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司法試験予備試験の民事訴訟法の勉強法を過去問から逆算してみた結果……?!

★司法試験/予備試験受験生向け記事まとめはこちら★

 前回の記事では、論文過去問の取り組み方を紹介しました。
 ここで私が伝えたかったことの一つとして、普段の学習法(勉強法)を論文過去問から逆算すべきということがあります。
 そこで今回は、その実践編として、令和2年度の予備試験民事訴訟法の過去問を題材にして、民事訴訟法の学習法を考えてみたいと思います。
 詳しくは後述しますが、どうやら令和2年度の出題と”ある本”との相性が良すぎることがわかりました。もはやタネ本(出題の元ネタとなった本)であるといっても過言ではないレベルで、です。
 まずは、その令和2年度の過去問の検討の前に、令和元年度の過去問との関係で読むべきであった本について、簡単にご紹介します。

●令和元年度予備民訴から勉強法をざっくり逆算

 (問題文はこちら
 結論からいうと、令和元年度の問題と相性が良かったといえるのは以下の4つの教材です。

・旧司法試験過去問
・予備試験過去問
アガルートの論証集
リーガルクエスト民事訴訟法

 これらの教材が、どのように相性がよかったのかを見ていきましょう。

  ・旧司法試験過去問

 民訴法に限りませんが、旧司法試験の過去問で出題された分野・論点が予備試験で再び出題されることは珍しくありません。
 令和元年度の問題との関係でいうと、令和元年度設問1は、旧司昭和44年度第1問との関連性が強く、この問題を解いていれば有利に立ち回れたでしょう。(旧司の問題文はこちらから
 令和元年度設問2については、そのものズバリの過去問はありませんでしたが、昭和38年度第1問や昭和40年第1問から学ぶことのできる条文の趣旨が頭に入っていれば、令和元年度の問題も現場思考で対処可能でした。
 旧司法試験過去問を解説している本としては、①論文基本問題120選、②スタンダード100、③解析民事訴訟の三冊があります。
 ①論文基本問題120選(又は②スタンダード100 )と③解析民事訴訟を組み合わせて使うと効果的です。

  ・予備試験過去問

 予備試験の対策として予備試験の過去問をマスターしておくことも重要です。予備試験だけでも過去問の蓄積は10年分もありますしね。再度の出題がされても驚きはありません。ちなみに、民事訴訟法だけでなく、商法(会社法)でも再度の出題が目立ちます。最近では、伊藤塾生が使っている問題研究という論文問題集にも予備試験過去問の答案例が掲載されているそうなので、伊藤塾生以外の予備試験受験生としても予備過去問はマストです。
 令和元年度の出題との関係だと、その設問1において、平成23年度の過去問から学べる知識が役立ちました。
 民事訴訟法の予備試験過去問を解説した本としては、こちらの記事で紹介した伊藤塾の予備赤本がおすすめです。最近改訂されたばかりなので、平成23年度から令和元年度までの過去問解説が収録されています。

  ・アガルートの論証集

 たかが論証集、されど論証集。民事訴訟法で出題される論点には難しいものが多いので、論証集を読んだって意味ないと思っちゃうかも知れません。
 逆です。難しい問題を解くために、論証集で身につけられる基礎知識が重要となってくるのです。また、そのような論証集の中でも、アガルートの論証集が一番おすすめです。

 令和元年度の過去問との対応関係について見てみましょう。
 設問1につき、「通常共同訴訟と固有必要的共同訴訟の区別」(239頁)、「当事者の確定基準」(147頁)、「死者を当事者とする訴訟」(149頁)の3つの論証が役に立ちました。正直、これらの論証が頭に入っていれば答案の骨子は完成します。あとは当てはめ勝負ってところです。
 設問2につき、「係争物の仮装譲渡と既判力」(227頁)の論証が役に立ちました。ただこの論証、なぜか裁判例の立場を否定したうえで学説を採用してしまっていて、受験生の多数派が立つであろう見解から距離感があります。工藤北斗先生はなんでここで学説をとったんでしょうかね。裁判例の立場を紹介した上で批判できているので悪くはないとは思いますが。
 なにはともあれ、アガルートの論証集が令和元年度の試験との関係で威力を発揮できていたことがわかりましたか?論証集を理解して覚えることは超大切です。

