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パルプエッセイ・祖母の淹れてくれた“午後の紅茶”

“午後の紅茶”、というとウエストバージニアの山中で暮らす祖母の事を思い出す。

大自然に囲まれたこの地は、州都チャールストンの喧騒(とは言ってもニューヨークのソレを想像して貰っては困る、“古き良きアメリカ”の佇まいを残す比較的のどかな都市だ)とは打って変わって、文字通り“大自然に抱かれている”とそう全身で感じる。

樵をしていた祖父が亡くなり、せめて私で良ければ話し相手になろうと週末は祖母の元へ通うことにして暫く経つ。

山も森も燃える様な赤や黄に色付く晩秋、山では少し日が傾くと肌寒さすら感じる。そうなると祖母は必ず紅茶を淹れてくれる。特別な茶葉でも何でもない。少し離れたウォルマートで買ってくる普通の茶葉だ。ただ、祖母は丁寧に丁寧に淹れる。ミルクパンも祖母の母から譲り受けた年代物だ。

私もそれに合わせてベーコンパンケーキ(祖父の得意料理だ)を焼く。
祖父のベーコンパンケーキはこの辺りではちょっと知れたモノだった、らしい。祖母との出会いにも関係が有る…そう祖父からは聞いた事があるのだが、祖母はその話題になると必ずはぐらかす。

二人でキッチンに立ち、他愛もない話をしたり、二人で歌いながら(ご想像の通り“故郷へかえりたい(Take Me Home, Country Roads)”だ。貴方がウェストバージニア州を訪れる事が有れば聞いてみて欲しい。ここでは驚くほど皆このジョン・デンバーのヒットソングを無意識に口ずさむのだ)過ごす時間は至福だ…出来上がったベーコンパンケーキを祖母の入れた紅茶と共に味わう次にね!

◆ ◆ ◆

昨年の秋、私はパルプ小説を日本で広める為に来日した。
今は日々原稿を書く事に追われる毎日だ。

そんな時、アパートの側にあるコンビニエンスストアで何気なく買ったのがKIRIN午後の紅茶・あたたかいミルクティーだった。

店を出てビルに囲まれた公園でそれを飲んだ時、私は東京の高層ビルに囲まれながら故郷、ウエストバージニアの自然と祖母の淹れてくれた紅茶の事を思い出していた。そしてベーコンパンケーキ、ジョン・デンバーのあの曲を…。

ただ、今は“故郷へは帰らない”
私の夢(この日本をパルプで埋め尽くす事だ)を成し遂げる為、今日も“午後の紅茶”を飲んで頑張ろう。
私にとって故郷を思い起こさせる「ひとつ上の、休息を」取り、今日も人が死ぬ小説を私は書き続けています。

追記。
私がウェストバージニアを暫く離れるにあたって祖母にアイフォーンをプレゼントした。
思ったより使いこなしている様子で、もうじきサーモン釣りが解禁されたら祖母はそれをわざわざ日本へ送ってくれるとメールが来ました。
先日も女友達とビーバーやクロクマ、マウンテンライオンを狩猟したという写真を送ってくれた(言い忘れていたが祖母はハンターだ)。
何時までも元気でね!

また紅茶を飲みに帰るからね、お祖母ちゃん。

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