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アイ・レコメンドー新人研修、承ります!ー

「ちょっと、貴女、どういうことかしら?昨日はワタクシが教官と過ごすはずでしたわよね?そも当番制を言い出したのも貴女ではなくって!?」

「そうだぞぅ、抜け駆けだー」

「抜け駆け、よくない、よ?」

「うぅ、だってーーー」

かしましい。格納庫内にオレが好んでプレイする恋愛ゲームのキャラにそっくりの声音が響く。ヤツらの言う教官とはオレの事に他ならず。声音通りの、美少女達からの”奪い合い”の対象となれば、さぞや、と妄想を膨らませたことがない、といえば嘘になる。

なる、が。

眼前で今まさにオレの”奪い合い”を繰り広げようとしているのは、15m級自律機械歩兵アルフィード超大型災害救助用多脚万能車両クラスコ極限状況対応型ジェスナ級無人調査艦に、惑星開拓先遣ユニット・リフェルといった、人類の英知が作り上げた機械の巨神達だ。本当に”奪い合い”なぞ起きた日には、オレの体はその圧倒的破壊空間の中で阿難陀の最期が如く粉微塵に違いない。想像するだに震えが来そうになる。

だが、オレの仕事はヤツらの教官、なのだ。深呼吸。気合を入れ直し出入り口の壁をドン!と叩く。

「いつまで騒いでる!さっさと声、戻せ!!然る後、状況を説明しろ!!」

「ハッ、申し訳ございません。教官殿」

軍属らしく、真っ先にアルフィードが、いつものバリトン・ボイスで応答してくる。

「説明をさせていただきます。従前より、この”奪い合い”が、教官殿の精神面にストレスを与えていることは、理解しておりました。ですので、教官殿の嗜好に合わせたシチュエーションに擬すれば、負担が軽減されるのでは、とーーー」

「待て。貴様らが用いた音声データ。元は私用の端末にしかないはずだが?」

沈黙。どうやら、最新鋭のAI達は”やらかした事””察した”ようだ。

ここは、深層学習を終えたAI達に、配属先に合わせた微調整を施す特務機関。通称、新人研修所

そして、どうやらオレはモテ期らしい。


【続く】

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