とあるバイヤーの恋憧れ

 一人、自宅で仕事をしているとどんどん気分が落ち込んでいく。俺はバイヤーの仕事をしているのだけど、今の時代は外に出歩くのも危険で、人に会うこともなく、ただパソコンで世界中の品物を探してはそれを取り寄せて、依頼を受けた通販サイトのラインナップに商品を並べていくだけの日々だ。SNS上では友人や取引先と言葉のやり取りは行っているけれど、やはりそれだけでは満たされない。やはり人間は目と目で表情を見ながら心で語り合わなければ満足できないと痛感している。いったい、いつまでこんな日々が続くのだろう。もしかすると事態が落ち着くまでに人間は進化して、一人でも生きていけるように脳が進化して平気になるのかもしれない。だけど、今の俺には難しいことだ。親しい人と向き合って優しい言葉をかけあって、心を温める機会がなければ、どんどんと心が栄養失調になっていく。いや、優しい言葉なんて贅沢は言わない。心を振るわせて怒りをぶつけあうようなケンカでも構わない。とにかく感情を働かせたいんだ。このままでは心が死んでいく。小さな言葉でもいいので、どうにか人との交流が欲しい。そんな思いが日に日につのっていた。

 休みの日、その寂しさを紛らわせるために友人とのSNSの履歴を見返していた。過去のやり取り、特に女性の友人とのやり取りを見返していると、恋人でもないのに恋人だったかのような錯覚を覚えて心が温かくなっていく。

「こんな仕事の失敗があった」

「バカじゃないの」

「動いてないので太った」

「いい加減痩せろ」

 つまらないやり取りだし、その時は腹がたつこともあったが、今見返してみるとフッと笑う自分がいる。気づけば女友達とのやり取りばかりを見返していた。それは性欲だとか不純な理由ではなくて、きっと異性との会話には心の隙間を埋める成分があるのだと思う。それは同性との会話で笑っても得られない感情だ。心にポッカリと空いた隙間を埋めるために三十分も女性とのやり取りを読み返し続けていた。

 ただ、そもそもその人たちは恋人ではないので大した文章量はない。全ての履歴を三回読み返したところで満足できることはなく、むしろ消化不良でますます心の飢えがひどくなってきた。多くの男友達はそんな時にリモートキャバクラを利用するそうだ。最近はVR技術も進化して、旧来のキャバクラを自宅でも再現できて楽しめるそうだが、旧来のキャバクラすら楽しめなかった俺にリモートキャバクラは向いていない気がする。それにリモートキャバクラを楽しむためには、やはり温感装置が完備されたVRグローブがあった方がいい。触った感触や体温をグローブが再現してくれるというとてもありがたい代物だが、それは非常に高価だ。性能がいいものになると月給の二か月分に相当する。人が外に出られない環境となってしまい、経済活動の主流がデジタルになっていた。今がその過渡期なのか、性能の良い新商品は数多く出るけれど、まだ庶民に手が届くものではない。リモートキャバクラに気が進まないのは機材が高いこともあるし、またリモートキャバクラが盛況になる中で詐欺や情報の盗難も増えていると聞く。ちゃんとしたリモートキャバクラを楽しむには優良店への登録が必要となるが、政府から優良店の承認を得たお店は設備に金がかかっているのとキャストへの支払いがしっかりしているためか、総じて高額となっていた。庶民が昔のようにキャバクラを楽しむにはまだ時間がかかりそうだ。

 俺は肩を落として、女性の友人のSNSでアルバムを見ていた。それは条件付きで一部に公開されているもので、本来は同性の友人にだけ許可を出しているページになるのだが、俺があまりに女性との接点がないので、その女友達が同情して特別に許可を出してくれていた。そんな友人がいるという意味では俺は恵まれている。今の時代、無料で女性の、普段の楽しんでいる姿を見るのは非常に難しい。デジタルストーカーが社会問題になっていることで、プライベートの映像がほとんどネットに出ないからだ。女性の友達がいなければ、まず一般人の女性の姿を拝むことはできないだろう。それでも見たければ、メディアに出る有名人や有名になりたい地下アイドルの写真や映像を定額課金して見ることでしか叶わない。そういう意味では友達がいることで満たされるが、実のところ俺もアルバム閲覧の許可を出してくれている女の子に対して、仕事で仕入れたサンプル商品の横流しをしてようやく許可してもらえた。対価を支払わなければ異性との接点を作ることができないのだから、いつの時代もモテない男はつらい。

