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【憲法・行政法】今一番使われている基本書は? 基本書シェアリサーチ 結果発表!

お待たせしました、2023年2月に実施した基本書シェアリサーチの結果発表記事を公開します!記事が長くなってしまう関係で、一度に全科目の発表をするのではなく、「憲法・行政法」「民法」「会社法・民事訴訟法」「刑法・刑事訴訟法」といったように、記事を分けることにしました。

結果発表と一緒に、私の(独りよがりな)感想を書いています。今回の投票は、投票が行われた前提条件を無視して結果だけ見てしまうと誤解を生じかねないと思ったため、そのための補足説明を加えるためでもあります。
今回の投票レギュレーションについてはこちらの過去記事に記載されている通りですが、特に留意すべき点は以下のとおりです。

  • 予備校テキストも一応投票対象としていたが、全体として投票数は少なかったので、予備校テキストのみで勉強している人はそもそも投票していないかも(∴今回の結果は受験生全体のシェアではない)。

  • 今回の投票対象者を、直近合格者のみならず、学習年数を問わない受験生としていたため、投票結果に偏りが生じている可能性がある(民法総則の基本書の投票数が多いなど)。

  • 投票者数は、科目毎に違います。また、各科目2票ずつ入れられるため、全体投票数よりも、各基本書総得票数が上回っています。

  • 各投票者が、どのような組み合わせで基本書を使っているかのデータは私のもとにありますが、全て掲載しているときりがないので、興味深いところだけ感想にて言及します。

また、今回の投票結果の画像をスクショなりしてTwitterにアップしたい方もいると思いますが、上記のような事情があるので、せめて画像と一緒に本記事のURLを貼り付けてくださいね!

◆憲法

投票者数=209

第1位 67票 32.1%
芦部信喜「憲法」(岩波書店)

第2位 59票 28.2%
渡辺康行、宍戸常寿、松本和彦、工藤達朗「憲法I 基本権」「憲法II 総論・統治」(日本評論社)(いわゆる「新四人本」)

第3位 53票 25.4%
木下智史、伊藤建「基本憲法I 基本的人権」(日本評論社)

第4位 52票 24.9%
安西文雄、巻美矢紀、宍戸常寿「憲法学読本」(有斐閣)

第5位 35票 16.7%
新井誠、曽我部真裕、佐々木くみ、横大道聡「憲法I 総論・統治」「憲法II 人権」(日本評論社)(日評ベーシック・シリーズ)

第6位 13票 6.2%
毛利透、小泉良幸、淺野博宣、松本哲治「憲法I 総論・統治」「憲法II 人権」(有斐閣)(リーガルクエスト)

第7位 12票 5.7%
高橋和之「立憲主義と日本国憲法」(有斐閣)

第8位 10票 4.8%
市川正人「基本講義 憲法」(新世社)

第9位(同率) 6票 2.9%
長谷部恭男「憲法」(新世社)

第9位(同率) 6票 2.9%
佐藤幸治「日本国憲法論」(成文堂)

第11位(同率) 3票 1.4%
渋谷秀樹「憲法」(有斐閣)

第11位(同率) 3票 1.4%
呉明植「憲法」(伊藤塾呉明植基礎本シリーズ)

第13位(同率) 2票 1.0%
青柳幸一「憲法」(尚学社) 

第13位(同率) 2票 1.0%
野中俊彦、中村睦男、高橋和之、高見勝利「憲法Ⅰ」「憲法Ⅱ」(有斐閣)(いわゆる「旧四人本」)

第15位(同率) 1票 0.5%
辻村みよ子「憲法」(日本評論社)
川岸令和、遠藤美奈、君塚正臣、藤井樹也、高橋義人「憲法」(青林書院)
伊藤真「憲法」(弘文堂)(伊藤真試験対策講座)
芦部信喜「憲法学Ⅰ 憲法総論」「憲法学Ⅱ 人権総論」「憲法学Ⅲ 人権各論(1)」
渋谷秀樹、赤坂正浩「憲法1 人権」「憲法2 統治」(有斐閣)(有斐閣アルマ)

 ・感想

最も投票数が多かったのは、知らない人はいない、あの芦部憲法でした。私としては、古典になりかけている芦部憲法のユーザーが最も多いというのは意外でした(※芦部憲法の第7版は2020年10月に発売されていますが、補訂者の高橋先生によって、脚注の記述の追加がされているだけで、芦部先生が亡くなられた1999年以降、その本文には変更が加えられずそのままとなっています)。「講義で教科書指定されているから買った」という人も一定数含まれていそうです。

ただ、憲法の基本書は他の科目よりも票がばらけていて、全科目ごとの最多得票基本書の中で芦部憲法は最も得票数が少く、つまり、憲法の基本書の受験生人気は分散しているということがいえそうですね。
とはいえ、受験生シェア率が高い憲法の基本書は、芦部憲法を除けばすべて共著の基本書です。結果的にそうなっただけかもしれませんが、共著≒平易な基本書を、受験生は求めているのかもしれません。
そもそも、憲法という科目は、一冊の基本書を読んでも、すぐ論文式試験の答案が書けるようなものではないと言われています(以下の伊藤建先生のツイートも同旨と思われます)。

