138.第5章「映画とテレビでトップをめざせ!不良性感度と勧善懲悪」
第19節「東映製作巨大ロボット作品①アニメ長浜ロマンロボシリーズ」
1972年12月、フジテレビ系日曜19時放映の『マジンガーZ』1972/12/3~1974/9/1 全92話)から興った巨大ロボットアニメブームは子供たちの心を捉え年々拡大しました。
「マジンガーZ」から始まりこのブームを支えたポピーの玩具超合金シリーズは、『ゲッターロボ』(1974/4/4~1975/5/8 全51話)にて3機の飛行マシンが合体して誕生する合体ロボの登場でより人気が高まり、次第にロボットにリアルな合体が求められるようになります。
また、『マジンガーZ』でロボットに目覚めた子供たちも年を重ね、スペースオペラ『宇宙戦艦ヤマト』などの登場により大人向けの設定や重厚なドラマを求めるようになってきました。
1975年4月、NETテレビ(現テレビ朝日)系金曜19時枠にて始まった東北新社企画・創映社(後のサンライズ)制作の巨大ロボットアニメ『勇者ライディーン』(1975/4/4~1976/3/26)は、より高い年齢層からの人気を集め、ポピーの玩具も大いに売れます。
この作品の第27話から総監督となった長浜忠夫は、これまで『ひょっこりひょうたん島』『オバケのQ太郎』『パーマン』『巨人の星』『ど根性ガエル』『侍ジャイアンツ』などの演出や構成で評価の高い演出家でした。
中学時代から舞台演劇に取り組んできた長浜は、人形劇の世界からテレビアニメ演出に進出し『オバケのQ太郎』などの「ギャグ物」作品で人気を呼びます。
演劇で鍛えられた重厚でこだわりのドラマ作りは『巨人の星』に代表される「スポコン物」でも大ヒットを飛ばしました。
主人公星飛雄馬と父一徹の濃い親子ドラマやライバルたちとの竜虎相搏つ派手な戦い、一球を投げるまでの様々な思いや回想など、インパクトある数々のシーンは多くの子供たちの心に残っています。
過剰なほどの熱い演出が長浜アニメの真骨頂でした。
一旦アニメ演出を離れCM制作に移った後、『勇者ライディーン』第27話から再びアニメ界に復帰し、世界観を引き継いでドラマの人気を高めます。
① NET系土曜18時『超電磁ロボ コン・バトラーV(ブイ)』(1976/4/17~1977/5/28 全54話)
1976年、フジテレビでは日曜19時『マジンガーシリーズ』第3弾『UFOロボ グレンダイザー』(1975/10/5~1977/2/27 全74話)が大ブレイクしていました。
4月には、フジテレビ木曜19時にて『ゲッターロボG』の後番組として東映動画オリジナル原作『大空魔竜ガイキング』(1976/4/1~1977/1/27 全44話)が始まります。
この時、NET系日曜18時、タカラスポンサーの『鋼鉄ジーグ』(1975/10/5~1976/8/29 全46話)も人気を集めており、東映動画は巨大ロボットアニメを週に3ライン、他に『一休さん』『マシンハヤブサ』など計5ライン制作していました。
巨大ロボットアニメブームの中で特撮ヒーロー物が苦戦していた東映テレビ事業部は、部長渡辺亮徳(よしのり)の指示で八手三郎の名で新たに巨大ロボットアニメ作品を企画。『勇者ライディーン』の東北新社・創映社に制作を委託し、今シーズン東映4作目となる巨大ロボットアニメ『超電磁ロボ コン・バトラーV』をNET、東映エージエンシ-と共同製作します。
この新番組は4月17日、これまでスポーツ番組枠だったNET系土曜日18時にて放映が始まりました。
東映では、東映動画にてアニメ映画『わんぱく王子の大蛇退治』『サイボーグ009』やテレビアニメ『少年忍者風のフジ丸』『魔法使いサリー』『もーれつア太郎』など人気シリーズを企画していたアニメプロデューサー飯島敬(たかし)が企画を担当します。
1958年、東映に入社した飯島は本社動画部企画課に配属され1961年8月に東映動画企画部に出向、そこで数々の映画やテレビのアニメ作品の企画に携わった後、1972年8月に東映芸能(株)芸能部に異動しました。
1973年2月、テレビ事業部に設立されたテレビ関連事業室の課長として東映に戻り、テレビ番組雑誌『テレビランド』の編集責任者など版権事業関連業務を行っていました。
そして今回、東映自体が初めて東映動画以外でテレビアニメを製作するにあたって経験者としてアニメプロデューサーに起用されます。
