見出し画像

書く習慣 Day8 | 最近怒ったこと

めずらしく人がまばらな東京駅を息を切らしながら小走りで進む。目指すは19時38分発の新幹線「はやぶさ」。右手にはスーツケースの取っ手、左手にはiPhone。画面には「19:28」と出ている。タイムリミットはあと10分。

すると目の前に突然、小太りの知らないおっさんが現れた。無言で私の前に立ちはだかるおっさん。「あの、通りたいんですけど……」と遠慮がちに声をかけた。するとおっさんはうつむいたまま、「はやぶさ、乗りますか?」と尋ねてきた。はやぶさ?はやぶさって、いま私が乗ろうとしている新幹線はやぶさ?「はぁ、乗りますけど」と答えると、安心したようにフゥと息を吐いて「それならよかった」と呟きくるりと背を向けどこかへ去って行った。何なのだいまのは。左手のiPhoneを見る。19:30。

おいおい貴重な2分を無駄にしたぞ。少しイラつきながら改札を目指す。スーツケースがやけに軽いがいまはそんなこと気にしていられない。とにかく急ごう。すみっこ大好き族の私のことだ。今回もいちばん端の車両の先頭A席を取っているに違いない。ホームに着いてからまた歩く時間を考えると、19:35にはホームに上がっていたい。

すると、少し先に改札口が見えてきた。よし、切符を…… とポケットに手を入れたところで右斜め後ろから声をかけられた。「ちょっとあなた!もしかしてはやぶさに乗るの?!」ギョッとして振り返ると、知らないおばさんがいた。派手なピンクのストールを首に巻いている。なんだよさっきから。こっちは急いでるんだ。「え?はい乗りますけど?」と少々イラつきながら答えると、「あら~!よかったよかった!それなら安心だわ!でもねぇ、あなたとても急いで乗ろうとしているようだけど、それってなんの意味があるのかしら?」とキョトン顔で尋ねられた。

「……はい?」こちらも負けじとキョトン顔で返す。「なんの意味がって、 いや、だってもう切符も買ってるしこれに乗らなきゃ……」と、言いかけてふと気付いた。あれ?言われてみれば私、どうして19:38発のはやぶさに乗ろうとしているんだろう。切符、いつ予約したんだっけ。席はたぶんA席だと思う。いや待て、なんで席が曖昧なんだ。そもそも私、はやぶさに乗ってどこに行こうとしてるんだっけ。どうしよう。行先が、わからない。

一気に迷子になった気分だ。さっきまで全力ではやぶさに乗ろうとしていたのに。

すると、周りの様子がさっきと違うことに気付いた。みんながこちらを見ながらヒソヒソと何か話している。「ほら見て、あの子だよ」「急いだって意味ないのに」「はやぶさに乗れるわけがない」「恥ずかしいねえ」「やだやだ」

直接声は聞き取れないのに、なぜか言っていることがはっきりとわかる。なんだ、悪口か?どうして見ず知らずの人たちにそんなこと言われなくちゃいけないんだ。

私のなかで、何かがプツりと切れた。

そこからはあまりよく覚えていないのだが、一心不乱に叫びまくった。自分が知りうる、ありとあらゆる罵詈雑言を吐きまくった。怒りで我を忘れるとはこのことだな、と冷静な自分もどこかにいたけれど、「私はいま怒っているんだ!」という事実をこの世のすべての人間に知らしめたいという欲望だけで叫んでいた気がする。



と、ここで目が覚めた。息も絶え絶え、顔は涙でぐしゃぐしゃ。つい3日ほど前のできごと。

そう、いわゆる夢オチってやつです。
でも「最近怒ったこと」と言えばこれなんですよ。この夢の話。

自分で言うのも何ですが、ふだんまったくと言っていいほど怒らないんです。多少イラっとすることはありますが、怒ってるぞ~ぷんぷん!って感じにはならない。

「怒り」のエネルギーってすさまじいじゃないですか。発する方も受ける方も、いろいろなものを消費する。だから極力怒りたくないし怒られたくない。

でも、この日にみた夢では人生でいちばん怒ったんじゃないかってくらい怒ってました。それはもう激おこでした。

何かの暗示なのか?夢占いでもしてみようかな。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?