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ヒューマンマイクロバイオーム研究開発によってプロバイオテクス&プレバイオテクスが進化

 米国国立衛生研究所(NIH)によって開始されたHMP(注1)におけるヒューマンマイクロバイオーム研究は健康と疾患の理解を深め、新たな治療法の開発に大きく寄与しています。
食事、口腔環境、薬物の使用などが微生物叢に与える影響が詳細に解明されました。
 人間と共生している常在菌叢と健康との関係が明らかになり、常在菌叢のバランスを整えることの大事さが認識され、プロバイオテクス(善玉菌を補充)及びプレバイオテクス(善玉菌の増殖を促進する食物成分)は大きな進化を遂げています。特に腸内細菌叢のバランスを整えることが健康増進に繋がることが実証されてきましたが、口腔内の微生物叢を調整することで、口腔健康の向上や疾患の予防・治療に大きな貢献が期待されています。微生物同士の相互作用や共生関係(注2)の理解が進み、口腔内の微生物叢がどのように影響し合い、どの微生物がバイオフィルム形成に関与するかなどが解明され、それを制御するためのプロバイオテクス&プレバイオテクスの設計が可能となっています。
 特にプレバイオテクスの進化は、新たな口腔治療法の開発にも寄与し、微生物叢のバランスを整えることで、従来の治療法では難しかった疾患へのアプローチが可能になりました。

(注1)HMPの役割について
 米国国立衛生研究所(National Institutes of Health、NIH)におけるHMP(Human Microbiome Project)は、人間のヒトマイクロバイオームを詳細に研究する国際的なプロジェクトです。HMPは、ヒトマイクロバイオームに関する重要な知識を提供し、その理解を深めるための基盤を築いた重要なプロジェクトです。これにより、個別化された医療や疾患の予防、新しい医療アプローチの開発などが可能になり、健康科学の進化に寄与しています。

 HMPの主な研究内容を以下に紹介します。

  1. ヒトマイクロバイオームの解析:
     HMPは、ヒトの体内に存在する微生物叢(マイクロバイオーム)を解析し、それを構成する微生物種とその遺伝子を明らかにしました。口腔、腸、皮膚などさまざまな部位のマイクロバイオームを研究しました。

  2. ヒトマイクロバイオームの多様性:
     HMPの研究により、ヒトのマイクロバイオームが個人差や人種差、地理的差によってどれだけ多様であるかが明らかになりました。これは個別化された医療アプローチの重要な基盤となります。

  3. ヒトマイクロバイオームと健康:
     HMPは、ヒトマイクロバイオームと健康の関連性を調査しました。特定の微生物叢の変化が疾患のリスクと関連していることが示され、特に腸内細菌叢と疾患(例: 肥満、炎症性腸疾患)の関連性が注目されました。

  4. 新しい診断法と治療法の開発:
     HMPの成果は、新しい診断法や治療法の開発に役立っています。例えば、腸内細菌叢を調整することで特定の疾患の治療や予防が可能になる可能性があります。

  5. データの共有:
     HMPは大規模なデータベースを構築し、これらのデータを研究者や医療専門家と共有しています。これにより、世界中の科学者がヒトマイクロバイオームに関する研究を進めることができます。

  6. マイクロバイオームと免疫系:
     HMPの成果を基に、ヒトマイクロバイオームが免疫系に与える影響についての研究が進行中です。これにより、マイクロバイオームの変化が免疫応答にどのような影響を与え、自己免疫疾患などの疾患との関連性を理解する助けになっています。

  7. プレバイオティクスとプロバイオティクスの開発:
     ヒトマイクロバイオームの健康への影響を考慮し、プレバイオティクス(微生物の成長を促進する物質)やプロバイオティクス(有益な微生物の摂取)の新たな製品が開発されています。これらの製品は、腸内細菌叢のバランスを調整し、健康をサポートするのに役立ちます。

  8. 微生物群集のエンジニアリング:
     マイクロバイオームエンジニアリングとして知られる新しい分野が発展しています。これは、特定の微生物を導入または除去することによって、疾患の治療や健康の向上を目指すものです。

  9. エコシステムとしてのマイクロバイオーム:
     ヒトマイクロバイオームを個々の体内に留まらず、地域や環境全体のエコシステムとして捉える研究も行われています。これにより、環境因子がマイクロバイオームに及ぼす影響が理解されています。

  10. 個別化医療の進化:
     マイクロバイオームの研究は、個別化医療の進化に寄与しています。特定の微生物叢のプロファイリングや調整が、個別の健康状態や疾患に合わせた治療法の開発に役立つ可能性があります。

(注2)微生物間のコミュニケーションは、生存と繁殖のために重要な役割を果たしています。微生物が協力して集団行動を調整することで、環境への適応力が向上し、生態系全体のバランスを維持するのに役立っています。同時に、微生物間の競争や相互作用も存在し、多様な生態系が形成されています。

 微生物間のネットワークの種類

  1. クオラムセンシング (Quorum Sensing):

    • クオラムセンシングは、微生物が分泌する低分子化合物(自動インデューサー)の濃度によって制御される細胞間コミュニケーションの一形態です。微生物がある閾値の濃度に達すると、集団行動を調節するための遺伝子が発現されます。これにより、微生物集団は特定の状況や環境変化に対して協調して応答します。

  2. ホリンの放出とフェージの拡散:

    • 一部の細菌は、ホリンと呼ばれるタンパク質を分泌し、周囲の細胞の膜を破壊することでその中の細菌を殺すことがあります。これにより、細菌が死滅し、その遺伝子や成分が周囲の細菌に影響を与えることがあります。

  3. 溶解酵素の共有:

    • 一部の微生物は、外部環境の有機物を分解するための溶解酵素を分泌します。これにより、周囲の有機物が分解されて栄養源となり、微生物の成長が促進されます。同じ環境にいる他の微生物もこの分解産物を利用することがあり、間接的なコミュニケーションが行われます。

  4. エキソポリサッカライド (EPS) の共有:

    • EPSは微生物の表面に存在する多糖類で、バイオフィルム形成に関与します。微生物がEPSを分泌すると、周囲の微生物もそれを利用してバイオフィルムを形成することがあります。これにより、微生物集団が共存し、環境に対する応答を調整します。

  5. 共食いと遺伝子転移:

    • 一部の微生物は、他の微生物を食べることで生存しています。この過程は共食いと呼ばれ、細胞間の遺伝子転移が行われる場合もあります。これにより、遺伝子の多様性が保たれ、環境への適応力が高まります。


 


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