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観劇『宝飾時計』

【はじめに】

1月12日お昼の公演を観た時の感想を遅ればせながら書き残しておきます
東京楽までには書きたいと思っていたら東京楽ですね本日
無事に幕が開き、そして次の地へと繋がったとのことでとても嬉しいです
このご時世で毎日幕が開くことの難しさやその度に感じる奇跡のような感覚を持ち続けたいけど、忘れてしまうような世界が日常になる日が来てほしい

2023年はnoteにもしっかり残したいと決めていたのになかなか言葉にするのが難しいことや、自分の中で受け止めてもそこまでの熱量に至らないものがある中で、どんなに遅くなってでも忘れたくないと思ったのが『宝飾時計』
台本を手にできたからなのか、普段の観劇よりも後々熟考する際に自分の中だけでぐるぐる回していた感がある
この感想を書いたら他の方の感想も読み漁っていきたい

作演の根本さんと出演者が決まった時点で絶対に行くと決めていた舞台、このご時世で無事に幕が開き観れたことがまず嬉しい
ポスターも本当に素敵でこだわられていて、フライヤー惚れをして観に行くことも多いので、どういう経緯でもこの舞台にいていただろうなと思っている
期待して観に行ったものに良い意味で裏切られてちょっと上向き気味に帰る時間が好きなので、プレイハウスから出てきた時の多幸感たまらなかった
本当は沈んでる気持ちもあるしちょっと泣きそうにもなっているけど、それを引き上げるために上を向いている時が好き

去年まで感想を残すことは自分自身の気持ちを落ち着けるためと考えていて、実際にそう思いながら書いていた
今年も大きく考えを変えるつもりはないけど、もう少し自由に未来の自分が眺めて楽しそうだな〜狂ってるな〜と思えるものも残したい

劇場横のお店に飾られていたポスター

【舞台感想】

めちゃくちゃ良かったななんだったんだろ最後食いしばりすぎて奥歯がジンジンするし願うみたいにしていたから指も変な感じ
祈りだった
というのが観劇後自分の中に残っていた1番強い感覚
なんなのかが漠然としているけど凄く良い演劇を浴びた時に感じる熱さとか少しの怠さを確かに感じてふわふわしてた

孤独と献身と大人になること
この言葉、あの言葉も.....みたいな感嘆詞で文字数埋まっちゃいそうな感覚になりながら
いわゆるパンチラインというよりも会話の中で自然と漏れ出たものが1番大切って思えるような言葉で溢れている作品だった
台本はもう宝物のような存在になっているけれどクタクタになるまで読みたいし、覚えておきたい言葉がその時の映像や自分の気持ちと共に残る気がして嬉しい

劇場へ入るとすぐに舞台セットが見えてきて、背後にそびえる時計のセットと盤の反時計回りには痺れる
少しずつ移動する舞台セットの使われ方はもちろんなのだけど、道具自体のディテールとか素材の選択とかが細かく好みで、現代アートの小さな個展を観に行った気分になった
椅子の違いや高さであったり階段の使われ方も面白い
特にベッドの作りは座ったり寝たりすると沈むあの感じが可視化されるもので、新しかった
時計の存在に回転の仕方にタイトル回収されながら、生演奏の中で静かに熱い演技を観て
人間でいることは本当にままならないと
1幕と2幕で演奏の見せ方も変わっていることや、最後にセットが運びだされて残される構図とかも作品と高畑さんの歌を際立てていて、圧倒されすぎて背中がこれ以上沈まないところまで背もたれに沈んでいた

ラストシーン老いたゆりかは勇大に抱かれて眠るように見えるけど、すごく優しくてすごく残酷に思える
ゆりかの中で海に身投げして死んでしまった勇大とマネージャーとして消えていった勇大と
子役の時と違うのはゆりかが時を進めて老いていたことだろうか
椎名林檎さんの書き下ろした歌も合わさり、不思議なのに理解させられる感覚だった

ここまでもこの先も断片的な感想になってしまうけど、一瞬一瞬で素敵だなって思った後に苦しくなって、美しいと思ったものに汚されていく気持ちがある

表裏一体でどこか自分に近くてまだ先のことのように思っている
思いたいと願っていることたちを目の当たりにして気持ちは大きく揺らいだ
寄り添って欲しけど理解したくないと思う気持ちがあったのだと思う
自分のために生きることが難しいと感じる日がいつかくるだろうか
今はただただ自分のことを中心に考えて生きているし、そのような未来を想像することも難しい
それでもやっぱり寄り添われたように感じるのは、人の顔色を伺わないことが難しいからなのか、ゆりかの言葉の先に触れるからなのか

舞台を観ている時に、誰か1人に感情移入する時と、傍観者のようにそれを眺め続ける時があって、どちらが良いとか悪いとかもないのだけど
この作品を観ている時は、感情移入していないのに“眺めている”ではなくて、
様々な人間が私ではないけど私の周りにはいて、この先の私かもしれないと思わされる

人間として家族として愛とか恋とかに真っ直ぐな感情だけではいられないし、他者の理解はもっと難しい
最近舞台を観ている時に自分がいかに大人になってしまったのかを感じるのだけど、これほどまでに大人は細めた目で見つめていた方が生きやすいなんて思わなかった
献身的であることも自分勝手に見えてくる
やっぱり生きることも営むことも本当にままならない

