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サッカー欧州選手権(EURO 2020)で6,400人感染?!英国公衆衛生庁コロナ感染調査レポートを読む

はじめに

昨日(2021年8月21日)にサッカー欧州選手権2020で6400人のコロナ感染が発生したことを伝えるニュースが世界中を駆け巡り、SNSでも話題となっています。

https://nordot.app/801632294909493248

しかしながら、その多くがソースを直接参照しておらず、特に国内においては情報が限られた日本語記事の断片的な情報から全体像を「想像」し、創られた二次的、三次的な情報が拡散しています。

そこでこの記事では、元となっている英国公衆衛生庁調査レポートの一部(EURO2020関連)について概要を解説していきます。詳細や全体については、元のレポートをご確認ください。国内におけるより有意義な議論に貢献できれば幸いです。

なお、本記事執筆にあたっては最大限誠実な情報提供を心掛けていますが、私自身は公衆衛生あるいは医療についての専門知識を有さないため、情報の正確性、真正性の保証は致しません。また言語的な理解の不十分による誤解などがある可能性、並びに一部のみを選択したことにより発生しうる情報の偏りついても予めお断りしておきます。

(ソース)英国公衆衛生庁(Public Health of England)https://khub.net/documents/135939561/338928724/Public+health+impact+of+mass+sporting+and+cultural+events+in+a+rising+COVID-19+prevalence+in+England.pdf/05204895-1576-1ee7-b41e-880d5d6b4f17

研究方法の概要

・本研究は英国政府のイベント調査プログラムの一環として行われた
・通常のコロナ感染時情報収集とは別に、電話による聞き取り、アンケート、接触者の確認などを含め本プログラム独自の調査を行っている
・感染者について、感染可能期間(感染させてしまう期間、発症日から0~2日前まで)、感染想定日(感染したと想定される日、発症日の3~7日前まで)に対象イベントに参加したかどうかを判定し、該当人数を集計した
・今回対象となるイベントは、EURO2020(サッカー欧州選手権)の他、ウィンブルドン選手権(テニス)、国際クリケット大会、ロイヤルアスコット開催(英国王室主催競馬)、ダウンロードフェスティバル(野外フェス)、全英オープン(ゴルフ)

結果(一部)

・対象イベントにおいて、感染可能期間にイベントに参加した人数3,714名(要するに感染源になった可能性のある人)、感染想定日にイベントに参加していた人数7,396名(要するに感染した可能性のある人)
・うち、EURO2020においては、感染可能期間参加人数3,036名、感染想定日参加人数6,376名
・さらに、EURO2020の決勝日では、感染可能期間参加人数2,294名、感染想定日参加人数3,040名であった
・なお、EURO2020決勝日の観戦者数は67,000名。座席占有率は75%であった
・EURO2020についてのデータは以下の通り。ONS weekly prevalence estimateとは、その地域の当該週におけるコロナ流行率(?)を表わす(多分)。

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・各イベントの男女比、年齢分布は以下の通り。Age quartile は四分位数を表している。入場者数の人数を若い順番に並べたとき、たとえばAge quartile 25%は一番若い人から数えてちょうど25%の人の年齢を表す。

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英国公衆衛生庁による分析(一部)

・EURO2020、ウィンブルドンはどちらも複数日に渡る屋外のスポーツイベントであり、観戦人数も同程度であった
・いずれも、観戦にあたっては、ワクチン接種の証明、LFDの陰性証明、自然免疫の証明が必要だった
・しかし、EURO2020の方が圧倒的に感染者数が多いことが判明した
・感染者に証明させるという方法自体に限界があるのではないか
・ウィンブルドン選手権とは異なり、EURO2020においては、観戦時のルール(マスク着用など)の違反や、不正な入場も報告されていた
・一方、EURO2020は、一生に一度のイベント(自国開催、55年ぶり自国決勝進出)という意識が働き、モラルを低下させたのではないか
・観戦後にパブ(大衆酒場)で飲食するというような行動も多く見られた
・ 2021年7月11日までに、50歳以上の80%以上、40歳以下の30%以下がワクチン接種完了済
・今回の調査の限界として、実際にどこでいつ感染したの正確には分からないこと(会場の中か外か、観戦前/会場への移動など、観戦中、観戦後の飲食など)が挙げられる
・また、今回の調査は無症状者を必ずしも捉えることが出来ておらず、またイベントの性質上、無症状となりやすい若年層が多いため、実態の感染者はさらに多い可能性がある
・ワクチン接種やLFD検査がコロナ拡大を完全に防ぐことはできないが、イベントにおける感染拡大抑制に大きな効果があることは当然と言えるだろう
・一定の条件のもとリスクを限定してイベントを行うことは可能
・ただしその場合でも、会場への移動時のマスク着用や、イベント終了後の飲食の制限などの施策を同時に考えるべきである

トドの雑感

最後に私の雑感を少々。

そもそもこの調査は、政府が社会実験として、複数の大規模イベント開催を許可し、その上で、そこで何が起きたのかを把握、分析、公表したものです。

そこから得られる示唆は計り知れません。

フェアな情報公開が国民からの信頼を高めることは間違いありませんし、同時に世界に対して成熟した世界のリーダーとしての存在感を示せたのではいでしょうか。

また、分析においても「EURO2020への不正入場はけしからん」「国民の努力に期待する」という論調ではなく、起きうる状況を前提として制度を設計するというようなアプローチになっています。

英国政府は、The Nudge Unit(ナッジ・ユニット)と呼ばれる、「ナッジ」による国民の行動変容を促す機関も世界で最初に設立しており、これらの行動には建前ではなく「我々はこの現実の社会を実際に改善していく」という強い意志を感じます。

我が国においても、オリンピックで同様の調査を行い、公表していれば、世界に大きな貢献が出来たはずですが、実際に、このような調査を行い感染者が出た場合、「政府は人体実験をやってけしからん」となることも想像に難くありません。

良し悪しではなく、文化の差、社会常識の差ということに過ぎませんが(実際に日本のアプローチの方が有利な点もあるでしょう)、困難な状況の中、政府には国内外に向けてより積極的かつ透明性の高い情報発信をして欲しいですし、また一国民として、それに対して公平に評価をするという成熟した態度を取りたいと思います。

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