見出し画像

読書リハビリ:「コソボ 苦闘する親米国家」 木村元彦

読書リハビリも本格化、前回文庫本を読破したので、いよいよ単行本に挑戦しました。
今回は木村元彦の新著、この人のサッカー関連の書籍は昔から好きで毎回購入しているので、本作も当然ながら即座に購入。
ただ、読書リハビリ中と言うことに加えて、あまりにもテーマが重いので読み始めるのに時間がかかってしまいました。
「コソボ 苦闘する親米国家 ユーゴサッカー最後の代表チームと臓器密売の現場を追う」
後半のインパクト。強すぎますね。

コソボについての基礎知識。

コソボの国土の形は少しだけテキサス州に似てますね。

主要登場人物

目次に続くのが主要登場人物と用語解説。
まずはそこから必要なのです。
ずらりと並ぶ顔写真付きの主要登場人物を確認すると、8割から9割が悪人。
アウトレイジとほぼ同等といったところ。
人物紹介に「拉致」「虐殺」「臓器売買」といった日常ではあまり目にしない単語が続くのでちょっとクラクラします。
用語解説もなかなか味わい深く、ユーゴ関連本を読んでいる人にはお馴染みながらも、難しい略称が続きます。
最近、よく耳目にするNATOはまあいいとして、以下の組織が重要になります。
KLA (Kosovo Liberation Army)
UNMIK (United Nations Interim Administration Mission in Kosovo)
KFOR (Kosovo Force)
UNHCR (The Office of the United Nations High Commissioner for Refugees)
ICTY (International Criminal Tribunal for the former Yugoslavia)
うーん、見慣れない。
コソボを統治するグループ、国際機関そして、旧ユーゴスラビアの内戦での戦争犯罪を裁くものと言う並びです。

ユーゴスラビアとコソボ

まずはユーゴスラビアについて
そもそもユーゴスラビアを知ってるかい?というところから必要な人もいると思います。
かつてあったユーゴスラビアは内戦を経て分裂し、このコソボの独立を含めると7つの国になってしまったのです。
セルビア、モンテネグロ、クロアチア、スロベニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、北マケドニア、そしてコソボ。
そんなお話をサッカーを交えて説明してくれるのが序章、「NATO空爆後 放置された民族浄化」
コソボの国旗にもその複雑さが垣間見えます。

そのデザインはヨーロッパの色である青地の上に、コソボの地形(広さにすれば岐阜県ほどの面積である)が金地で施され、そして上部には白い6つの星が施されている。この星はコソボに居住する6つの民族、アルバニア人、セルビア人、トルコ人、ゴラン人、ボシュニャク人、そしてロマを意味している。このシンボルから見ても分かるようにコソボは多民族国家であり、その理念の下に誕生したはずであった。

「コソボ 苦闘する親米国家」 木村元彦

帰れないポポビッチ

そして第1章、「コソボのマイノリティ 2006年〜2009年」

ここでは日本にも馴染みの深い人、数々のJリーグのチームにて監督を勤めたランコ・ポポビッチの話を軸にコソボの現在についての記述が続きます。

ランコ・ポポビッチはコソボのセルビア人。
そんな彼の生家はコソボのペーチにあったのですが、NATO空爆後、セルビア人の排斥運動が活発化してしまい身の回りのものだけを持って、家族は家を捨てることになります。
そしてそこには現在全く知らないアルバニア人が住んでいる。

取材に赴いた木村元彦はそこでもう帰ることのできないことを知ります。そしてそれをランコ・ポポビッチ本人に伝えなければならない。

章の最後はランコ・ポポビッチの言葉で終わっています。

「ここ数年のコソボの紛争について言えば、我々は互いに殴り合いをさせられてきた。セルビア人もアルバニア人も傷ついてきたが、腹立たしいのは、遠い所で殴り合いをさせているやつが最も得をしているということだ。」

「コソボ 苦闘する親米国家」 木村元彦

恐ろしすぎる「黄色い家」

続いて第2章、「黄色い家 臓器密売の現場 2013年」
ちょっと想像できない犯罪がコソボでは起きていました。
あまりにもエグい臓器売買の犯罪とその疑惑の人物たちの話でした。
ちょっと酷すぎるので詳細は省きます。
ざっくりというとユーゴスラビア紛争やその後に、たくさんの人が(人種を問わず)拉致されて行方不明となっており、そのうちの相当数は殺されただけではなく、臓器売買が行われたという疑惑があるとのこと。
うーん、クラクラしますね。

ヨービッチとコソボ代表

第3章は「密着コソボ代表 双頭の鷲か、6つの星か」
ここではコソボのサッカーについて。
当初は認められていなかったものの、FIFAやUEFAに加盟していよいよW杯の予選を戦うことになるコソボ代表。
その大多数は他国に移民した人の子供たち。
そしてコソボサッカー協会の副会長についたセルビア人、ヨービッチの話。

特にヨービッチの話は切なく、あまりにも悲しい。
彼は圧倒的少数派のコソボのセルビア人を代表して、コソボサッカー協会に入ることになるが、
それ自体がコソボのセルビア人にも望まれておらず、疎まれる行為であり、セルビア本国の人にとっては、そもそもコソボという国を認めていないので、そんな国のサッカー協会に協力するなんてことは裏切り以外の何者でもない。
それでも少数の、虐げられるコソボのセルビア人の権利を認めさせるため、真の意味でコソボでの民族融和を目指すため、自身にできることとしてサッカー協会に加わったわけです。

コソボはセルビアのものでもアルバニアのものでもない。自分はコソボのセルビア人。
(中略)
ヨービッチは、同胞から生涯裏切り者の汚名を着せられることをとっくに覚悟していた。

「コソボ 苦闘する親米国家」 木村元彦

そんな決意をしたヨービッチですが、いざ本番となる国際試合には何と帯同されません。
昨日まで一緒に働いていた同僚たちによって、チケットもホテルも何もかもが、彼には手配されていなかったのです。

置いてきぼりを食らったヨービッチを説得し、試合会場に乗り込む木村元彦一行。
雇ったアルバニア人のドライバーが、一行を連れて車で現地へ向かう途中で語ります。

「ユーゴスラビアの各民族は、宗教や言語が違うだろ?ただ唯一、同じものがあるんだ。何だと思う?」
「さあ」
「いったん熱くなると、どこまでも一気に突っ走ってしまうメンタリティだよ。誰かが冷静だったら、あんな酷い戦争は起きなかったはずだ。」
何となく、頷けた。
この地域は被害と加害がオセロゲームのようにパタパタと何度も入れ替わった。どこかで歯止めが効かなかったのは、互いに対立民族の差異を強調しながらも実は、情緒や感情の持ちようがあまりに酷似していたからかもしれない。

「コソボ 苦闘する親米国家」 木村元彦

試合会場にはなんとかついたものの、当然ながら真っ当な扱いはされないわけで。
形だけの副会長ヨービッチ。
彼も虐げられながらも意地を貫き通すのだろう。

終章とまとめ

ユーゴスラビアの過去と現在について、ぼくはそういった書籍を見かけるたびに購入しています。
最も興味のある国がユーゴスラビアなのかもしれません。
そこには現代に通じる問題が垣間見えることもあり、ぼくは今後もユーゴスラビアのことを追い続けて、忘れずにいたいと切に願うのです。
ともかく木村元彦のバイタリティと、現場主義、取材力について今回も感嘆し、感謝するのでした。


サポートをしていただけたら、あなたはサポーター。 そんな日が来るとは思わずにいた。 終わらないPsychedelic Dreamが明けるかもしれません。