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朝を味わう

モーニングが好きだ。朝起きてほとんど動いていない頭と、波立つ前の穏やかな心に珈琲の香りや店内に流れる音楽が染み渡る。ランチやディナーは家でも食べるものだけれど、自分でどんなにお洒落な朝食を作っても、それをモーニングと呼ぶ気にはなれない。起き抜けに誰かが作ってくれて、そのあと食器洗いをする必要もなくて、いつもの朝食とは少し違う味がする。それがモーニングだから。一人旅や出張で、喫茶店にモーニングを食べに行くのは至福の時。ごくたまに家族や友人と共にするモーニングは、忘れ難い思い出になる。

それにしても、モーニングという呼称がとてもいい。ランチやディナーは昼食と夕食を意味する言葉だけれど、モーニングは”朝”を表する。爽やかな、ほのぼのした、そしてほのかに甘い光景をも想像させる言葉だと思う。初めて一緒に旅行をした恋人が朝起きて、気だるさと幸福感に包まれる瞬間でもあるのだから仕方が無い。客が抱えるこれから始まる一日への期待感や時に感じる不安や憂鬱をも包み込むように、珈琲とトースト、卵料理やサラダを長年作り続けるマスターやマダムの横顔は決まってとても穏やかで、優しい。お洒落なカフェでモーニングコーヒーを運んできてくれる、これまたお洒落な店員さんの笑顔は、昼や夜に輪をかけて輝いている。

家を少し離れて朝を味わう贅沢には、中毒性がある。

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