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〈鈍重だから何だというのだ〉パイロットS30について

パイロットS30はいつの間にやら好きになっていたペンです。でも、最初に手にしたときの感想は、どうもシャープさに欠けるな(シャープペンシルなのに)という、少しだけれどもマイナス側に位置したものであったと思い返されます。

どうやらその感想は、製図用で、ペン先に遊びがないS20との比較から導かれたらしいと後に気づきました。なるほどS20は、固定されたガイドパイプがブレることもなく、厳密に狙った通りの線が引けます。遊びがないペン先は指をほんの少し動かすだけで、誇張していえば動かしたいと思うだけで、その方向へキビキビと動いてくれます。

対するS30は、口金を仕舞えるダブルノック式で、しかも自動芯出し機構を備えています。複雑なぶん、どうしたって僅かでもペン先に遊びが生じるのでしょう。そうしたところから、最初私はS20と比べるなかで、どこか鈍重だなという印象を抱きました。

しかし、〈だから何だというのだ〉と私はふと思いました。私は製図をするわけではありません。細かな答案用紙に回答することももうなければ、律義に罫線に沿ったノートをとる必要もありません。ただ気儘に走り書きをするだけなのに、ペン先のごく僅かな遊びの有無がどのような不利益をもたらすというのか。いや、もたらしはしない、と私は思いました。

そう考えると、S30のペン先の微妙な遊びは、不利益につながるどころか、手への衝撃を和らげる格好の緩衝材となってくれているのではないかと思われだしました。だらだらと走り書きをする上では、その遊びはむしろ美点なのかもしれません。

そもそも「鈍重」などというのも、S20と引き比べた場合の評価であり、S30も実は(シャープペンシルだけあって)シャープなのです。その中に気づかないほどの微妙なクッションが仕込まれているという感じでしょうか。そのクッションの作用により、紙に手を弾かれることなく書きつづけることができます。

Pilot S30 / Tsubame Note H30S

そして、気儘に走り書きする上では、芯を出すためにいちいちノックせずともよいオートマチック機構が、思考が中断しないので、たいへんありがたいと感じました。

私は色はブラックを選びました。木のテクスチャを残しつつも、あからさまに模様が主張するわけではない落ち着いた風情がまた好もしい、と気に入っています。

ボディの印字は、使っているうちに剥げてしまうらしいので、覚え書きとして記しておきます。それぞれ改行して「S30 AUTOMATIC SYSTEM」、裏側にやはりそれぞれ改行して「0.5 PILOT JAPAN」。

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