 そんな自己分析に肩を落としながら、気分を変えるために友人のアルバムを閲覧する。外に出られない環境ではあるが、それでも楽しいことはどんどんと増えつつある。これまで観光地として栄えた市町村は、VRとデジタルアートを駆使して視聴者を増やしてきた。中でも今、人気なのは長崎市の協会が作った観光VRだ。過去のランタンフェスティバルの映像とおくんちと呼ばれる中国由来の龍踊(じゃおどり)と呼ばれる龍の映像をコラボしたものをVRで体験できるもので、目の前でランタンの赤と橙の光で輝く世界で龍が躍る世界をゴーグルを通して体験できるデジタルアートだ。しかも複数人同時体験を可能としており、友達同士が寄り添って龍の接近に驚く様子などが撮影されている。まさに新しい観光の形と言えるだろう。

 俺が閲覧している女友達も、他の友達と一緒にそのVRを体験していたようで、その時の写真がいくつもアルバムに掲載されていた。お祭りなんて何年も体験していないし、ましてや誰かとイベントに参加するなんてこともない。だからか友人はそのVRに心から感激し、驚く表情を見せていた。写真には女性が四人ほど映っていたが、全員がそれぞれに思い思いの表情で写っていたのだけど、その中でも特に目が引いた女性がいた。その子は名前も知らない女性だった。四人の中でも一番背が小さく、端っこの方で控えめにたたずんでいる。VRの開始直前の写真に、四人が談笑する様子が映っていたのだけど、その子は輪の外側で愛想笑いをしているように見えた。もしかするとデジタルアートが好きではないのかもしれないし、ひょっとすると三人とはあまり親交が深くないのかもしれない。いずれにしても、一歩下がった位置にいるように見えた。

 だけど、VRの映像が始まると誰よりもその子の表情が豊かだった。最初、固かった彼女の表情が、ランタンがポワッ、ポワッ、ポワッとオレンジの光で灯されていく様子に目を見開き始める。そして笛や太鼓の奉納音曲に合わせ、遠くの空から大きな龍の姿が現れた時、口元に手を当ててのけぞっていた。その龍が金色の大玉を追い、宙で踊り、女性たちの周囲をグルグルと周り始めた時、彼女は口元に大きなしわを作って笑っていたのだ。目を見開いて、口元に大きなしわを作っている。その感激の表情は見方によっては品がなく映ることもあるかもしれないが、日々、陰鬱な生活を送っていると何よりも輝かしい表情に感じた。

 人って、驚いたり嬉しいことがあるとこんな表情になるんだな。なんて素敵なんだ。

 隔離生活が始まって何年もたつが、久しぶりに人の表情を見て恋に落ちた。

 

 長崎の観光VRに映る彼女を、俺は二時間も見返した。他にも三件ほど、彼女が映る動画を見つけて俺は何度もそれを見返していたのだが、気づければさらに三時間が経過していた。これだけ彼女を目で追っているのだ。間違いない。俺は彼女に恋をしている。長々と彼女の動画を漁ったのは彼女に恋する“覚悟”を決めるためだと言っても過言ではない。もし、その様子を死んだ両親が天国で見えていたら、「五時間も何もしているんだ、せっかくの休みを無駄にしやがって」と怒っているのかもしれないが、「時代は変わっているんだ」と言い返したい。今や、デジタルの法整備は過剰なまでに進んでいる。デジタル社会になって最初に横行したのはクレジットの情報や電子マネーの情報を抜き出す金銭的な犯罪が多かったが、近年ではさらにデジタルストーカーが現れたり、VRの情報を元にいかがわしいVR映像を作る性犯罪まで出現した。それらには刑事罰も課されるようになり、罰金にとどまらずにひどいものには懲役刑まで課される始末だ。恋をしてアプローチをかけるだけでも、やり方を間違えるとデジタルストーカーと名指しされかねない。男女ともに恋をする時には犯罪者に間違われる覚悟を持つことが今の時代では必然なのだ。