総監督は長浜忠夫、脚本にはベテラン辻真先・田口章一(東映田口勝彦)・五武冬史(サンライズ鈴木良武)他、演出では横山裕一郎(サンライズ神田武幸)・寺田和男・斧谷稔(富野由悠季)他、アニメーションキャラクター安彦良和、メカニック設計としてスタジオぬえがデザインを担当。玩具製作に関係するロボットデザインなどにポピーの村上克司が後ほど参加しました。
主題歌は、作詞八手三郎、作曲『狼少年ケン』『ひみつのアッコちゃん』の小林亜星、編曲・劇伴筒井広志、オープニング、エンディングとも水木一郎が歌い人気を集めます。
『勇者ライディーン』から始まる美形キャラ敵方司令官や登場人物たちが繰り広げる様々な愛憎劇など、長浜による重厚な演出は大人になって行くアニメファンの心を捉えました。
5機のバトルマシンが合体して完成する巨大ロボットコン・バトラーVは、現実的な合体が可能となった初めてのロボットで、長浜のこだわりもありポピーが苦労した末に完成した玩具は大ヒットします。
子供たちの人気を集めたこの巨大ロボットアニメは、1977年3月19日公開「東映まんがまつり」の中でも上映されました。
長浜忠夫が総監督を務めた巨大ロボットアニメは、後にアニメファンの間で「長浜ロマンロボシリーズ」と名づけられ、『超電磁ロボ コン・バトラーV』はその第1作と呼ばれます。
② ANB系土曜18時『超電磁マシーン ボルテスV(ファイブ)』(1977/6/4~1978/3/25 全40話)
1977年6月、大ヒットし終了した『超電磁ロボ コン・バトラーV』の後番組として、 テレビ朝日(4月商号変更)、東映、東映エージエンシーの共同製作巨大ロボットアニメ『超電磁マシーン ボルテスV』の放映が始まりました。
東映サイドのプロデューサーは引き続き飯島敬が担当、同じく長浜忠夫が総監督で東北新社・日本サンライズ(1976年11月創映社商号変更)が制作します。
脚本は前作参加の田口章一(東映田口勝彦)・五武冬史(サンライズ鈴木良武)・辻真先他、演出も前作同様にとみの喜幸(富野由悠季)、横山裕一郎(サンライズ神田武幸)・寺田和男他、キャラクターデザインは漫画家の聖悠紀(ひじりゆき)、メカニック設計はメカマンの中村光毅・大河原邦男とスタジオぬえが受け持ち、アニメーションキャラクター佐々門信芳、金山明博、仕上げはシャフト、ディーン(現スタジオディーン)、ロボットデザインなどについては前作同様5機の合体ロボ玩具製作を前提としてポピー村上克司主導で進められました。
長浜は『超電磁マシーン ボルテスV』では、友情を中心においた1話完結の『超電磁ロボ コン・バトラーV』に対し、父と子の愛情をテーマに、よりドラマチックな大河ドラマを展開します。
主題歌は前作と同じく八手三郎作詞、小林亜星作曲、筒井広志劇伴で、編曲に高田弘が加わり、オープニングテーマ曲『ボルテスVの歌』は堀江美都子が歌いました。
長浜忠夫があおいあきら名で作詞したエンディングテーマ曲『父をもとめて』は前作の主題歌を担当した水木一郎が歌っています。
子供たちにとってはやや難しいストーリー設定だったことやスーパーカーブームが巻き起ったこともあり、前作に比べ子供向きのポピニカ玩具の売り上げは減少しましたが、より高い年齢層のアニメファンからの熱い支持を得て高額の超合金玩具はヒットしました。
敵方ボアザン帝国の美形キャラ皇子プリンス・ハイネルを取り巻く人間劇はその後の巨大ロボットアニメに大きな影響を与えます。
「長浜ロマンロボシリーズ」第2作『超電磁マシーン ボルテスV』は海外に大きな影響を及ぼしました。
1978年、フィリピンで放送が始まると子供たちがこの熱い戦いのアニメに熱狂、最高視聴率58%を記録する大ヒットとなります。
しかし翌1979年8月、フェルディナンド・マルコス大統領が暴力的で子供に悪影響を与えることを理由に放送禁止を宣言、残り4話を残し放映が中止されました。
1986年、エドゥサ革命でマルコス政権が倒されコラソン・アキノが大統領就任した後、ようやく残りの回が放映されます。
1999年、再び放送されると最高視聴率40%を超える大ヒット。再度大ブームがおこり、堀江美都子の歌う日本語の主題歌「ボルテスVの歌」も大ヒット、第2の国歌と呼ばれるほどの人気となりました。
そして2023年にはフィリピンにて『ボルテスV:レガシー』(2023/5/8~9/8 全97話)というタイトルで実写特撮ドラマとしてリメイク、GMAネットワークで放送されます。
