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小学生だった。


何を思ったのか、
当時まだ小学校低学年の妹が空瓶の中に手紙を入れて
それを海に流したいと言い出したことがあった
手紙はもう書いたから手伝ってくれ的なことを言われ軽くダレたが 俺もまだ小学生、多少興味があった
それに兄が自分の夢を懸命に手伝ってくれた事を妹が両親に言ったら 俺の株も上がるとも思った

俺たちは瓶を探したが
漫画とかドラマに出てくるような素敵な空瓶は
ここ山梨のクソ田舎にかろうじて建っている傾きかけた家にはもちろんなく、 父親の飲みかけの馬鹿でかい庶民の味『日本酒 菊正宗』の茶色の瓶なら いとも簡単に見つかった
瓶の中央にもの凄くでかい菊のラベルが張ってある
和風テイスト溢れる一品だ

妹がありえないくらいグズり
「最悪瓶じゃなくてもいい」的な妥協案を力なく語り始めたが、 兄の説得によりしぶしぶ折れた

中に残っている酒を捨て、水で適当に洗い、
ビニールに包んだ手紙をほのかに香る瓶の中に軽く酔いながら2人で入れた

大きく『菊』とかかれたプラスチックの蓋をして、
残念ながら海はここ山梨にはないので、近くの湖に向かった 補助輪付きの自転車の籠に菊正宗の瓶を入れ
湖に向かって力強く漕ぐ妹の姿はなんともいえないオーラをかもし出していた

湖に着き、俺はその瓶を力いっぱい投げた

妹が「ありがとう」と言った

しばらく2人で瓶を見ていたが、妹が「帰ろう」と言ったので また2人で来た道を帰った

何が書かれていたのかは知らない
誰かが拾って返事が来たのか
結局誰も拾わず湖の底に沈んだのか
それも知らない


ただ俺はあの時、あの瞬間、

妹の小さな夢のために


力いっぱい瓶を投げたのだ

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