できない文系院生の悲惨な末路(20)
これまでに書いてきたようにMくんは,誰よりも「人望」に飢えている類の人種だった.当時,ある大学の先生から,「リエカくん,この世界は出来るやつが偉いんだよ」と言われ衝撃を受けた記憶がある.どうかなぁ?と思うところはあるが,この先生の言葉は正しい.社会では仕事が出来ても人間的に変な奴であれば排除される.しかし,大学院の世界はそうではない.仮に「こいつ人間的に終わっているだろう?」と思われる人物でも,そいつがスーパー出来るやつであれば,(内心は思うこともあるかもしれないが)周りは何も言わない,いや言えない.しかし,多くは出来る人ほど,出来ない子に対して優しかったり(関心がなかったり)で嫌われることはまずない.
ところが,Mくんは出来ないので当然まわりの院生から尊敬などされるはずもない.毎回ゼミではイントロダクションで終わり,学会報告も出来ないし,論文も書けない,そんな奴が人望がある訳もない.後輩たちも同じ研究室の同じ学年のKくんが毎回先生とアカデミックな議論をしているのに,毎回毎回,初歩的なところが分かってなく,参加者の時間を浪費させているMくんとでは当然尊敬などする訳もない.そうした思いはだんだん,研究以外の箇所にも表れてくる.
大学院生の仕事は研究することが一番の目的であるのだが,その他にも学会の雑用があることは既に述べた.修士1年の子などはまだ入学してきたばかりなので学会の仕事をどのような手順でするか知らない.普通,先輩ではあれば知らない後輩に対して,教えてあげるものなのであるが,Mくんはここぞとばかりに先輩風を吹かすのである.
「Mさん,このときはどうすればいいのですか?」
と後輩が聞いてきたとき,この(敢えて呼び捨てにするが)Mの野郎は,この後輩に,
「学会の仕事は見て盗め」
と言い放ったのである.昔のプロ野球の選手がライバル投手の変化球をブルペンの横で投げながら,盗んだなんて話はよくあるが,まさにそれを学会の雑用で先輩風を吹かせて言い放ったのである.後でこの発言を聞いた博士課程の院生はすべからく怒りを覚えた.そして,ますます,Mくんへの突っつきを強化したのである.突っ込まれる回数が増えれば増えるほどゼミで失敗することは増えるため,Mくんは博士課程でもっともひとにムダな時間を強いる人間になっていたのである.
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