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豚モツ業者が検証する『ベトナム人の豚盗難事件』 その3 内臓の取り出し

 
 『その2』で、豚の腹を割くところまで記した。
 
 なぜ腹を割くのかというと、当然だが、中の内臓を取り出すためだ。箱を開けずに中身を取り出すのは不可能というものだ。
 
 内臓を取り出すのは、早ければ早いほどいい。絶命しても内臓は熱を持っているので、肉全体を傷めてしまう。盗んだはいいが腐って売れなくなった、ということになってしまう。『その1』で書いたように、おそらく現場で絶命させたと思うのだが、そうなると自宅で腹を割くというのはかなり遅い。屠畜はスピードが勝負なのだ。
 
 内臓を取り出すことを、「腹出し」、「腹割り」などと言う。屠場では逆さに吊るしてあるので、豚のお腹側に立ち、肛門のところから首までナイフを下ろしていく。生きている豚にやれば血をかぶることになるが、血抜きをしているのでさほどではない。それでも屠畜の一連の流れでは、腹出し作業は最も血を浴びる仕事だろうか。
 
 腹出しは迅速性を求められるので、複数で行う。その前に、ひとり、台に乗って一段高くして立つ。直腸を切り取る係だ。この係は、マシンガンのような形の機材を使う。その先端がコーヒーカップくらいの円周の輪っかになっていて、それを肛門に押し当てて焼き切るのだ。この作業で、肌から直腸が切り離される。
 
 腹出しの係は、ナイフを適正な場所に入れて周囲の肉から内臓を独立させていく。これも当然のことだが、内臓はところどころ、肉とくっ付いている。そうでないと、内臓がゴロゴロと動いてしまったり、絡まってしまうことになるからだ。しかるべきところに、傷がつかないよう安定して納まっているようにホールドされているのだ。そのつながった部分を切って、内臓と枝肉を分けるのが腹出し作業をする目的だ。
 
 屠畜作業の中で、最も難しい仕事だろう。コンベアーに吊るされているだけだし、次々送られてくるので絶えずぶつかり合い、大きく揺れる。それに、湯気と血でナイフの先がよく見えない。熟練の技が求められる。
 
 枝肉と分離され、周囲の肉から離された内臓はひと固まりになって、台の上に置かれる。タンから始まり、のど軟骨、フワ、ハツ、レバー、ガツ、チレ、アミ脂、小腸、大腸、テッポウとつながった、内臓一式だ。モツ業界の用語を使わないで記せば、舌、のど軟骨、肺、心臓、肝臓、胃、脾臓、アミ脂、小腸、大腸、直腸となる。この時点では、肝臓には胆のうがくっ付いていて、すい臓は腸の周辺にこびりついている。
 
 彼ら豚泥棒が内臓をどうやって取り出したのかは分からない。素人で、一部分ずつ取り出したのかもしれない。しかし、ある程度の屠畜の知識があると考えているので、腹を割いて丸ごと取り出し、まずは枝肉と内臓を分けたはずだ。
 
(つづく)
 
 


駄文ですが、奇特な方がいらっしゃいましたら、よろしくお願いいたします。