LanLanRu文学紀行|モンテ・クリスト伯(後編)
アレクサンドル・デュマ著
舞台:1815-1838年/フランス
アレクサンドル・デュマの『モンテ・クリスト伯』を読み終わった。この本、なかなかの長編である上に、終盤にむけて話が一気に盛り上るので、ページをめくる手が止まらなくなるのが困ったところ。
読み終わっても興奮冷めやらず、作者のデュマのことやら、周辺情報など気の向くまま調べていたら、まだまだ裾野に広い世界が広がっていることに気が付いた。『モンテ・クリスト伯』については以前に一度まとめているが、書きたいことがいくつも出てきてしまったので、今回はその続編である。
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LanLanRu文学紀行|モンテ・クリスト伯(前編)
『モンテ・クリスト伯』あらすじ
まずは『モンテ・クリスト伯』のあらすじをちらりと復習。
身に覚えのない罪で14年間も孤島の牢獄に閉じ込められたエドモン・ダンテス。思わぬ幸運によって脱獄を果たし、収監中に知り合ったファリア神父から遺された巨万の富を手に入れた。数年後、パリに現れたエドモン・ダンテスはモンテ・クリスト伯を名乗って知力と財力を駆使し、自分を陥れた3人の男たちに華麗な復讐を遂げていく。
デュマについて知るともっと面白い『モンテ・クリスト伯』
一介の船乗りから大資産家となったモンテ・クリスト伯だが、読んでいるとそのお金の使い方が物凄い。恩人には商船を丸ごと一艘プレゼントしたり、ローマのカーニバルでは見物用の”窓”や”馬車”を大枚はたいて手に入れながら、気前よく人に譲ってしまう。全て復讐の布石のためとはいえ、豪快だ。
パリ滞在中にはシャンゼリゼとオートゥイユに2軒の家を購入。わずか1週間で主人好みの豪奢な屋敷にすっかり改装してしまい、宴会を開けば、ロシアのヴォルガ川から生きたまま運んだチョウザメを振舞ったりして、招待客の度肝を抜いたりする。
人々をあっと驚かす富豪ぶりが痛快である一方、これではいくらなんでも資金が尽きやしないかとはらはらする。当時のフランやリーヴルが一体いくらに相当するかわからないが、どこかの王侯並みの暮らしであるのは間違いない。
こんなモンテ・クリスト伯、荒唐無稽なデュマの創作と思いきや、作者自身も結構豪勢な生活をしていたのだった。デュマにはファリア神父の財宝はなかったが、巨額の印税の収入があった。
1840年代に新聞連載小説として発表された『モンテ・クリスト伯』は圧倒的な人気を博し、単行本の推定部数は当時としては驚異的な4万部。1840年代だけでも10億円は下らない印税収入があったといわれている。ところがデュマは、酒に女に美食にと、お金をどんどん使ってしまう。生涯の愛人は30人以上、一度に3人以上と付き合っていたこともあるという。グルメぶりも生半可なものではない。自ら包丁をにぎり、材料調達法までも探求。晩年には『料理大辞典』まで執筆するに至る。
デュマの夢の詰まった邸宅「モンテ・クリスト」城
しかしデュマの一番の贅沢といえば、パリ近郊のサン=ジェルマン=アン=レー丘の上に建てた「モンテ・クリスト城」だろう。建築費だけでも当時のお金で40万フラン(5億円相当)は費やしている。新築祝いには600人もの招待客に、パリ一帯でも有名なレストラン「アンリ4世亭」からわざわざ山海の珍味を取り寄せて大盤振る舞い。その後も食い詰めた文学者や芸術家など、来るもの拒まずもてなし続けた。
その後、デュマが破産の憂き目にあうので、1849年には「モンテ・クリスト城」も借金のカタに競売にかけられてしまうが、現在も大切に保管されているので訪れることができる。
ちなみに「モンテ・クリスト」島もイタリアのトスカーナ群島に実在する。デュマ自身、イタリア旅行の最中にこの島を目にしたことが執筆の契機となったようだ。google mapでもしっかりと出てくる。ただし、この島は現在自然保護区となっているため、島の1km以内の海域は許可なく立ち入ることはできないという。
『モンテ・クリスト伯』関連作品
キャストやシーンなど、想像しながら読むのがとても楽しい作品だ。映画やドラマなど何度も映像化されている。個人的には1998年のジェラール・ドパルデュー主演のテレビシリーズと、2018年のディーン・フジオカが出演していた日本版テレビドラマが印象が強い。
「巌窟王〜モンテ・クリスト伯」
ジェラール・ドパルデュー主演/仏テレビドラマ
どこかでもう一度再放送してくれないかと思う。NHKで見たのはもう25年以上も前。ラストは原作と異なっていたものの、これこそ「モンテ・クリスト伯」という世界観を楽しむことができたように記憶している。総製作費20億円の大作ドラマ。
「モンテ・クリスト伯ー華麗なる復讐ー」
ディーン・フジオカ主演/日本テレビドラマ
舞台を現代日本に置きなおしているが、そうすると原作では株や国債で破産していたのがビットコインになっていたり、ローマの盗賊が香港マフィアになっていたりして面白かった。
〈その他関連作品〉
・『褐色の文豪』(佐藤 賢一著)
ーデュマの生涯を描いた小説。
・『ダイヤモンドと復讐』(アドリアン・ボーリュー著)
ーモンテ・クリスト伯のモデルとなったフランソワ・ピコーの物語。
・『レ・ミゼラブル』
ー 7月王政のパリで起こった6月暴動を描いたユゴーの名作。
・「会議は踊る」(ドイツ映画,1931年)
ーナポレオン失脚後のウィーン会議を背景にしたオペレッタ映画。
〈参考文献〉
・『集英社版 世界文学全集24 モンテ・クリスト伯Ⅰ』(集英社, 1980)
松下 和則、松下 彩子訳/綜合社編
・『集英社版 世界文学全集25 モンテ・クリスト伯Ⅱ』(集英社, 1980)
松下 和則、松下 彩子訳/綜合社編
・『集英社版 世界文学全集26 モンテ・クリスト伯Ⅲ』(集英社, 1980)
松下 和則、松下 彩子訳/綜合社編
・『アレクサンドル=デュマ ■人と思想139』(清水書院, 2016)
辻 昶、稲垣 直樹 著
・https://www.chateau-monte-cristo.com/main/
・https://maps.app.goo.gl/dNMEt23yPbvQx8Tr5