 その覚悟を決めた俺は女友達に連絡を入れた。

「八月のアルバムの長崎のVRに映っていた端っこにいた女の子のことが好きになったんだ。ぜひ紹介して欲しい」

 その日、友人も休みだったようで、返事はすぐに返ってきた。

「マジで?あんた、あの子のことが好きなの?会ったこともないのに」

「知り合うこと自体が無理だろう。ここしばらく外出許可は誰にも降りてないよ」

「そりゃそうよね。私も、彼氏としばらく会ってないわ」

「VRでは会ってるんだろう」

「それがさ、最近、向こうがずっとVR接続が続いてて入り込めないのよ。ブロックしているみたい。SNSでは返信があるんだけど。たぶん、浮気しているんだと思う。近々、ハッカーにお願いして何をしているのか探ってもらうつもり」

「おいおい。それ、違法だぞ」

「いいのよ。もし浮気だったら、むしろ私の方が有利になるし。あ、ごめん。私の話をしちゃった。それでピクラちゃんとつながりたいわけね」

「そう。ピクラちゃんって言うのか、その子」

「うん。私も本名は知らない。友達が連れてきた友達だったし」

「ということは、君もあまり知らないの?」

「そうなの。一応、友達登録はしているから連絡は取れるけど、個人的にはあまりやり取りはないから、私が紹介しても向こうが信用してくれるかどうかわからないわ」

「そうか」

 つい落ち込んでしまい、短文で返してしまう。女性はそうした言葉一つでこちらの気持ちを察することができるようで、怒りマークの絵文字が返ってきた。

「なに弱気になってんのよ。せっかく恋愛する気になったんでしょ。だったら覚悟を決めて本気で口説きにいかないと。今の時代、二人に一人は独身で死んでいく世の中なんだから。戦わないと結婚できないわよ」

 強烈な意見だ。確かにこのままでは我が人生は独身のままで終わる。それは恐怖だ。例え、多くの人間が子孫を残せずに死ぬことが多い世の中でも、一生、一人のままで死んでいく未来は耐えきれない。

「わかった。死ぬ気で頑張るよ。だけど、デジタル恋愛は素人なんだよ。何からしたらいい?」

 そう言って泣きついたところ、彼女から笑顔の絵文字と手を差し出す絵文字が送られてくる。対価をよこせという意図の絵文字だ。

 やれやれ。俺は首を振りながら、一つのURLを送った。これは俺が楽しみにしていた食品データだ。一度だけ食品専用の3Dプリンターで再現できる有名フレンチ店のステーキのデータである。五千円で購入したデータで、今、取り掛かっている仕事が片付いたらご褒美に食べようと思っていたものだ。

 URLを送ると、友人からは「まいどあり」と笑顔の絵文字が返ってきた。人類が滅亡しかかっていても、世の中は世知辛いものである。

 

 ビデオ通話に切り替えたケータイの画面に、眉をひそめた友人の不機嫌な顔が映っている。彼女はアバターではなく、本人が映っているのだが、もともと怒り顔の彼女に睨まれると俺は震えあがってしまうのだが、語気を強めてくるので膝まで震え出していた。

「ねえ、あんた、カメラのセンスがなさすぎよ。AカメラとBカメラの角度を変えてよ」

 俺は部屋に設置した3Dカメラの角度を変えて、再び部屋の真ん中に立った。俺が制止したところで四台の3Dカメラが作動して全身スキャンを再開した。そのデータはパソコンに表示されるのだが、ネットで友人と共有しているので彼女も睨みを利かせながらデータを見ていた。

「ああ、もう。また、ずれてる。首と腰が歪んでいるわよ。どうして最新の3Dカメラを持っていないのよ。去年のモデルでも、一台でスキャンできるっていうのに。今時、四台もカメラを使っている人間はいないわ」

「3Dカメラはバイヤーの仕事で商品を映す時にしか使ってなかったんだ。小さいものなら、昔のヤツでも性能は十分だったから。まさか自分を映す日が来るなんて思ってもみなかったよ」

