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手のかからない商品

 電子書籍をいくつか出している。
 
 モツ業者だったことで、その特殊性を狙って「豚モツ」に関する本を出版している。現役時に撮った内臓のレアな写真も書籍内に含めていて、他にない内容なので、薄いがそれなりに利益になっている。
 
 しかし、いちばんの稼ぎ頭は「豚モツ」の書籍ではない。これは自分でも意外だったが、「口内炎」のことを書いた書籍が、最も利益を叩きだしている。下記の本が、それ。

 多くの方はご存じだろうが、Amazonの電子書籍「Kindle」では、書籍の販売とは別に、会員の購読ページ数に付き「いくら」という稼ぎ方もある。
 簡単に言うと、Amazonの読み放題会員になっている人が、自分の電子書籍を1ページ読むごとに、だいたい0.5円入ってくるのだ。つまりは、2ページ読まれると1円入ってくるということ。
 
 上記の本はAmazonの文字数換算で30ページほどの書籍なので、だれかが全部読むと15円が入ってくる。
 微々たる額だが、しかし、どんな金額だって収入には違いない。自分の口座に振り込まれる。
 それに、チリツモだ。15円だって積み重なっていけば、それなりの金額となる。焼き鳥だって、1本の稼ぎはその程度だ。
 
 この書籍、コツコツとだが、着実にページ数を稼いでくれている。出版して以来、毎月必ず、それなりのポイントをあげているのだ。
 
 Amazonの「読み放題会員」の客を狙う電子書籍は、画像の方が有利だ。パッと見られてとっつきやすいから、開いてもらえるチャンスが高い。
 だからモツ関係の本の方がいい動きをするだろうと思っていた。しかしその読みとは裏腹に、文字だけの「口内炎」の本がそれらを上回って読まれている。
 
 気付くと、ちょこちょこっと数字が伸びている。「あぁ、また読まれたのか」と、うれしくもあり、不思議でもある。
 発売してから間もなく2年になるが、まったく手をかけていないのに、勝手に利益を生み出してくれる。
 
 
 その「口内炎」の電子書籍の数字が伸びるごとに、以前モツの仕事をしていた時に絶えず思っていたことを、思い出す。
 
 モツの作業は、とても手間がかかる。ナンコツやコメカミ、大腸など、多くの部位には、脂やゴミが付着している。それを、手と包丁を使って丹念に取り除いていく。そうやって、お客に渡せる状態にするのだ。
 
 肉の業者は腕力を使うように想像されるが、一ヶ所にじっと立ち、チマチマと手をかける作業も実に多い。むしろその方が多いと言ってもいい。それが、仕事だから当然だし仕方ないとはいえ、虚しさを募らせることがよくあった。
 
 例えば、20分かけてキロ1000円の商品を完成させたとする。作業台にかぶさるように猫背になって、じっと部位を見つめながらちょんちょんと包丁で削ぎ、手でむしる。そして、大丈夫と判断した時点でビニール袋に入れる。
 1000円で売れるのは喜ばしいが、商品はお客に渡ってしまうので、また次回の注文時は、新たに20分かけて作らなければならない。
 イチから、ということ。それがたいへんだと感じていた。無限のループにも感じていた。
 
 しかしこの電子書籍、1回作ってしまえば、ずっと商品として売り続けられる。もちろんモツよりも単価は極めて低いが、なにも手をかけずに、次のお客さんにも売れるのだ。
 これが、今までやっていた商売と比較し、とても魅力的に感じる。当然だけど、本を作成する作業はたいへんだ。書くのは苦にならないが、ややこしいパソコン作業がつらい。ただ一旦作り上げてしまえば、内容さえ古びなければ、いくらでも使いまわしができる。
 
 なんだか不思議な感覚だ。リアルに商品を扱っていた身とすれば、イカサマをしているようにも思えてしまう。
 
 せめて、電子書籍で稼いだ分、リアルなものに金を落とそうと思う。イカサマ感覚の贖罪として。
 焼き鳥屋さんだって、モツ業者当時の自分と同じ気持ちを抱えているはずなのだ。丁寧に串に刺して、それが売れるのはうれしいだろうが、また新たに串を刺さなければならない。来る日も来る日も、売るための商品を作り出さなければならないのだ。
 そんな、丁寧に商品化したものを、しっかり味わいながら食べて、お金を落とそうと思う。
 
 先週土曜は6本食べた。均等に串打ちされた、見事な焼き鳥だった。

駄文ですが、奇特な方がいらっしゃいましたら、よろしくお願いいたします。