  ・リーガルクエスト民事訴訟法

 クソ分厚い基本書ですが、近年の司法試験や予備試験においてタネ本となっているのではないかと囁かれています。

 本書は、4人の先生による共著であるのですが、その共著者のひとりである笠井先生は令和元年度の考査委員です。そういうことです。
 令和元年度の試験との対応関係について、該当箇所を引用してるとあまりにも長くなってしまうので、リークエの頁数をここに書いておきます。
 ここから先は自分の目で確かめてみよう!(攻略本的なアレ)
 設問1 → 550頁、95〜97頁、594頁
 設問2 → 459頁

●令和2年度予備民訴はどんな問題だったか

 次に令和2年度の問題の検討に入ります(問題文はこちら)。
 どんな本との相性が良い問題だったのかはさておき、まずはどのような出題がされて、どのような知識・思考力が求められていたのかを把握しましょう。

  ・設問1

 まず設問文に着目します。
 問われているのは、①「受訴裁判所は,本訴についてどのような判決を下すべきか」、②「本訴についての判決の既判力は,当該判決のどのような判断について生じるか」の2点です。また、①については、「判例の立場に言及しつつ,答えなさい。」との指示がついている点に要注意です。

 では、問題の中身に入りましょう。
 設問1を解くうえで必要と思われる基本的知識は以下の通りです。

㋐債務不存在確認の本訴に対して給付請求の反訴を提起した場合の処理
㋑債務不存在確認請求の訴訟物の範囲
㋒不法行為に基づく損害賠償請求の訴訟物の単一性
㋓一部請求の訴訟物の範囲
㋔処分権主義の理解(+一部認容判決の肯否)←必要ないかも?
㋕訴え却下判決の既判力 ←重要度低

 これらの基本的知識の中でも、中心となってくるのは㋐で、㋑〜㋕までの知識は㋐の検討の中で触れられていくというイメージです。
 チマチマと解説するよりも、答案例を読んだほうが理解は早いと思いますので、以下で私が書いた答案例を示します。

令和2年度予備民訴_page-0001

令和2年度予備民訴_page-0002

令和2年度予備民訴_page-0003

 私の答案例について少し補足します。
 この問題は、基本的知識を使って書ける問題だったとはいえ、登場させなければならない基本的知識が多く、どのような順序・構成で文章を組み立てるかが悩みどころだったのではないかと思われます。
 私の答案は、紙面の制約との関係で不自由を強いられながらも、論理の流れはエレガントにあれということを強く意識して書いています。そのため、やむを得ず省略した記述もあります。
 他の予備校が出している解答速報の答案例と毛色が違っていますので、見比べてみてもよいかもしれません。
 それと、判例への言及の仕方が難しかったです。判例の見解を紹介するにしても、理由付けは必要でしょうし、判例の射程を意識していることをどうアピールするかも悩ましい。
 こういうパターンの出題に慣れるためにも、過去問の(現実的な)完全解を書く訓練をしておくのは大切ですね。
 本問の詳細な解説は、次章において、書籍の記述と照らし合わせながらしますので、ひとまずは設問2について見てみましょう。

  ・設問2

 設問文によると、「後訴においてYの残部請求が認められるためにどのような根拠付けが可能か」ということが問われており、ここでも「判例の立場に言及しつつ」との指示があります。
 また、「前訴におけるX及びYの各請求の内容に留意して」とありますから、答案ではXの請求との関係とYの請求との関係とを、それぞれ論じる必要があるといえます。「Yの立場から論じなさい」という指示も重要です。

 ともあれ、解説の中身については、以下の答案を御覧ください。 

令和2年度予備民訴_page-0004

令和2年度予備民訴_page-0005

 先ほど述べた通り、設問文の指示に従い、私の答案は「1.前訴におけるYの請求との関係」と「2.前訴におけるXの請求との関係」に分けて論じています。
 設問2では、設問1よりも必要とされる基本的知識の数は少なかったものの、上記のどちらの請求との関係でも触れるべき判例があったことから、論理的・説得的に書くのが難しかった印象があります。
 予備試験(司法試験)で「判例に言及すること」を求められた場合の出題パターンとしては、①判例そのまま乗っかるパターン、②判例の事案との違いを指摘して結論をズラすパターン、③判例理論を批判して異なる立場(学説)から論じるべきパターンとがあります。設問1と設問2の「1.」では、②のパターンでしたが、設問2の「2.」は①のパターンでした。

