場人物のほとんどに名前がないのも、どこか話がぼんやりと楽しく、ぼんやりと怖ろしさを含んでいる理由かもしれない。

「シズ子さん」今村夏子

こちらは応答できない話、今一つ掴めないまま、登場人物のキャラクターがあまり掴めないままに話が終わってしまった。

読書リハビリの経過は順調

短編が三つ収録された文庫本もなんとか読めた。
読書リハビリは順調であり、今村夏子の作品はまた読みたいと思うのだけど、
まずは買ったけど読んでない本を読んでから購入しようと決めた。
ぼくの机の限られたスペースに隙間なく詰まってしまった本たち、読んだら本棚へ入れていき、スペースができたら本を購入しよう。
そう本棚にはまだスペースがある!
そんな自分ルールを作って、読書リハビリを進めていくのです。


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