少年のままのキミで

いつもと同じ風景。でも昨日までとは『なにか』が違う。

でも、その『なにか』がわからない。その違和感に僕は首を傾げる。

あらためて、よく目を凝らして周りを見る。すると一つの変化に気付いた。

昨日までいたはずの少年がいないのだ。部屋の人数を数えると、たしかに昨日まで6人いたのが5人になっている。冷静になってみると、なぜこんな大きな変化に気付いていなかったのか、不思議でたまらない。

僕は隣の席の少年に声をかけた。その少年もこの違和感の正体に気付いているようで、お互いに顔を見合わせて首を傾げあった。

すると、ほどなくしてこの部屋に数人の大人が入ってきた。大人は僕たちの顔を見回すと、今日できた空席を指差して少し話し合った後、机を持っていってしまった。

すると他の3人はなにもなかったかのように自分の机に座り、作業を始める。まるで初めからこの人数だったかのように。

僕は"おかしい"と思った。だから3人に少年はどうしたのかを尋ねた。

しかし首を傾げるだけで、視線をまた机の上の作業に落とした。無関心という言葉がぴったりだった。

僕の中に理不尽だと思う気持ちとともに怒りが込み上げてきた。おそらく長い間、同じ空間で同じ時間を共にしていただろう。それなのにいなくなった途端、その少年の心配よりも、その少年が請け負っていたであろう作業の方に意識を向けている。

きっとこれまでも同じようなことを繰り返してきたのだろう。だからこそ一喜一憂せず淡々と、自分のするべきことをするという、ひどく合理的な選択をしているのは理解できる。

でも、本当にそれは”人間として”正しいのだろうか?

そう自分に問いかけると同時に突然景色が変わり、周りが全て機械的なものに変わってしまった。

空間にいた少年たちは自分も含め、みなロボットに変わっていた。目の前にいるロボットの体は、元の色がわからないほどに錆びついていた。特に首や腕などは錆びがひどく、一つ動作を行うたびに鉄同士が擦れる、ギシギシという不快な音を立てながらやっとの思いで動かしている様子だった。

自分の手のひらを見る。幸い自分はまだ可動部分に錆は見られないようだ。

自分も見た目はロボットなのだろう。でも意識だけは、人間の時となにも変わらない。

感情は正負に限らず”人間らしく”いるための大事なパーツだ。

そこさえ錆びつかなければ、僕はどんな姿だろうと人間だと言い切れる自信がある。だからこそ、どれだけ風雨にさらされようとも、そこだけは錆びつかせるわけにはいかないのだ。

そしてきっといつか、あの少年はこの空間に戻ってくる。

そんな希望を抱きながら、僕は今日も作業に取り組むのだ。


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