●令和2年度予備民訴からみる最新傾向〜これからの時代のタネ本〜

 さて、私は本稿の冒頭において、令和2年度の出題と相性の良い本があると述べました。今回、R2年度予備民訴の答案を書いてみて、その相性の良さをますます実感しました。
 ヘッダーの画像をみて薄々気付いている方もいるとは思います。
 これが、令和2年度以降の予備試験(司法試験)で読むべき本です。

勅使川原和彦「読解 民事訴訟法」(有斐閣、2015年)

 こちらの本(以下「読解民訴」といいます)は、民事訴訟法で学習者が勘違いしやすいような知識について解説がされていることから、民訴法の副読本として前々から受験生に定評がありました(ネットで書籍名を検索すれば同書の評判はたくさん出てきます)。
 しかし、令和2年の今、改めてこの読解民訴に注目すべき時が来ました。
 なぜならば、著者の勅使河原先生が司法試験(予備試験)の考査委員に就任されたからです。
 考査委員の著作を漁ってヤマを張るという行為をよく思っていない方もいらっしゃると思いますが、この令和2年度の出題から読み取れるメッセージを見逃してはなりません。
 令和2年度の出題は、読解民訴の記述を意識しています。
 
もちろん、令和2年度の問題は、基本的知識から現場思考を重ねることで十分に解答することができる問題だったので、読解民訴を読まなければいい評価をもらえない、というわけではありません。
 ただし、読解民訴に書かれていることが理解できていれば、より説得的な答案を書くことが可能ではないかと私は考えています。
 (考査委員が書いた本から問題が作られているというのは、あまり印象が良くないと考える人もいるでしょうが、今回、読解民訴をもとに作問されたのはさして問題ではないと私は思ってます。元々受験生向けに書かれた平易かつ工夫が盛り込まれた本で、その著者の先生が考査委員になったというわかりやすいサインもでていたのですから、むしろ読解民訴を読むということは宿題みたいなものと言ってよいでしょう。ロースクールの講義という閉鎖空間の中で試験に出る論点をこっそり教えるなんてことに比べたら、全然健全じゃないですか?)

 それでは、令和2年度の問題と読解民訴が、どのように相性が良かったのか見てみましょう。

 ・設問1との関係

 前章でみた通り、設問1では、「債務不存在確認の本訴に対して給付請求の反訴を提起した場合の処理」がメインで問われていました。この論点に関して、読解民訴では120頁〜127頁において触れられています。
 ただ、読解民訴の当該ページで掘り下げられていた応用論点について出題されたわけではありません。その応用的な議論の前提として書かれていた基本的知識の確認部分が令和2年度の試験で役に立った、というものでした。
 基本的知識だったら他の基本書や論証集で十分のようにも思えますが、読解民訴には他の書籍にはない良さがあります。基本的知識の掘り下げ方が絶妙なのです。以下の記述を御覧ください(太字は本稿筆者)。

 「そもそも,なぜ後行給付訴訟②の提起によって,先行消極的確認訴訟①の「確認の利益」が失われるのか。
 先行消極的確認訴訟①も後行給付訴訟②も,同一の給付義務の存否を審理対象としており,既判力もそれについての判断に生じるが,確認訴訟①では既判力しか生じないのに対し,給付訴訟②ならば既判力に加え執行力まで生じうる。このような紛争解決機能の大きさ,換言すれば,給付訴訟②の判決効の範囲が,確認訴訟①の判決効の範囲を全面的にカバーしている,すなわち完全に包摂している関係にあることが,確認訴訟を残存させる意味がもはやないこと=確認の利益が喪失していることを根拠づけている。」(124-125頁)

