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忘れられない先生

忘れられない先生と聞いて真っ先に思い浮かぶ先生が1人いる。

その先生は、とにかく威厳があって怖かった。

滅多なことでは笑わないし、多くを語らない。

グラサンをかけて笛を指でくるくる回して歩くもんだから

生徒が廊下でふざけて騒いでいても、ギロッと睨まれているようで

先生が近くを通るとみんなが一目散で教室に逃げ帰る。

そんな怖い先生だ。

なぜこの先生を思い出すのかというと、

彼こそが、僕の恩師だからだ。

中学サッカー部に在籍していた時に顧問でもあった恩師は、

多くを語らずとも、僕に大切なことをたくさん教えてくれた。

今日は、彼に教わった中で最も印象に残っている言葉について

書いてみようと思う。

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特に先生と深く関わっていたのは、中学2年の秋からだ。

職員室に突如として呼び出され、

最初は何か悪いことをしてしまったのかと内心おどおどしていた。


先生のデスクに向かい声をかけると、突然こんな声をかけられた。

「今日の部活で、お前を部長にするとメンバーに伝える。」

小学校時代もサッカーの少年団でキャプテンを務めていたし、

中学でもそういうポジションになるんだろうな、と薄々思っていたから

意外には思わなかった。

「わかりました。」

そう返事をして職員室を後にしようとした時、

普段あまり1対1で話すことがなかった先生が

たった一言、先生が僕に対して声をかけてくれた。

この言葉が後に僕の人生で最も大切にする事になる。


「お前、自分のものさしで測るなよ。」


その時、僕は「はい。」と返事をするまでに少し時間がかかったと思う。

先生の言葉の意味を、少し考えていたからだ。


僕はチームがあまり強くなかったこともあり、

中学1年生から先輩に混じって公式戦の試合に出ていた。

自分に自信を持っていたこともあり、チームでの発言力も強かったので、

意見を言ったり要求をするときもあまり言葉を選ばないような人間だった。

でも、部活というのは全員が同じ熱量でサッカーをしているわけではないし、

レベルも人それぞれだから、

チームメイトのことを考えて行動や言動をしなさい。

当時僕が解釈したことは、こういうことだった。

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解釈ができたからといって、実際に行動できるかと言われれば

残念ながら、そうではなかった。

最初は、チームメイトと話題を合わせて仲良くなろうとして、

色んなことをやってみた。

チームメイトの中で流行っているテレビ番組のことを調べて話題に入ってみた。

校則違反のカードゲームを一緒にやったり、

放課後買い食いをして交流を深めようとした。

そうすればきっと、彼らも練習の時に僕の話に耳を傾けてくれるだろう。

メリハリをつけてやってくれるだろう。

そう思っていた。

でも、現実はなかなかそんなうまくはいかなかった。

練習では不真面目なままだし、

なんかだらだらしていて締まらない練習が続いて実際に先生からも何度も叱られた。

練習以前に練習態度の部分で何度も何度も怒られ、

僕は嫌になってしまった。

次第に僕は怒りをモノにぶつけるようになっていた。

チームメイトの前でボトルを蹴ったり、

ボールを倉庫のシャッターに蹴り当てたり、

それはそれはひどい態度で怒り狂っていたと思う。

同級生のチームメイトは、そんな僕がきっと大嫌いだったのだろう。

次第に僕は孤立していってしまった。

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そんな僕に、先生は何も言わなかった。

そりゃボトルを蹴っ飛ばした時はこっぴどく怒られたし、

先生に反抗的な態度をとった時も、みんなの前でとにかく怒られた。

でも、部長としての僕に対しては、本当に何も言わなかった。

「最近どうだ」って近況を聞いてくることもしないし、

「こうしなさい」とかアドバイスをしてくることもない。

部長として先生から言われたのは、あの職員室での

「自分のものさしで測るな」という一言だけ。

結局、中学を卒業して高校に上がっても、それ以上の言葉はなかった。

当時の僕は「たまには気遣って声をかけてくれてもいいじゃないか」とか

「もう呆れられているんだろうな」と思っていた。

呆れられていたのは9割くらいあるのかもしれないが、

先生は「自分で考えて行動してみろ」という無言のメッセージをずっと与えてくれていたのではないかと思っている。

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中学時代、うまくいなかった経験から、

僕は高校、大学、社会人とこの言葉を大切にしている。

1人1人に「ものさし」がある。

というのは大人になるにつれてわかるようになってきた。

自分のものさしだけで全てを測らず、

色んなものさしを見て考える重要性を、恩師は教えてくれた。


僕が先生を目指して教員免許を取ったのも、

今、教育業界で働いているのも、

その恩師が最初のきっかけとなるのはいうまでもないだろう。


おしまい

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