遠野物語38

小友村の旧家の主人で、今も生きている某爺という人、町から帰りるときにしきりに御犬が吠えるのを聞いた。酒に酔っていたので自分もその声をまねたりしていたら、狼も吠えながらあとからついて来た。恐ろしくなって急いで家に帰り、門の戸を堅くとざして息を殺して静かにしていたけれど、夜通し狼が家のまわりをぐるぐるして吠える声はやまない。夜が明あけて見ると、馬屋の土台の下を掘って中に入り、馬が七頭いたのをことごとく食い殺していた。この家はそのころから傾きはじめたということだ。

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