「基本書だけでは答案が書けないとしても、基本書から学べることはある。それならばせめて、平易・オーソドックスな基本書を選んで、基本的な知識をまんべんなく身に着けよう」と、多くの受験生は考えているのかもしれません。実際、上位の基本書はどれもそのような志向があるように思われます。

ただ、それで単著基本書を敬遠するのは勿体ないんじゃないかと私は思います。共著の記述が平易であるというは、それだけ尖った記述が削ぎ落とされているということです。(私の想像ですが、)共著者の先生方が、書籍の内容をどのようにするかの編集会議の中で、「ここまで言い切ってしまっていいのだろうか」「私はそういう風に考えていないから、そういうことは書かないでくれ」などの発言を交わしていく中で、これまでどれだけ多くの牙が抜かれてきたことでしょうか(偏見)。
私は、「尖った記述」とか「牙」とか比喩的なことを言っていますが、要するに言いたいことは、共著の憲法の基本書は、違憲審査基準論についての記述が薄い(ことが多い)、ということです。

違憲審査基準論は、噛み砕いていうと、合憲性を判断するためのルールを予め決めてしまおうというもので、現在多くの受験生は、この違憲審査基準論というルールに従って憲法の答案を書くことが多いです。予め決められたルールがないと、どのように答案を書けばいいのかわかりませんよね。
しかし、予めルールをキッチリと決めてしまうと、柔軟な発想が失われてしまうという負の側面も指摘されるところです。日本の最高裁も、そのような予め示されたルールに縛られることを嫌っております。そして、一部の憲法の基本書からも、そのような空気感を感じることがあります。特に、共著の基本書に関しては、そのようなルールを示しすぎてしまうことへの忌避感を感じるところがあり、だからこそ、基本書を読んでも憲法の答案が書けるようにならないと言われているんじゃないのでしょうか。

一方、芦部先生は、日本における違憲審査基準論のパイオニアと評されるような方であり、違憲審査基準論を推し進める中で、率先して、カテゴリカルな(=「こういう場合はこのように判断する」と予め決められた)憲法理論を構築しようとしてきたと思います。実際、芦部先生の基本書でもそのような姿勢が見られており、だからこそ今でも受験生人気があるのでしょうね。
もっとも、芦部憲法は、行間があるから読みにくいとも言われることがあります。さらに、芦部先生の作ったカテゴリの一部には、現在では批判の対象となっているようなものもあり、芦部憲法の記述を全てをそのまま受け入れてしまってよいか躊躇いも感じられるところです。

ならば、芦部憲法以外の、最新の単著基本書を読めばいいじゃないか。特に、長年、違憲審査基準論をベースに憲法を研究されてきた方々の基本書からは、多くのことを学ぶことができるでしょう。今回のランキングで票の入っているところでいうと、高橋立憲主義、長谷部憲法、佐藤憲法、渋谷憲法といった基本書は、そのような期待に応えてくれるものと思います。
ランキング内にはありませんでしたが、昨年7月に第4版が発売された松井憲法も、違憲審査基準論についての検討が比較的厚く、おすすめです(同はしがきによると、同書は「2冊目の教科書となることが企図されている」とのことです。)。また、最近発売された君塚憲法も、受験生の答案作成に役立つ基本書であるとの評判をネットで見たことがあります(私は未見です)。
要するにですね、基本書はいろんなものをたくさん読みましょう!(憲法に限らず、脳死で1位2位の基本書を選ぶのはやめようね!)

◆行政法

投票者数=212票

第1位 136票 65.1%
中原茂樹「基本行政法」(日本評論社)

第2位 56票 26.8%
櫻井敬子、橋本博之「行政法」(弘文堂)(いわゆる「サクハシ」)

第3位 24票 11.5%
宇賀克也「行政法概説Ⅰ -- 行政法総論」「行政法概説II -- 行政救済法」「行政法概説III -- 行政組織法/公務員法/公物法」(有斐閣)

第4位 20票 9.6%
大橋洋一「行政法Ⅰ 現代行政過程論」「行政法II 現代行政救済論」(有斐閣)

第5位 13票 6.2%
塩野宏「行政法Ⅰ -- 行政法総論」「行政法Ⅱ -- 行政救済法」「行政法Ⅲ -- 行政組織法」(有斐閣)

第6位 10票 4.8%
村上裕章「スタンダード行政法」(有斐閣)

第7位 8票 3.8%
宇賀克也「行政法」(有斐閣)(いわゆる「宇賀レインボー」)

第8位(同率) 5票 2.4%
板垣勝彦「公務員をめざす人に贈る 行政法教科書」(法律文化社)

第8位(同率) 5票 2.4%
野呂充、野口貴公美、飯島淳子、湊二郎「行政法」(有斐閣)(ストゥディア)

第8位(同率) 5票 2.4%
藤田宙靖「新版 行政法総論 上巻」「新版 行政法総論 下巻」(青林書院)

第11位(同率) 2票 1.0%
稲葉馨、人見剛、村上裕章、前田雅子「行政法」(有斐閣)(リーガルクエスト)