2024年10月18日からは日本での劇場公開が決定しました。
③ ANB系土曜18時『闘将ダイモス』(1978/4/1~1979/1/27 全44話)
『超電磁マシーン ボルテスV』に続き、長浜ロマンロボ第3作『闘将ダイモス』が始まります。
今回、東映サイドのプロデューサーとして飯島敬とともに若手の鈴木武幸(後東映専務取締役)が加わりました。
これまで同様、東北新社・日本サンライズ制作で、総監督は長浜、脚本も前作に続き田口、辻、五武(鈴木)他、演出として前作の横山(神田)、寺田は担当しますが冨野は離れ、東映動画を辞めフリーランスとなった佐々木勝利などが参加。今作では男女の愛をテーマに物語が繰り広げられます。
キャラクターデザインは聖悠紀、メカニックデザインスタジオぬえ、途中から出渕裕も入り、アニメーションキャラクターは金山明博が担当、今作の「ダイモス」は合体ロボではなく変形するロボットで村上克司がデザイン、アクションは大野剣友会から独立した殺陣師高橋一俊の動きを撮影しトレースすることで本格的なアクションを追求しました。
主題歌は新たに菊池俊輔が作曲・編曲を担当、作詞八手三郎のオープニング曲「立て! 闘将ダイモス」はささきいさお、長浜作詞のエンディング曲「エリカのバラード」は、かおりくみことこおろぎ’72の 大倉正丈が歌います。
今作の美形キャラはバーム星人のリヒテル提督。どんどん美形化が進んでゆきました。
プロデューサー鈴木武幸が、自著『夢を追い続ける男』(講談社)にて「本作品は玩具の売れ行きもよく視聴率的にも問題なかったのですが、44話で放映が終わりとなりました。これは、後番組の『バトルフィーバーJ』を4月スタートではなく2月スタートに早めてほしいという局からの要望があったからです。」と述べているように、ANB系土曜19時30分枠で放映されていた「スーパー戦隊シリーズ」『ジャッカー電撃隊』の後番組でマーベル・コミック社との提携作品『バトルフィーバーJ』が、玩具販売の都合もあり1979年2月からこの土曜18時枠に移ることが決定、アニメファン人気の高かった『闘将ダイモス』は1月で惜しまれながら終了しました。
そして「長浜ロマンロボシリーズ」は、共同製作会社である東映エージエンシ-が担当していた東京12チャンネル水曜19時30分枠『スパイダーマン』の後番組として引き継がれて行きます。
④ 東京12チャンネル系水曜19時30分『未来ロボ ダルタニアス』(1979/3/21~1980/3/5 全47話)
1979年3月、テレビ局が代わって新たに東京12チャンネルと東映、東映エージエンシ-で共同製作することになった「長浜ロマンロボシリーズ」新番組『未来ロボ ダルタニアス』がスタートしました。
東映プロデューサーは飯島・鈴木、本作品から東北新社は外れますがこれまで通り日本サンライズが制作を担当、長浜を中心として脚本五武(鈴木)・田口・辻他、演出佐々木、おなじみのスタッフで始まります。
アレクサンドル・デュマ作の小説『三銃士』をモチーフにしたこの作品は、これまでの高めの年齢層のアニメファン向けではなく、玩具の本筋である子供向けのロボットアニメとして作られたため美形キャラも登場せず、コメディ要素も取り入れられました。
キャラクター原案は聖悠紀・金山明博、メカニック設計サブマリン、アニメーションキャラクター金山、3機が合体するロボットデザインはポピーの村上克司が担当し、音楽は筒井、主題歌は小林亜星が作曲しオープニング曲「ダルタニアスの歌」は堀江美都子が歌います。
東京ムービー制作のアニメ『ベルサイユのばら』を演出するため長浜が第26話で降板、佐々木が総監督を引き継ぎました。
高年齢層のアニメファンが離れたこともあり視聴率的には苦戦しましたが、高額の超合金がヒットし商業的に成功したことで番組は1年間続き、後番組の巨大ロボットアニメ『宇宙大帝ゴッドシグマ』も決定しました。
『未来ロボ ダルタニアス』で日本サンライズの制作も終了しますが、東京12チャンネルでの東映テレビ部製作の巨大ロボアニメは、1984年2月に終了する『高速電神アルベガス』まで続いて行きます。
『ベルサイユのばら』の演出も途中降板した長浜忠夫は、フランスとの合作アニメ『宇宙伝説ユリシーズ31』制作中の1980年11月、劇症肝炎で逝去しました。
現在まで続く巨大ロボットアニメブームに大きな影響を与えた「長浜ロマンロボシリーズ」は『未来ロボ ダルタニアス』で終わりを告げます。