 ここでは、消極的確認請求に対する給付請求の反訴提起によって、本訴の消極的確認請求の確認の利益は欠くことになるとした判例(最判H16.3.25)の結論に対する勅使河原先生の理由付けが書かれています。
 給付請求に執行力が認められている点に着目して、消極的確認請求の確認の利益を欠くものとすること自体は他の基本書等で触れられています。ただ、「判決効の範囲を全面的にカバー」とか「完全に包摂している関係」というフレーズは、他の基本書等ではみられません。
 このフレーズは、令和2年度の設問1の答案を書くにあたって重要な伏線となります。
 そもそも、この設問1で問われていたのは、「全部の消極的確認請求に対して一部の給付請求の反訴を提起した場合、確認の利益を欠くことになるか」という現場思考論点でした。
 以下の私の答案を御覧ください。

令和2年度予備民訴_page-0001のコピー

 ここでは、判例法理の紹介と、その理由付けを書いています。そして、理由付けを書くにあたっては、読解民訴の記述を参考にしました。
 答案の紙面が限られているので、読解民訴の記述をそのままコピペをすればよいというものではなかったので、ある程度要約していますが、ただ、「完全に包摂している関係」というフレーズはは省略しないよう心がけました。
 この伏線が活きてくるのが、私の答案の次の箇所です。

令和2年度予備民訴_page-0001のコピー

(中略)

令和2年度予備民訴_page-0001のコピー

(中略)

令和2年度予備民訴_page-0002のコピー

 このように、判例の理由付けに一工夫することで、完全な包摂関係か不完全な包摂関係かによって、判例の射程を区別することができるようになりました。我ながらエレガントな論理の運び。
 まあ、これくらいだったら、現場思考で思いつかないことはないので、読解民訴を読まなければわからないほどのものではありません。
 そうだとしても、読解民訴と令和2年度の問題の相性が良いとはいえるのではないでしょうか。

 ちなみに、請求の包摂関係を検討するにあたっては、既判力の範囲についての理解が必要となってくるのですが、このあたりは読解民訴の「Unit8 「既判力」の使い方 その2」(149頁以下)が参考になります。別にこれはUnit8が設問1の元ネタだったわけではないとは思いますが、設問文で「既判力は・・・生じるか」という書きぶりとなっていたのは意識されていたのかなと思ったり。

 ・設問2との関係

 既に述べた通り、設問2では、前訴のXの請求と後訴の関係、前訴のYの請求と後訴の関係、それぞれについて論じることが求められていました。
 この2つの論理構成は、読解民訴171頁以下の「Unit9 判例における「一部請求」論」において、2つとも紹介されています。うまい具合に整理されています。

 まず、前訴のYの請求との関係について検討してみます。
 ここで言及すべき判例は、最判H10.6.12です。この判例は、読解民訴175頁以下の「1 明示していても,残部請求が許されない場合」にて紹介されています。
 ただ、この判例は結論として信義則による後訴の主張の遮断を認めてしまっているので、設問文の「Y側の立場から」論じるという指示を遵守するため、本件において判例の結論と逆の結論(主張の遮断を認めないこと)を導く必要があります。こういった場合、判例との事案の違いを強調する方法と、判例法理を批判して異なる立場を採用する方法がありますが、司法試験(予備試験)が実務家登用試験であることを意識するならば、後者よりも前者により判例と逆の結論を導くことが望ましいです。
 では、判例との事案の違いを指摘するため、例えば判例百選の事案の概要に書かれていることを暗記しなければならないかというと、必ずしもそうとは限りません。この問題との関係でいうと、判例が示した規範の知識・理解と、その規範が導かれた理由の理解ができていれば十分でした。

 そもそも、上記のH10年最判は以下のような規範を示しています。

 「金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは,特段の事情がない限り,信義則に反して許されないと解するのが相当である。」(太字は本稿筆者)

 この規範のうち、太字の部分以外の箇所を覚えておくことは当然として、この問題を解くにあたって重要なのは「特段の事情がない限り」という部分です。
 判例の規範でよく見られるフレーズですが、要するに、本問ではこの特段の事情が認められるから、判例とは異なる結論を導くことができると論じることになります。論証集にも載っているフレーズですので、こういったところは注意深く覚えましょう。