第11位(同率) 2票 1.0%
曽和俊文、山田洋、亘理格「現代行政法入門」(有斐閣)

第13位(同率) 1票 0.5%
橋本博之「現代行政法」(岩波書店)
伊藤真「行政法」(弘文堂)(伊藤真試験対策講座)
曽和俊文「行政法総論を学ぶ」(有斐閣)
市橋克哉、榊原秀訓、本多滝夫、稲葉一将、山田健吾、平田和一「アクチュアル行政法」(法律文化社)
木村琢麿「プラクティス 行政法」(信山社)
芝池義一「行政法読本」(有斐閣)
小早川光郎「行政法 上」「行政法講義 下Ⅰ」「行政法講義 下Ⅱ」「行政法講義 下Ⅲ」(弘文堂)

 ・感想

行政法の一番人気の基本書は、大方の予想通り、基本行政法でした。
基本行政法は、論文式試験の答案を書くことにコミットした基本書であり、従来の行政法の基本書とは一線を画するものとして、初版が発売されて以来、そのシェアを伸ばしていたそうです。

ただ、行政法の基本書の中で圧倒的シェアを誇る基本行政法であっても、パーセンテージでは60%強にとどまります。これは、基本行政法は初学者には難しいという事情が影響していそうです。今回のリサーチ対象者は、直近合格者や今年の受験生のみならず初学者も対象としていたため、初学者の方は基本行政法を使って勉強していない、ということが関係しているのでしょうか。

私は、学部2年生の頃に、当時出たばかりの基本行政法第2版を、はじめての行政法の基本書に選びました。しかし、読んでも読んでも頭の整理ができず、結局どういう頭の使い方をして基本行政法の記述に向き合えばいいのかわからなかったため、行政法の勉強をストップさせてしまった記憶があります。後に私は、基本行政法を読む前に薄めの教科書を読んで基本的理解を身につけるべきことに気付きました。私が選んだのは橋本先生の現代行政法です。
今では、ストゥディアや日評ベーシックなど、行政法の薄めの教科書が充実してきていますが、今回のシェアリサーチだと、そういった本にあまり票があつまっていないようです。これは、今回の一人あたりの投票先が2つまでであったことが影響して、「今は薄めの教科書をメインで使っていないが、かつては使っていた」という人も一定数居そうなので、必ずしも人気がないとは言い切れないでしょうね。

また、基本行政法は、「答案を書くための基本書」としてユニークさを持っていたわけですが、最近では、カエデ本行政法解析の技法など、答案を書くための考え方について言語化された画期的な参考書類が登場してきたほか、単行本化されていませんが、最近まで法学教室にて連載されていた「行政法教室——トピックで学ぶ」も、答案を書くために有益な考え方や視点について触れており(ちゃんと連載に目を通せていませんが、少し拝見した感想)、これもいつかは単行本化されるでしょうから、基本行政法一強時代の終わりを迎える日が来るかもしれません。

さて、今回の投票結果全体に目を向けてみましょう。上記ランキング内の基本書を見ると、「一冊本」と「分冊本」の2種類あることがわかります。1位の基本行政法と2位のサクハシは一冊本で、3,4,5位では分冊本の基本書が続いています。ただ、基本行政法も一冊本とはいえ、異彩を放つ基本書でありますから、「基本行政法」「それ以外の一冊本」「分冊本」という分類が適切かと思われます。

私は、基本行政法だけでなくサクハシも一緒に使っていました。理由はいくつかありますが、予備試験の短答対策目的だと、サクハシのほうが使いやすいという点が大きかったです。今回の投票で、基本行政法しか使っていないと回答した方は73/136人もいる一方、基本行政法とサクハシの両方に投票した方は27/136人と、一定数いらっしゃいました。同じ(広義の)一冊本なのにと思われるかもですが、私的にはおすすめな組み合わせです。
サクハシ以外にも、スタンダード行政法など他にオススメな一冊本系の行政法基本書はありますので、ぜひ書店等で中身を確認した上で選んでみてください。

また、分冊本に投票された方の中で、基本行政法と併用する方とそうでない方とで半々いました。基本行政法も、誰もが使っているわけではなく、合わないと言っている人もちらほら見ます。そういった方は分冊本の基本書を好む傾向があるのかなと、結果を見ながら思っていました。
そもそも、司法試験や予備試験に、分冊本の情報量が必要なのかは争いがありそうですね。私は、調べ物用として曽和先生の「行政法総論を学ぶ」と、単行本化していない法学教室の連載である「行政救済法を学ぶ」をコピーしたものを使っていました。辞書用としてあるに越したことはありませんね。

この記事を読んでいる初学者の方向けに繰り返し述べておきますが、基本行政法は、一位になるだけあってオススメな基本書です。しかし、初学者が一冊目として基本行政法を選ぶのはおすすめしません。遠回りのようですが、薄い教科書から読み始め、カエデ本のような参考書類で行政法の基本的な考え方をイメージできるようになった後に、さらに強くなるために基本行政法を読むほうが確実です。こんなランキングを何も考えず見ているだけじゃあいけないよ!

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