"偉い"だの、"立場が下"だの。

「お客様は神様だ」という、ひどく個人的な信念のもと、こちらの融通の度を越えたサービスを求めてくる人を、書店のアルバイト時代に何人も見た。

中には、「お前らのバイト代は俺のこの金から払われてるんだぞ!」と、実際に言われたこともある。

それに対してこちら側は、申し訳ございませんでした、とただ謝るのみ。"お客様"に対して、えらく立場が下だなあ、なんて漠然と頭を下げながら思っていた。

それでも、僕が働いていた某大手チェーン書店の社員さんたちは、決して版元の営業の方に対して横柄な態度をとっていなかった。今思い返してみると、特に会社とか店舗でそういう意識付けをしていたわけじゃなかったと思う。あくまで個人個人で、棚は版元さんと一緒に作り上げるものという認識があったのだろう。

良くも悪くも、僕はそんな恵まれた人と環境の中で常識を組み立ててしまった。

だから、実際に自分が営業になっていろいろな書店に足を運ぶと、すぐに現実に打ちのめされた。

版元の規模によって対応が変わるのなんて当たり前。門前払いされることもあるし、名刺すら受け取ってもらえないなんて日常茶飯事で。

会話をしていても目はこちらを捉えないし、判断軸は売れているか、実績のある著者なのか。

明らかに、版元が来た時と、レジでお客様対応をしている時で態度が180度変わる人もいるし、本を買われたお客様に対しても商品やお金を片手で受け渡し、まともな敬語も使えていない、こちらが心配になるくらい酷い社員もいる。

そんな場面を某大手チェーンの書店本店で目の当たりにしてしまって、もともと書店や紙の本が好きでこの業界に入った自分にとって、目を覆いたくなるような光景で、心が壊れてしまいそうなこともあった。

俗に言う、売れ線ばかり仕入れて、よくわからない新刊は1冊で棚差し、みたいなのがスタンダードになっている今、生身の人間なんていらないんじゃないかとまで考えてしまう自分もいる。

最近は独立系書店と呼ばれる、個人でお店を出して、そこの店主のセレクトの本を入れるスタイルの書店がトレンドになっている。

もちろんそこに属する人がみんな、版元もお客様も分け隔てなく接してくれるというわけでも、反対に大手チェーンの中にそういう人がいないというわけでもないが、少なくとも売れ線以外の見たこともない本が多く並んでいる書店の方が魅力的に映るのは必然だろうと思う。

最近、その大手チェーン=つまらない本屋と称した記事を読んだが、正直悲しいが、その気持ちはわかってしまう。

とはいえ、大手チェーンが品揃えもジャンルの幅広さもより多くをカバーしているからこそ、セレクトする本が輝く、という点は正しいので、一概にどちらが良い、悪いで判断できない部分ではあると思うし、今後も共存していくとは思う。

おそらく、本を売るという流れの中で、版元の営業は一番立場が下だと思う。特にうちなんて書籍の実績もまだ乏しいし、ヒット作と呼べるものもできていないのが現状である。

まだまだ口に出すのもおこがましいが、一歩一歩。地道に手を取り合える書店や人を増やして、いつかこの業界だけでもどっちが偉いとか、立場がどうとかではなく、版元と書店がお互いをリスペクトしあって、盛り上げていけるように、自分にできることをしていきたい。

それが自分の当面の目標だ。

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