呪いにかけられて

 たぶん「逃げ恥」が流行った頃から、誰かに植え付けられた思い込みが「呪い」と呼ばれるようになった。

 わたしにはそういう呪いがたくさんある。ほとんどが親にかけられたものだ。

 例えば、”女の子なんだから”という呪い。親戚の集まりではわたしたちだけが手伝いをしろと言われた。父親が職場で女性差別をしていて、それを嬉々として語っているのを聞いていた。女だから力仕事には向いてない、ヒステリックだ、家事だけやっていろ、そういうもの。学校でもそうだったかもしれない。物理や数学なんてできなくてもいいや、というような。

 お金についても呪いをかけられた。自分が楽しむためにお金を使うのは無駄遣いで悪。幼いわたしが余計混乱したのは、母親はわたしが喜ぶことにたくさんお金を使いたいと考えているタイプだけれど、父親は真逆で子どもに出来るだけお金を使いたくないと考えているタイプだったことだ。父親は怖かったから、結局、お金を使うのは良くないことだと感じるようになったけれど、同時にそれはおかしなことだとも思う。お金を使った罪悪感と、罪悪感に対する罪悪感に苛まれる。

 他には、声が小さいとか、何を考えているか分からない、ということ。父親に何度も怒鳴られたし馬鹿にされた。人と話すのが怖い。聞き返されただけでショックを受けてしまう。頑張って聞こえるように話したつもりなのに、と。自分の話していることが理解されなかったり受け入れられなかったりしても、自分が悪いのだと思う。

 スーパーで買い物をする。人とぶつかりそうになる。父親の怒鳴り声を思い出す。少し外に出るのにもトラウマはたくさんあって、そしてそれを感じることさえ悪いことだと思うから、無意識になかったことにする。

 だから外に出たくない、人と会いたくないし話したくない。

 呪いだと言っても、王子様が現れてそれでハッピーエンドではないのだ。良い魔法使いなんていないんだし。

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