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ショートショート(オリジナル)

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自作のショートショート作品です。~2000字くらいのものを載せていくつもり。
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2022年4月の記事一覧

エンドレス(ちくま800字文学賞応募作品)

エンドレス(ちくま800字文学賞応募作品)

「PDCAって、ご存じですか」

男は僕に尋ねた。

「ええ、まあ」

それは、サラリーマンの僕には馴染み深い言葉だった。
PLAN(計画)、DO(実行)、CHECK(評価)、ACTION(改善)。
日々の業務においてこれを実践し、円滑に遂行する。ビジネスの基本だ。
しかし、目の前の男の言う「PDCA」は、ちょっと違うらしい。

「簡単にご説明しますね。まず、PROMISE(契約)。貴方と私

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犬泥棒(ちくま800字文学賞応募作品)

犬泥棒(ちくま800字文学賞応募作品)

 犬は防犯に役立つ。そう思う者は多いだろう。犬の使命とは、飼い主を守ることだ。怪しい者には吠え、勇敢に飛びかかる。

 俺は泥棒だ。普通、泥棒は犬のいる家を避ける。だが、俺は違う。俺は、どんな犬でも手懐けることができるのだ。

 その夜、俺はとある豪邸の前に立っていた。立派な門柱の隅に、小さな逆三角の印がある。仲間がつけた「犬がいる」というサインだ。玄関の防犯カメラは、明らかにダミー。俺は、屋敷を

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密着取材(ちくま800字文学賞応募作品)

密着取材(ちくま800字文学賞応募作品)

アカデミー賞受賞監督・西園寺怜子に密着し、ドキュメンタリー番組を作る。その企画は、怜子が新作映画の制作を発表した日から始まった。

私は番組のプロデューサーとして、当初から怜子と接していた。
怜子は、世間のイメージそのままの、気難しい職人のような女だった。
自分にも他人にも厳しく、演技の指導には一切手を抜かない。スタッフや俳優と口論になることも珍しくなかった。

「私は悪役なのよ。人間、追い詰めら

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山手線の守護者たち(ちくま800字文学賞応募作品)

山手線の守護者たち(ちくま800字文学賞応募作品)

「狛犬ポジション」――電車のドアの両脇の「あの場所」のことだ。
毎日満員電車で通勤する僕は、この場所の快適さをよく知っていた。
しかし、この場所がネットで話題となり、名前が付き、そこを他人に譲る行為が賞賛されるようになった時、僕は決意した。

僕は、このポジションを守る。そして、ここを真に必要とする人に使ってもらうのだ。それは確かな偉業に違いない。

僕は毎日、できる限りポジションを確保し、必要な

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