こんなにも気分が落ちていきそうになるのに、ふとした瞬間に浮き上がらせるような巧さと、面白さが散らばっているのだから怖い
今観ることができて良かったし、いつか私が完全に大人になってしまった日にも観たい

台本

【キャスト感想】

カーテンコールの際にこの人数でこの密度でプレイハウスを包んだのかと思わされるほどに全員の熱意と演技力が高くて、自然と没入し流れるように歪んで出てくることができたように思う

・高畑充希さん
この声でこの動きでこの表情をされたら.....って思いながら与えられた言葉以上に役以上に彼女を目で追ってしまう魅力に溢れていた
最初の演技からこの役絶対いいなって思っていたけど最後の歌にやられた
やられた
ミュージカルで聴く時とは違う
配信で聴いてはいたけど歌い方や強弱の付け方が変わってくるし、ポツリと始まるものは残酷な祈りのようで献身の結末が芝居歌に乗ってた
細くて儚くて強く美しい好きだった

・成田 凌さん
『パンドラの鐘』で観てから、舞台に残す余韻が好きで、今回も舞台で観る時の凄みを楽しみにしていたのだけど
良い感じにダメな男で映画とかの雰囲気を舞台でも纏えるのやばいよな.....滲み出し方が上手すぎる
舞台という生物で今まさに進行していて、細かければ細かいほど伝わらないかもしれないところまでしっかり纏って生きてた
映像みたいに自然にアップになんてしてくれないしカットもないのにここまで雰囲気を作って流されないんだって
この先も舞台でも観続けたい

・小池栄子さん
芝居も演技もスタイルもお顔も声も全部すぎるくらいドストライクなので、根本さんが書いた台詞発してて、それが言葉になって届いてきて感動する
役所的に私はまだ共感できるような感じはなかったはずだし完全な理解なんてできないけどしっくり来ていた
何より衣装かわいい......
マネとの絡み最高
30歳になったらあの感覚分かるのかな
今までの22年が長かったかとか、この先どれだけ生きるかとかいまいち分からなくて
私は想像出来る範囲が短いなって思ってる
ただ幼少期の時の感覚は理解してしまうからきっとこれに共感する日が来るんだろうな〜って思っていた
台本を手に入れたので、もう少し歳を重ねた後で脳内上演をする

・伊藤万理華さん
やばそうで、苦しそうで、この役所いい....ってなりながらも彼女のキャラクターがないと崩壊しそうな危うさすらあるから絶妙なバランス
子役の時の求められた子供の姿と大人になった時の破れ方が凄い
自らが共依存を認めている存在
でも人間として生きるってこういう絶望的なバランスの上で綱渡りしているようなもんだし、ある意味振り切った人がいると安心した
その安心感が面白さとか緩さとか他のものとは違った心地よさすら与えてくれてた

しんどいって感じる部分とゆるっと流れる言葉や時間の感覚やテンポが好きで戯曲も役者も演奏も全スタッフさんもすごいな
観ている間は調和取れているとそういうことを気にしないでいられて幸せなんだけど終わった後にふつふつと凄かったな〜〜がわきでてくる

・池津祥子さん
ママはあるあるのように見えて凄く歪で、狭くて、表現の仕方が好きだったし、登場人物たちの強い共依存の中でもハッとさせられるものがある
自分の過去や未練を子どもに託すことの呪いは、自らにも降りかかるってことを実感させられる
毒親という言葉が今は広がっていて、子は親を選べないし親も子を選べないけど、結ばれちゃったものを切ることはとても難しくて、壊れかかってても切れてはいないなと
姉で失敗すれば妹で再挑戦できる点では母親の方が有利だよなと子どもの私は思う

・後藤剛範さん
コミカル要素と癒しを担っているけど結構大切なことを言っているんだよな
張り詰めた中で切らすとかではなく逸らすような流れを作ってくださってる役所であり、話を進めてくれる部分もあり
小池栄子さんとの掛け合いが本当に愛おしく思えてきて、ずっと眺めていたい
温かさに触れた時にこんなに寄り添ってくれる言葉があっただろうかと思って泣きそうだった
こういう人いるよなって思うし、どうかいてほしい
時には裏表のない真っ直ぐな言葉が聞きたい時もある

・小日向星一さん
いるようでいないような
見えるのに見えない
子どものようでいて大人びて見える
そういう曖昧さが巧くて自然と視界に入ってくるし説得力がある
その分話に流れがより複雑化していく気もして、主人公であるゆりかの成長を止め全てを役に向かわせている原因であり根源なのかと思うと不思議な存在にも思えてくる
1人の身体に多くの感情を乗せて、しっかり客席に魅せてくるし、何より声が好きでした

・八十田勇一さん
1番大人なのかもしれない
少し時代遅れなのかなって思う発言も、私と時代が違うのかもと思えてくるような
不快に感じそうってギリギリなものはまりえさんがピシャッと言ってくれるので逆に気持ちが良い
台詞のテンポが良くて誰との掛け合いでも面白く感じられるし、現実的にも思えてくる

【おわりに】

また一つ大切にしておきたい光景を観て、覚えておきたい言葉を聴いて、忘れたくない感覚を得ることができました
これから感想漁りにいきます!!
どうかこの先の公演も幕が開き続けますように
大千秋楽の幕がお揃いで閉じますように

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