 次に、判例の規範の理由付けを理解することについて、読解民訴で以下のような重要な記述があります。

 「原告が一部請求であると明示している以上,(既判力の及ばない)残部の訴求がありうる(既判力によっては封じられない)ことを「信頼(覚悟)」すべきである,というのが既存の既判力ルールによる「信頼」である。
 しかし,平成10年最判は,金銭債権の数量的一部請求の場合は,①「当該債権全部を必ず審理対象とする」ということ,かつ,当該請求(明示的一部請求)を一部でも棄却する際には,②「判決主文としては表明されなくても,残部請求が存しないことも必ず判断している」ということを梯子として,「既判力が及ばない=後訴残部請求がありうる」という信頼よりも,残部が既にないからこそ,一部請求ですら〔全部ないし一部〕棄却になる,という論理的帰結から,「前訴の確定判決によって当該債権の全部について紛争が解決された」と被告が「期待」していると考え,被告のそうした「期待」を「合理的」として保護すべきものとしている。」(175頁)

 読解民訴の記述はそのまま答案に書くには長いので、要約する必要はありますが、判例の理由付けを綺麗に言語化しており、この理解が判例の規範のいう「特段の事情」を判断するにあたって参考になります。
 これらの学びを反映させたのが、私の答案の以下の箇所です。

令和2年度予備民訴_page-0004

 私の答案の(3)で書かれていることは現場思考的なので、読解民訴を読んでいれば結論がすんなりと出てくるわけではありませんが、同書の表現を用いることで説得力が増しています。

 次に、前訴のXの請求との関係について見てみます。
 ここで言及すべき判例は
 ここでは、先程と打って変わって、判例の結論と同じ結論を導くことが求められています。判例と異なる結論を導くよりは難易度は低いでしょう。
 ただ、説得的な答案に仕上げるのであれば、判例がその結論を導いた理由付けから丁寧に書く方が適切です。
 この点については、読解民訴176頁以下の「2 明示をしていなくても,残部請求が許される場合(その1)」において有用な記述があります。

 「一部請求の明示が全くない場合には,原則として,禁反言ないし信義則上,前訴の訴訟物と後訴の訴訟物を「同一関係」と評価することで,前訴判決に既判力によって処理する,というのが,昭和32年最判(本稿筆者注:最判S32.6.7のこと)の処理だと私は考える。すると,明示がなくとも禁反言ないし信義則に反しない例外的な場合に限っては,前訴と後訴の訴訟物の関係を,既判力の及ばない異別の(=後訴請求は既判力によって封じられない)関係と評価できることになる。」(177頁)
 「後発後遺症や拡大損害のケース」「の場合,例外的に,後発請求をすることが禁反言や信義則に抵触するといえない事情(救済の必要性〔明示しないことについて原告の帰責性の不存在,被告に複次応訴を負担させても酷ではない状況,損害填補の必要性等〕)があるために、前訴の訴訟物と後訴の訴訟物とを「同一関係」と評価できず,結果的に,同一の債権について訴訟物が異別になる,すなわち「一部請求であった」ことに帰するという評価になるわけである。」(184-185頁)
 「後発後遺症や拡大損害のケースでは,前訴時点で,原告が残部を意識していないことが通常」(184頁の脚注28)

 上記の記述は、判例の規範の理由付けを考えるにあたって有用であるのみならず、規範への当てはめのためにも使えるものです。
 私が答案を作成するにあたっても、これらの記述を意識しました。

令和2年度予備民訴_page-0005

 勅使河原先生の判例の理解を答案に反映させるのは中々大変ですが、ここまで書くことで非常に説得的な答案になったのではないかと感じています。
 ただ、繰り返しになりますが、ここまで書けなくても合格しますからね。論証集に書いてあるようなことをパパって書いて現場思考で当てはめれば合格答案くらいは出来上がります。
 それでも、民訴を得意科目にしたいだとか、民訴で問題意識の取りこぼしがこわいというのであれば、読解民訴は非常に有用と思います。