「あんた、バカ?今、人間は外に出歩けないのよ。交際を申し込んできた相手の全身を見る方法は3Dスキャンしたデジタル映像しかないわけ。あんたが見た長崎のVRだって、3Dカメラがないとアバターしか映らないのよ。記念写真を撮るなら絶対に必要でしょう」

「それは今回で痛感した。さっき、データ解析している間にネット通販で3Dカメラを注文したよ。明日にはドローンで運ばれてくるはずだ」

「それでいいわ。もし、ピクラちゃんが友達登録してくれたら、今後は3Dカメラを使ってVRでデートするんだからね。使いこなしていないとすぐにブロックされるわよ」

「使いこなせてないと振られる。これがデジタル格差ってやつか。つらいぜ」

「ま、今の3Dカメラなんて女子でも使えるから。そこは心配しなくてもいいわ」

「でもさ、まだ紹介もして貰ってもないのに、俺の3Dデータなんているのかな。SNSには俺の紹介文も写真もあるのに」

 口答えしたのがいけなかったのか、さらに友人の眉間のしわが深くなってしまった。

「やっぱり、あんたはバカだわ。紹介文なんて職業認証以外は自分で書いた文章でしょ。信ぴょう性なんてないじゃない。ましてや写真なんていくらでも加工できるわよ。恋愛の紹介で、加工できる写真を見てもらったところで疑わない女子はいないわ。前にも似たような事件があったでしょ。加工した写真を信じて付き合って、油断したところで情報を抜かれたってやつ。今も恋愛詐欺師はいないわけじゃないんだからね」

 画面を見ていると飛沫が飛んできそうなほどにわめき散らす友人の顔がアップで映し出されていた。彼女が叫ぶほどにデジタル犯罪への警戒心は女子の間で強いようだ。

「ごめん、ごめん。悪かった。俺が甘かった」

「そうよ。3Dデータなら、データの構造が複雑だから改変はできないわ。信用してもらうためには、加工できないデータを用意すること。それが今の時代の誠心誠意なのよ」

「なるほどね」

「ちなみに、今って仕事でどんな商品を取り扱っているの?」

 彼女が聞いているのは俺のバイヤーの仕事のことだ。俺は基本的に食品を扱っているが、時節柄、取り扱う商品はその時々でまったく違うものになることが多い。先月は米や麦などの穀物を扱っていたけれど、そう言った商品は世界規模で不足しているのですぐに在庫がなくなってしまう。その前には魚類を扱っていたが、漁師の方々にも外出禁止令が出て漁獲量がなくなってしまった。今、魚関係は冷凍保存されたものか、水産試験場で養殖されたものに頼る以外に方法がないのが実情だ。そうなると海産物は配給になり、バイヤーの仕事から離れていく。このように扱う商品はコロコロと変わっていくのだ。何年も続く非常事態だから取り扱い商品が変わるのは仕方のないことで、幅広い商品知識がないとバイヤーは務まらない。

 非常事態になる直前、俺は小さな通販サイトで食品関係の仕入れを全て任されていた。本当に小さな通販サイトだったので、社長は新人の俺を奴隷のようにこき使ったのだが、そのおかげで商品知識を培うことも、そして生産者ともつながりも作ることができていた。一つの業界でバイヤーをしていたら、その業界が停滞した時に失業することになるが、幅広いつながりがあるから俺は常にバイヤーとしての仕事がある。これは幸いなことだ。満足に働ける人がいない中で、手に職があることが俺の人生を支えている。

「今は果物を扱っているよ。つい最近、桃の工場生産が始まってさ、それを流通させたいって話が来てる」

「わぁお!桃!めちゃくちゃいいじゃん。私なんて二年は食べてないわ。それをピクラちゃんに送ることはできる?そうしたら、絶対に興味持ってくれるわよ」

「来週、桃を使ったデザートの試作品が届くことになっているよ。いくつか送ってくれることになっているから、それを送ることはできる」

「ベストタイミングじゃん。あんたは役所から職業認証を貰っているし、全身の3Dデータもあるから、誰が見たって絶対に詐欺師には思われないわよ。よし、私もやる気が出てきた。絶対にあんたとピクラちゃんを結ばせてみせるわ」

