ティッシュが欲しい

こころを、覆いでもしないと、やってられない、ティッシュのような、優しく包むものを、誰もくれないから。


繊細な、剥き出しな、顕になった感情を、僕達は隠さなきゃいけない。


僕達は、手に持ったティッシュを、くしゃっとして、燃やしてそれから、指に移った微かな炎を絶やさぬまま、こころを薪にして、燃やして、そうして生きる。


酷い人がいるけれど、彼らはその薪を叩き割ってしまう、自分の薪がそうならない保証はないのに、未来を省みないで、壊そうとする。だから僕達は、この世界に存在するあらゆるものを避けて生きなくちゃいけない。


生きるとは、つまりそういうことで、果てしなくつらい。


死ぬとは、その薪を削ってしまうことで、だから今日も火を絶やさないでくれと、彼らは僕を脅す。


彼らの心を担保に、僕の体を現世に拘束する。灰色の顔をした彼らは、劇場で培った感情を、恥ずかしげもなく顕にして、でもそれは、剥き出しの、生なこころじゃないから、包んである。


包んだこころで、彼らは、僕に言う。
だから死ぬ時には、みんなのこころの衣を一枚も剥ぐことのないように、みんなから忘れられ、あるいは皆が居なくなるまで、この世にいなくてはならない。


生きるとは、つまりそういうことで、かなり寂しい。

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