 ・小括

 令和2年度の出題は、設問1でも設問2でも、判例への言及を求めているという点で特徴的でした。
 ちなみに、勅使河原先生は読解民訴の「はじめに」の「4 判例を丁寧にトレースすべし」において、判例を正確に理解することの重要性を説いています。令和2年度の出題は、このような勅使河原先生の想いが込められていると、私はそう感じました。
 来年の予備試験も同様の傾向に出た出題がなされることが予想されます。みなさんは、読解民訴を使うにしろ使わないにしろ、判例の理解を、薄くではなく、解像度高めで身につけることが必要となってきますね。

 ・↑の他に有用な教材

 令和元年度の予備民訴では、旧司過去問、予備過去問、アガルート論証集、リークエ民訴の4つの教材が有用だったのですが、令和2年度ではどうだったでしょうか。

  ・旧司法試験過去問
 設問1で理解が問われていた最判H16.3.25について、昭和47年度第2問設問2や、平成22年度第1問設問2小問(1)において出題実績がありました。
 設問2のうち、「前訴のYの請求との関係」で論じるべきだった最判H10.6.12について、昭和56年度第2問設問2や平成9年度第2問において出題実績がありました。

  ・予備試験過去問
 令和2年度の設問1で小さく問われていた「㋒不法行為に基づく損害賠償請求の訴訟物の単一性」という論点は、平成27.年度設問1で問われたことのある論点でした。この論点忘れがちですけど、予備試験で出題済みであったことから落とさないほうがよかった論点です。

  ・アガルートの論証集
 令和2年度の問題でも、アガルートの論証集は猛威を奮います。
 設問1につき、「手形訴訟と二重起訴」(186頁)、「債務不存在確認の訴え」(162頁)、「一部請求の可否」(164頁)、「形成判決・訴訟判決の既判力」(217頁)。
 設問2につき、「一部請求における残部請求の可否」(166頁)、「後発損害の賠償請求の可否」(169頁)。
 令和元年度同様、これらの論証をもとに答案の骨子を作ることは可能です。ただ、これらの論証を整理してバランス良く論じるのが難しいですし、読解民訴の記述から論証集の内容を修正したいところです。
 令和2年度の問題は、決して簡単なものではなかったでしょう。

  ・リーガルクエスト民事訴訟法
 令和2年度の問題とリークエ民訴の相性は、あまりいいものではありませんでした。だったら、リークエ民訴はもうタネ本じゃないのでは?と思うかもしれませんが、それは違うと思います。
 令和2年度の司法試験の方でリークエ民訴を意識した出題がなされたからです(詳しくは辰巳の解答速報を参照)。
 ちなみに、リークエ共著者の笠井先生は令和3年度の考査委員を務められないそうですが、ほかの共著者である菱田先生が笠井先生に代わって考査委員に就任されたそうです。なので、リークエはまだタネ本になるんではないかと思います。

 以上にみた通り、リークエ民訴はともかくとして、旧司過去問・予備過去問・アガルート論証集だけでも合格答案を書くことは可能です。読解民訴は、これらにプラスアルファして読めばいいと思います。

  ・その他の教材
 令和2年度の問題は、判例の深い理解について問われていたことから、判例百選を読んで勉強すればいいようにも思えます。
 確かに、触れるべきだった判例はほとんどが百選掲載判例だったことから、出題者サイドとしても、「百選に掲載されている判例の中から問題を作る」という意識がありそうです。
 ただ、百選をだらだらと読んでいても学習効果は、必ずしも高くはないと私は考えています。まず、百選に掲載されている判例の数が多いので、メリハリをつけて読み込む必要があります。百選掲載判例のどれが重要判例なのかは一概にいえませんが、とりあえず、アガルートの論証集に載っている百選判例は重要判例だということでいいです。それで、百選に書かれていることをアガルート論証集にフィードバックして一元化すればいいと思います。また、百選に書かれていることを答案に活かすのは大変なので、だったらいっそ、答案に活かしやすい読解民訴を読んだほうが早いような気がします。
 あと、民訴の演習書というと、ロープラクティスがありますが、個人的にこの演習書と心中することはおすすめしません。同書を読んで臨んだ令和元年度の問題に全く歯が立たなかったのがトラウマだからです。演習書をやるくらいなら、論証集読んで過去問やって読解民訴読んでたほうがいいです。

おわり

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