見出し画像

豚モツ業者が検証する『ベトナム人の豚盗難事件』 その6 腑分け

 
 『その2』で豚の腹割りを、そして『その3』で内臓一式を取り出すところを書いた。そして今度、屠畜の工程では部位ごとに分けることになる。
 
 屠場はそれぞれ設備がちがい、それによって工程もまちまちなのだが、一応ここではぼくが入り込んでいた屠場の工程に沿って書いていく。いくつかの屠場で作業をしたが、ほとんど同じ工程だった。内臓を扱う部門は上階と下階の2段になっていて、まず上階で内臓一式を大きく2つに分けて、下の階に送ることになる。今回はまず上階の作業を書く。
 

 

 屠場では、取り出した内臓一式はステンレスの作業台に乗せられる。これはかなり重いが、腹割りは豚肉業者がやることが多く、力自慢が揃っているので平然とこなしている。
 
 作業台、ではなく、作業台の端、と言った方がいいかもしれない。その作業台はずっと先まで長くつながっているからだ。もっとも、これは屠場によっていくぶん違いがあるだろう。ただ、作業台を滑らせながら係ごとに作業していくので、だいたいどこも、長くつながったものになっていることがほとんどだ。
 
 機械の工場であればベルトコンベアーで送るのだが、内臓は水で流しながら送ることになる。血や汚れも洗い流せるからだ。そのため作業台は水がこぼれないよう、手前と奥の両側が数センチ程度高くなっている。また、内臓が滑りやすいよう、ステンレスでできている。
 
 ようは、幅の広い流しそうめんと想像していただくと分かりやすい。あるいは滑り台か。ただ、あまり勢いよく滑っていっては作業ができないので、下り坂にはなっていない。幅は大体7、80センチくらい。皆さんのキッチンの流し程度の奥行と思っていただければいいだろう。
 
 その端に乗せられた内臓一式は、まず獣医の検査を受ける。肉眼で外側全体を見ることと、レバーやハツなどに切れ目を入れて内部を見ることと、両方の作業をする。ここでときおり、切れ目を入れすぎる先生がいて、あまりにひどいと我々モツ業者はクレームをつけることがある。「そんなにずたずたに切られちゃ、売り物にならないよ」、と。
 
 検査が通ると内臓一式はそのステンレスのルートを流され、次の係のところで肺を切り取られる。肺は味がなく、捨ててしまうのだ。因みに、肺はオレンジがかったピンクできれいな色だ。
 
 そして、「シロモノ」と「アカモノ」の2つに分けられる。「シロモノ」とは、白い色の内臓のこと。主に大腸、小腸、直腸、胃の4つの部位だ。「アカモノ」は赤い色の内臓。舌、のどナンコツ、心臓、肝臓だ。以前は業者がやっていたが、今は屠場の作業員がやる。
 
 これら2つのかたまりは、それぞれ滑り台を使って下の作業場に落とされる。ここまでが上の階の仕事だ。もちろんベトナム人の豚泥棒たちが、こうやって整然とシロモノとアカモノを分けていたかは分からない。しかしある程度手順を踏んでバラしていかないと、やたら切り刻んで商品化できなくなる。これに近いことはやっていたのではないだろうか。
 
(つづく)

 
 
 

 
 




駄文ですが、奇特な方がいらっしゃいましたら、よろしくお願いいたします。