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SNSの「面白い人」をどこまで面白がっていいのか問題 #トイアンナマガジン

私がTwitterで廃人をやっているのは、ひとえに面白い人が無限に転がっているからだ。Twitterが日本に広まり10年以上、次から次へと流星のように現れる素敵な人、面白い人に笑い、涙し、愛してきた。

Twitterは他人の集合体だから、時には「本気で何を言っているか分からない人」というのもたくさんいて、それがまた面白い。中でも私が惹きつけられたのが「キラキラアカウント」と呼ばれるグループだった。

キラキラアカウントとは、女性を名乗る人(中身は男かもしれない、そんな事実はどうでもいい)が、きらびやかな生活を披露したり、時には庶民を愚弄したりするアカウントだ。なんとも鼻持ちならない、けれどその失礼さがクセになる。というわけで、私はこの「失礼で、面白い人達」をフォローしてきた。

2015年にはキラキラアカウントのまとめページを作り、翌年アップデート版も公開した。

キラキラアカウントから「ビジネスアカウント」へ

こうして産まれたキラキラアカウントだが、徐々にその性別を拡張。男性だってキラキラしたいのだ。そして、男性はキラキラのキャリアを披露する傾向が強かった。

こうして、「ビジネスパーソンとしてのエリートぶりを披露する、ビジネスアカウント」が増えていった。直近では「GAFA所属」を名乗る人が急増したのを知っている方もいるだろう。

私の知る限りでも、実際は平社員なのにとあるグローバルカンパニーの部長を名乗っていたアカウントを知っている。こういう経歴詐称は、キラキラ・ビジネスアカウントにつきものだ。ヒラが部長を名乗るなんて普通のことで、下手するととある会社の派遣社員なのに管理職を名乗っていたり、住まいから地位まですべて虚像だったりする。

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だが、その人の発信しているビジネススキルは本当に役立つものが多かった。だから事実を聞かされても「ま・いいか」と思ったのだ。経歴がなんであれ、私はその人の投稿でマネジメントを学んだのだから。

それに、全くの虚像、というのも面白いじゃないか。そこまで徹底して嘘をつきとおすのは難しい。もし、この方が語る「家族で毎年訪れるバリの別荘」が、単なるリゾートホテルだったら…….。
もし、この画像がただの旅行管理会社から持ってこられた切り貼りで、本人は行ったことすらないとしたら……。

なーんて、その虚構をみんなで楽しむのがインターネットだと思っていた。

キラキラアカウントが買う妬み、そねみ、憎しみ

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そして、中には身元を特定され、実際に所属会社が明らかにされたり、素顔の写真までネットに流された人もいた。キラキラアカウントは他人を愚弄することが多いため、常に人から嫌われ、身元を特定されるリスクを負う。

私がキラキラアカウントの追っかけであることは周知の事実なため、私にはチクり……というか、膨大な量の「キラキラアカウントの正体」がメッセージやLINEで送られてきた。確かに、ひどい経歴詐称の証拠が大量にあった。中には「こいつを許せない。復讐してください」という一言が添えられて。

でも、虚構を楽しむのがルールじゃないか。もちろん、私は復讐代行人ではない。キラキラアカウントがいてくれるから、私は日々楽しく仕事をしたり、遊んだりしているのだ。感謝こそすれ、キラキラアカウントを恨む気持ちはまったくなかった。むしろ、アンチの手によってキラキラアカウントが消失することを恐れていた。

恋愛・婚活アカウントというジャンルの面白さ

その日も、私はとあるキラキラアカウントの「やらかし」を目にした。

それは、20代のキラキラアカウントだった。そして20代前半なのに、やけに婚活へ熱心だった。とはいえ、今の成人は25歳までに結婚したいなんてデータも見ていたので、不思議なことはない。

彼女はフットワークの軽さを活かして、次々と男性に出会っていった。そして、キラキラアカウントにありがちな、スペック(年収、地位)で男性を差別し、判断する姿を表した。彼女には圧倒的な量の批判と、そして面白がる取り巻きがわいた。私は取り巻きの方だった。

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もともと、私は婚活ブログを読むのが好きだ。男性が女性の話を聞きながら「このひと、話つまんねーな」と思っていたり、ランチで3,000円も奢らされて激怒したりする。自分は40代だけど、20代女性を希望する。それがだんだん「婚活ってそういうものじゃない」と気づいて変わり、理想の人と出会って結婚していく。

逆に女性なら、最初は自分の年収がほぼゼロなのに相手へ年収800万以上を望み、当然ながらお断りされつづけたり、遊び相手にされたりする。「なんで?」という苦労を乗り越えて、自分と相性がしっくり合う相手へ巡り合う。そういう苦労を乗り越えて結婚していく物語が、私は大好きだ。

恋愛や婚活では特に、相手へ望む条件の欲望がクリアに描かれやすい。匿名ということもあるだろう、男女ともにめちゃくちゃ高望みで、でも嘘はない。そして、尖った意見は面白い。私は純粋にエンタメとして、婚活男女の書くものを愛読してきた。自分も悪戦苦闘の様子を書いてきた。消費して、消費される。そういう関係にあったと思う。

あるキラキラアカウントの「やらかし」

そして、彼女は現実世界でやらかした。ここから先は、正確な経緯を書くと個人情報にあたるので「似た話」を書く。

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彼女はある男性とデートすることになった。しかし、新型コロナウイルスの影響もあって、初回から宅飲みにした。男性は「初めてのデートで家に上げてくれるくらいなら、少なくとも好意は抱いてくれているだろう。恋愛対象の候補には入れてもらえているんじゃないか?」と思った。

その日は健全に解散。男性は彼女に「今度改めて、外へデートに行きませんか」と誘った。

そこで彼女は「あなたって、年収300万円ですよね。私、Twitterで年収1,000万円以下とは結婚したくないって、書いていませんでしたっけ。ですから最初からそういうつもりじゃないんですけど」と返した。

男性は「そんなこと普通言います?ありえないです。二度と連絡してこないでください」と返した。当然だろう。
それに対して、女性は「え?私は楽しかったですよ。またご飯はしたいです。付き合う気がないだけですよ」と返してきた。男性が「は?」と驚きのリアクションをしても、彼女からは「次いつ空いてます?」と続けてメッセージが来た。

そりゃあ、たとえ家で飲んだからといって、イコール恋愛の合意とは言えないだろう。だけれども、あまりにも失礼な物言いに男性は激怒した。本人が怒り、それを知った本人の友人が怒り……。巡り巡って、その話は私にたどり着いた。「こんな女がいるなんて許せない。トイアンナさんが批判してください」と一言添えられて。

もしかして、もしかして……

それを見て、私は最初「恐怖」を抱いた。なぜ、こんなに失礼なことを言えてしまうのだろうか。男性を何だと思っているんだ。

だが……引っかかる面もあった。ハナから年収が低い男を見下しているのなら、なぜまた会いたいと言うのだろう。彼は恋愛対象じゃないから? にしても、男性と友達として付き合いたいなら、こんな言い方はしないだろう普通。

……もしかして、彼女は「普通」がわからないんじゃないか。

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