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たぬきか幽霊かなんなのか

永見です。夏なので、少し涼しくなるお話をしてみます。

わたしの通っていた中学校では、不思議なことがよく起こっていました。特に吹奏楽部や先生は、日が落ちるまで校舎内にいるからなのか、よくそんなことに遭遇する。ちなみにわたしも吹奏楽部。

たとえば、わたしの姉が熱で休んでいる日に、トランペットを吹く姉を目撃したという話。部室にひとりで忘れ物を取りに行った後、廊下にいた他の部員に無視されたと思ったら、ほんとうはその子はもう校舎外にいたという話。鍵の閉まった図書室の中からメトロノームのような音がした話。見廻の先生が、止めたはずの蛇口の水がまた出ていた話。

かなりある。それも、みんなおもしろ半分に話すんじゃなくて、「なんか不思議なことがあったんだ」と口をぽっかりして話す。かくいうわたしもそんな口をぽっかりしたひとり。

中学2年か3年のころ。その日部活が終わった時間には、すっかり外は暗くなっていました。音楽室だけ4階にあるうちの校舎。いつも一緒に帰るまいちゃんと、校舎の出口につながる階段に向かっていました。

音楽室からは3階までしか降りられません。3階に降り、コの字型の廊下を「コ」の右上から書き順通りに歩いて行きます。そして曲がり角のすぐそこに、目的の階段があります。わたしたちは楽しくおしゃべりしながらその角を曲がりました。

もう電気もついていません。曲がった先の真っ直ぐな廊下のその奥は、防火区画の鉄の間仕切りが閉まっていました。放課後は、いつもそうです。でも、その日わたしには、それ以外の別のものが見えました。

わたしは足を止めてじっと廊下の奥を見ました。隣を歩くまいちゃんも、立ち止まっています。わたしを変に思ってではなく、まいちゃんもわたしと同じように。

薄暗い廊下の奥の鉄の間仕切りに、人の影がふたつありました。シルエットからして、スカートを履いた女の子です。ふたつとも背丈が同じで、同じ格好。足は肩幅に開き、腕はぐっと力が入っているのか少し身体から離れています。いわゆる仁王立ちのような、そんな真っ黒の影がペタっと間仕切りに張り付いたみたいに映っていました。

一瞬わたしとまいちゃんの影かと思ったけど、影はわたしたちのように鞄を下げてないし立ち方も違う。でも、今ほかに人はいない。

どのくらいの時間かは覚えてないけど、「なんだろう?」とじっと見ていると、その影はスーッと横にスライドしていき、壁に消えました。

その瞬間、これは人ならざるなにかだと一気に脳が理解したようで、「うわあ!」と声を上げて階段を駆け下りました。それはまいちゃんも同じでした。

校舎の外に出て、まいちゃんとわたしは今見たものを興奮気味に伝え合いました。同じものを見ていたけど、わたしにはふたつ見えた影が、まいちゃんにはひとつしか見えてなくて、なんだか余計にぞっとしたのを覚えています。

それでも、怖いというより不思議なものを見たという気持ち。ちょっといたずらされたような、たぬきに化かされるってこんな感じ?っていうような。

帰って母にそのことを話したら、キッチンのシンクを覗き込むように言われました。そして、わけもわからないうちに後頭部に食塩をかけられました。けっこう強めに。その晩は、お風呂に入るまで髪から塩がポロポロ落ちてきて、なんだか可笑しかった。そんな母の茶目っ気も相まって、この話は自分の中では少し楽しい思い出。

これは敵の総本家。わたしの地元は六右衛門狸の町。


長々とお付き合いいただきありがとうございました。ではでは。


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