 友人は力強くガッツポーズを決める。その意気込みは画面越しにも伝わってきたのだ。

「君にそう言ってもらえるなんて、これほど心強いものはないよ」

 俺がそう言うと、彼女はフッと力なく笑った。

「だってさ、他に楽しいことなんてないもの。外に出れないし、彼氏どころか誰とも会えない。VRで顔を合わせたって、それって結局嘘じゃん。本当に本音で会話しているなんて顔を合わせなきゃ誰にもわからない。でもさ、あんたの恋愛に対する思いは本当だと思う。本当にピクラちゃんを愛したいって熱意が伝わってくるもの。そういう気持ちって、例えケータイの画面越しであってもわかるものよ。それが何より楽しくて、嬉しいの。久しぶりに本物の感情を見て、ドキドキしてるっていう感じで」

「そうだね。君たちが映っていたVRも確かにすごかったけど、実際に会って話す喜びとは比べものにならないかもね」

 そう言うと彼女はうつむいた。長い前髪が顔に覆いかぶさり、その表情を見えなくする。

「ねえ。あと、何年したらみんなと普通に会えるようになるかなぁ」

 俺は力なく上を向いた。そうしなければ、何かがこぼれるかもしれなかったから。

「そうだな、あともう少しだと思うよ。隔離生活になって病原菌もなくなりつつあるし、人が外に出歩かないから大気汚染もなくなって、水質改善も進んでいるらしい。環境が良くなればさ、きっと気温も元に戻ってくるよ。せめて四十度くらいにまで下がれば、半年前みたいに一時的にでも外に出られるようになるさ」

「紫外線はどうにもならないって、専門家が言ってたけど?」

「それもさ、きっとすごいクリームができたりするんじゃないかな。それに東京だと都市部の大規模シェルターが完成するって聞いているし。きっと、そのうち、みんなシェルターで暮らすようになるよ。あともう少しの辛抱だよ。だいじょうぶ、そんなのはすぐさ」

 俺は自分に言い聞かせるように明るい声でそう言った。上を向いていたから、彼女の表情は見えなかったが、スピーカーからクスクスと笑い声が聞こえてきた。俺が視線を向けると、彼女は涙をぬぐいながら肩を揺らして笑っている。

「ぷ、ふふ、くすくす。あんたってやっぱり良いヤツよね。前向きなことを言って、私を励ましてくれているんでしょ。全部、テレビで言っていることだけど」

 バカにされているのがわかったので、俺は頬を膨らませる。

「テレビの受け売りで悪かったな。くそ、心配して損したぜ」

「ごめん、ごめん。代わりにちゃんとピクラちゃんを紹介してあげるから、許してね」

「許さん。最後までちゃんとフォローしてくれなきゃ、絶対に許さん」

 冗談で突き放す演技をしながらそう言った。すると彼女はますます笑った。

「男らしいのか、女々しいのかわからないわよ、その態度。まあ、いいわ。私に任せておいてね。しっかりとアピールしてあげる」

「よし。頼んだぞ」

 そう言っている間に、俺の3Dデータが完成したようだ。できるだけ身づくろいをしたつもりだが、やはり少し太って見えるし、髪型も野暮ったい。

「なあ、どうにか加工できないかな」

「なに言ってんの。加工したら意味ないじゃん」

 彼女は声を荒げながらパソコンを操作してデータを受け取ったようだ。データを確認した彼女は俺に笑いかける。

「よしよし。確かに太ってるけど、まあ、許容範囲でしょ。だいじょうぶ、あんたは優しい人だから、話したら好印象を持たれるわよ」

 俺は手を合わせて彼女に頭を下げる。

「お願いします。しっかりと根回りをしてください」

「よかろう。あとで私にも桃のデザートちょうだいね」

 そう言って笑顔を見せ、彼女は通信を切った。俺は長い間、立ちっぱなしだったので疲れてチェアーに腰かけた。やれやれ。恋愛するのも大変な時代になったものだ。ため息をながらも、自分が笑っていることに気づいていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?