#42 戦略の地政学

戦略家たちが諸外国との関係を考える場合、自分の国と問題を抱えた国を対象に外交関係を考えるため、地図の上では、相手国を見下ろす位置に自分の国を配置するのが最もわかりやすい。第二次世界大戦以降に生まれた自分にとっては戦争がないことが当たり前で、戦争のない平和な世界がスタンダードになっているが、歴史を振り返ると、それぞれの国が力をつけて版図拡大を目指して戦略を以て戦ってきた歴史が存在することがわかる。地政学は、歴史をかたどる大きな分野であり、ダイナミックであり、経済、歴史を紐とく鍵になるものであり、ここを理解することは自身の哲学を深めるためにも必要なプロセス。前置きが長くなったが、本書から気になった点、学びがあった点を抜粋する。

・中国やロシアにとっては、日本は太平洋に進出するために越えていかないといけない地点。(日本海から津軽海峡を越えて出るコース、沖縄本島と宮古島の間の比較的広い海域を抜けるルート、台湾海峡を抜け、南シナ海を経由して、太平洋に抜けるルート。)そしてその背後には米国が待っているという構図が見えてくる。

・19世紀には、ロシアは暖かい海を目指し(輸送コストのかからない不凍港を目指して南下する戦略)、英国と中東をめぐって鋭く対立した。東西冷戦の時代には、ロシアがアフガニスタンを攻略したが、米国が反対し、武器などを供給。これがアルカイダのきっかけとなってしまった。
北極を中心とした地図を考えると、アメリカがこの地域を制圧すれば南北からロシアを挟み込むことができる要所として機能していることがわかる。

・ランドパワーは、土地に対する執着が強く、支配地域を拡大しようとする攻撃的な傾向が強くある。一方、シーパワわーは土地の支配権獲得よりも、交易を通じて得た権益を守ろうとする傾向が強くランドパワーほど攻撃性が強くない。ランドパワーの拡大傾向はシーパワーの持つ覇権とぶつかり、それはやがて紛争、戦争へと向かっていく。また、シーパワーであるなら、ランドパワーになれず、ランドパワーであればシーパワーにはなれないのである。

・ハートランドの外にはリムランドが存在し、米国の目的は、リムランド国家と友好な関係を築く事、リムランド国家内で同盟を結ばせないこと、ハートランド国家にリムランドを支配させないこと。孤立主義をやめ、トルーマンドクトリンを発表した背景、NATO創設の背景にはこのような考え方がある。

・2013年、バラク・オバマは米国は世界の警察を降りることにした。イラク、アフガニスタン攻撃あと、いかなる軍事行動も国民には支持されなかった。2017年までにアフガニスタンで亡くなった米国軍兵は2387人、英国は455人。一番多くの犠牲を払ってまででも米国が世界情勢を維持する理由を探しあぐねた。

・アメリカのシーパワーの支配が弱まったことをきっかけに、中国がまず積極的な海洋進出政策をとった。ロシアも南下をしクリミアを併合、シリアでのISの活動を抑え、シリアアサド政権と友好な関係を作り、中東でのプレゼンスを増やしたいと考えていた。

・外国と境界線を接しているランドパワーの国々は、外国の侵略の脅威に直面するため、国の為政者は力を行使して、引き締める必要があった。一方で、シーパワーの国々は、海洋が敵からの侵略の自然防波堤として機能するため、民主主義を醸成しやすい環境にあった。

・ロシアの地政学的なリスクとしては、東からウラル山脈の南側から攻めてくるモンゴル、西には北ヨーロッパを介して攻め込んでくるドイツ騎士団、ナポレオンなどの脅威がある。ロシアは侵攻回廊を支配下に入れて、自国の安全を守るという判断をしている。

・欧州正面に軍隊を数多く配置した結果、ソビエトは対抗する軍隊を配置することになった。際限のない軍備費用増大が経済を圧迫した。ランドパワーであるため、長距離の輸送コストがかかったこと、また海洋を持たないため、物資輸送、調達、経済活動を行うことが難しく、西側に比べて経済発展が遅れた。

・中国が持つのは以夷思想。神聖な中華を四方に夷が存在しており、それらから自国を守り、中華を統べることが目標。また夷を以て夷を制するという発想があり、ロシアを以て、米国と戦わせることで、中華を守り、進出していく機運をうかがっている国なのだ。

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