depression.

 きみはもう死んでしまったし、きみはもうベースを弾かないし、きみはまだ過去から離れられないし、きみはまだ相棒から逃れられない。

 そんな呪いめいたものを見せつけられて、僕は初めて音楽というものに打ちひしがれた。

 きっとこんなふうに弾いてくれと頼まれたに違いない。それかそう言われるだろうと「分かってしまった」に違いない。だからレコーディングしてあるのだ、きみが死んでしまったあとまで。その音から逃れる為に。だから最後に舞台に立ったのだ、その歓声から逃れる為に。だから戻ってくるはずなんてない。

 ただ健やかに生きているだけでいいんですなんて大嘘だった。僕はベースを弾くきみが好きだったんだ。楽しそうにベースを弾くきみが。思いもよらぬリズムを、遊ぶようなメロディを思いつくきみが。だからその笑顔も笑い声もなにもかも、きみが作り奏でる音楽に付随しただけのものだった。きみがかっこいいから好きなのではなかった。きみが優しいから好きなのではなかった。きみの音楽が好きだったのだ。

 だからばいばい、もう戻ってこないよって、伝えてくれてありがとう。打ちひしがれて、さよならって言って、僕の好きなきみはもういないんだっていつかちゃんと分かる日が来るんだ。

 全部僕の勘違いだったらいいのに。

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