女から力を奪うな 滋賀医大生2人が無罪になった事件でキレていること
滋賀医大生が3名で女子大生をレイプした事件で、3名のうち2名が無罪となりました。この事件について、わかっていることは以下の事実です。
この事件のとき、罪状はいま適用される「不同意性交等罪」ではなく、昔の「強制性交等罪」で裁かれた。
強制性交等罪では「被害者の反抗を著しく困難にする程度」の暴行や脅迫がなければ、犯人が有罪にならない。このことも問題視され、不同意性交等罪に変更された歴史がある。
今回無罪になった2人は強姦そのものをしていない。が、犯人の周りで強姦の撮影を担当しヤジを飛ばした。(追記、1人は性行為におよんでいたそうです。すみませんでした)
被害者は「嫌だ」「痛い」など明確な拒絶の言葉を何度も残した。
被害者は友人だけは先に帰すように懇願した。
これらの事実から「被害者の反抗を著しく困難にする程度」の暴行や脅迫があったか? が争点になった。
ただし、被害者は自分にとって不利な情報を隠していた事実があり、被害者の発言の信頼性が疑われた。
よって、裁判官は女性の証言の信ぴょう性に疑問が残るとして、女性の証言をすべて信頼できると認めた地裁判決を覆し、無罪を言い渡した。
ここまで知った時点で、私が抱いた感想は「自分がいつ冤罪に問われるかもしれないこのご時世に、証拠が信頼できないなら無罪になる日本の司法はちゃんとしているな」でした。
私はもともと性暴力の被害に遭われた方を支援しています。具体的には、性犯罪被害にあわれた方の被害届提出、検察への情報提供を実施しています。
だからこそ、被害届や陳述書で「隠し事をしない、嘘をつかない」ことは非常に重要だと知っています。特に、その事件において無罪・有罪がひっくり返りうるくらいの重要な情報を隠匿すれば、有罪も無罪になりえます。なぜなら、信頼できない被害の申し出によって無実の人が犯人にされてしまえば、司法の信頼は失墜するからです。
ところが、一部の方々のリアクションはおぞましいものでした。
裁判官が「女性の拒絶の意思は、卑猥な発言にすぎない」としたデマをもとに、罷免を求める署名が集まる
まず、裁判官が女性の拒絶の言葉が「卑猥なプレイの一環である」と判断したかのような、デマが広まりました。
そのうえで、デマに基づく誹謗中傷が裁判官へ向けられました。
さらに、このデマをもとに署名運動が行われました。
しかも、署名を集めた当初は「性的な行為の際に見られることもある卑猥な発言という範疇」というデマをもとに裁判官を責める内容でしたが、しれっと書き換わり、その文言が今は消えています。
このような投稿が多々見られることから、当初はデマをもとに署名運動が行われたことがわかります。
また、最初は「裁判官を罷免する」と強く述べていたにもかかわらず、デマに気づいてからは、以下の文言に変更されています。
つまり、多くの方がデマに踊らされ、裁判官を罷免すべきだと動き、さらにその後しれっと内容が変わってしまったのです。これでは、署名の意味がわかりません。署名とは、政治的な意見表明のひとつであり、中身を熟読してから行われるものです。
にもかかわらず中身がコロコロ変わってしまうのであれば、今後この署名の文面が「飯島健太郎裁判長に謝罪します」になってもおかしくないわけです。署名した人たちは、それでもいいのでしょうか。
デマを認めた後も「女性がこんなことを自ら望んでするはずがない」という女性差別が広まる
さすがに裁判官の発言はデマだとわかったあとも、今度は「常識に則れば、女性が自ら複数の男性と撮影込みのプレイに及ぶはずがない」という発言が登場し、なんとか最初に振り上げたこぶしを上げっぱなしにしようとする発言が出てきます。
長々と書きましたが、私が怒りを抱くのはこの部分です。もはや滋賀医大生2人が無罪になることが妥当かどうかではない。あまりに多くの人が「女の子は無力なのだから・貞節なのだから・自らプレイを希望はずなんてない」という、女性差別をナチュラルにおっしゃっていることです。
女性は「無垢で、貞節で、かわいそうだから」権力から遠ざけられてきた
われわれ女性は歴史上、長らく権力の座から遠ざけられてきました。なぜなら、われわれは「無垢で、貞節で、かわいそうな」守るべき対象だから、権力などというものにはそぐわないであろうと、バカにされてきたからです。
われわれは太陽であるにもかかわらず、添え物の月とされてきました。しかし、われわれは本来、太陽なのです。男性と同じ責任を持ち、自己決定できる、立派な人間なのです。
それを性被害にあった女性は「無垢で、貞節で、かわいそうなのだから」、証言で隠し事をするのも仕方ないと考えるのは、女性差別です。
仮に男性が性被害を訴えたとしましょう。そのうえで、男性が意図的に自分にとって不利になる情報を証言せず、犯人の女性を有罪にしようとしていたら、同じ意見が言えるでしょうか?
先ほど「女子大生がこんなことをするはずがない」という方々は、今度は男性の被害に遭われた方へ石を投げるのではないでしょうか? 「無垢で、かわいそうな女性」を冤罪で傷つけるなんて許せない! と。
男女ひっくり返したら「差別」になる言動は差別です。私は、成人女性を責任あるひとりの人間として扱わないすべての人に対し、反対意見を表明します。
この記事は2024/12/26まで無料公開し、その後はメンバーシップのみに公開します。
最後に、もしあなたが被害にあったら
性犯罪の被害に遭っても相手は無罪になっちゃうの!?
と不安になった、被害に遭われた方へ。まずは、この文章を読んでくれて、ありがとうございます。
あなたはおそらく、自分に落ち度があったかもしれない……と思うでしょう。自分が応じたのがいけなかった、事前に見抜けなかったのが悪かった。ほかの人より察しが悪かったのかもしれないと。
けれども、たとえ家に札束を積んでいる人がいて、それを見せびらかしたとしても、その札束を盗んだら悪いのは窃盗犯です。あなたが自分にとって「自分が悪かったかもしれない」と思う部分があっても、悪いのは犯人です。あなたは、悪くありません。
そのうえで、被害届を出すかどうかは悩むところだと思います。頭が混乱していて、それどころではないと思うのも当然だと思います。その場合はまず「当時の衣類を洗わずに保管する」「犯人とのやりとりがあれば記録を消さない」ことを意識してください。
また、あなたの体が傷ついている可能性もあります。もしまだ体を洗っていないなら、洗わないまま産婦人科へ行ってください。つらいとは思いますが、それが証拠になります。
スマホに犯人との記録が残っているのが耐えられないのであれば、別のスマホやカメラでそのメッセージの記録を撮影しましょう。スマホの画面を撮影するのです。それが証拠となります。
もし、息苦しい、外が怖い、食べられない、眠れないなどの症状があれば、急いで精神科や心療内科に相談してください。そこでの記録も、証拠になります。あなたが症状から記憶が飛んでしまったり、あやふやな意見を言ったとしても、初診からどんな相談をしてきたかが重要な証拠になるからです。
また、つらいときは日記をつけてください。あなたの心をいやすためでもありますが、証拠にもなります。
これらを行えば、犯人が正当に裁かれる可能性はかなり上がります。被害届を出すかどうかは、落ち着いてから考えれば大丈夫です。
あなたは、悪くありません。それでも、今は地獄かもしれません。けれども、生きていてくれて、本当によかった。あなたがまた、自分を大事にできる日が来ます。どうか今日という日を、生きのびてください。