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一度退職した社員の再雇用を考える

みなさんの会社では、自己都合退職者の再雇用を認めていますか?

「出戻り社員」と呼んでみたり、「ジョブリターン制度」とか「アルムナイ制度」などと言って制度化している企業もあるようです。

これは、若いうちに何らかの事情で円満退社した社員を、いくつかの条件付きで再雇用するという考え方で、すでに身元も素性も既知の経験者を採用する方が、未経験者を採用するよりも確実に即戦力になるし、再雇用される側も、勝手知ったる企業での仕事なので、抵抗感なくすぐに溶け込めるというメリットがあるようです。

特に最近のような人材不足の時代にあっては、多少の過去の事情などは脇において、即戦力として採用しようという企業が増えてくるのも理解できるところです。

でも、以前は今とは異なった見方が主流でした。

今から20数年前に、私が主管部署の優秀な若手社員が退職しました。

彼とは最後までよく話し合ったのですが、退職の意志は固く翻意させることはできませんでしたが、今でも退職の理由は、若さゆえのほんの気まぐれのようなものだったのではないかと考えています。

彼は社内の同僚たちだけではなくお客様の評判も良く、いつも明るく仕事も優秀だったので惜しいことをしたと悔やみましたが、その2年後くらいに、部下たちから彼を戻すことはできないか、彼も戻りたがっているという意見具申がありました。

私は優秀な社員だっただけに判断に悩みましたが、最終的に部下たちからの申し入れを厳に却下しました。

その理由は、もし許可した場合、残った社員たちに、「一度退職しても、戻ることができるのだ」という前例を与え、軽い気持ちで退職する社員が続くのではないかという危惧と、私自身が懸命に引き留めたのを振り切って退職したのだから、今更戻すことはできないという私個人の気持ちからでした。

そのときの私の判断は、20数年前の当時の判断として間違っていなかったと今でも思いますが、現時点での答えは、「退職者再雇用のメリデメをよく議論したうえで制度化しておくべきだ」という、それだけのことです。

ここで、退職経験のある私が特にお伝えしておきたい、重要なメリットが少なくともひとつあります。

それは、退職者が「外の世界から元の会社を見た貴重な経験を持っている」ということです。

ドラッカーは、自社の事業を知るには外に出て外から自社を見なさい、それができないならば外にいる人、すなわち「顧客に聞きなさい」と繰り返し言っています。

どの企業でも、新卒採用で入社した人のほとんどは、一時的な出向でもしないかぎり外から自社を見るという経験はできません。

かなり感性の鋭い営業マンで、常日頃から顧客の声を聴いている社員であっても、企業内にいたのでは的確にはわからないでしょうし、ましてや20年以上内勤で過ごした人には、社内でどんなに上のポジションにいようが、わかるはずのないことです。

わからなくても事業は進めていけますが、自社の価値観以外の多様な考え方や、社会の中での自社の良いところや顧客が価値だと感じている点、改善すべき点やおくれを取っている点などは理解できず、組織がいつまでも「井の中の蛙」でいて、気づいたときには遅きに失していた、なんていうこともあります。

ドラッカーはそのことについてこうも言っています。

指揮者に勧められて、客席から演奏を聴いたクラリネット奏者がいる。そのとき彼は、初めて音楽を聴いた。その後は上手に吹くことを超えて、音楽を創造するようになった。これが成長である。

「非営利組織の経営」(ダイヤモンド社)

オーケストラの中で演奏しているだけでは、成長は困難です。

自己都合で退職した社員を、再雇用する最大のメリットは、自社にいたのでは学ぶことができなかったことや、外から自社を見て得た知見を、もとの会社に戻って活かすことができる、それによってその社員も企業もともに成長できるということです。

その社員のスキルだとか即戦力のみを当てにしての再雇用では、あまりにももったいないことだと、私は思います。

かつて私が危惧したような、現存する社員たちに悪い影響を与えるなどということも多少はあるかもしれませんが、一度外を見た社員の価値は貴重なものがあると思います。

せっかくなかなか経験できないことを経験した社員が戻ってくるのなら、受け入れ側も、彼の話に耳を傾け、社内をバージョンアップさせる手立てに使うべきではないでしょうか。

みなさんはいかがお考えですか?

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