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#0 煙の話

 幼いころから、煙が好きだった。

 夏におばあちゃんの家に行くと、必ず蚊取り線香が焚いてあって、その近くに居るのが大好きだった。

 息を吹きかけると、燃えている先の部分の火が強くなって、減るスピードが速くなるのを見るのが好きだった。

 あんまり強く吹きかけると灰が飛んで、よく怒られたものだ。

 首振り扇風機の真下に置いて煙をプロペラに吸い込ませて遊んでいたときは、怒鳴られたっけ?




 父は今でも煙草を吸っている。

 あまり詳しくはないのだけれど、まぁ安い煙草のようだ。

 買ってからすぐ、カウンターに箱の角を押し付けて、角を潰す。

 これをしておくと、ワイシャツの胸ポケットにしまったときにやぶけることがないんだとか。

 小さい頃は、大人たちが集まって煙草を吸っている光景がカッコよく思えて、よく父の後をつけて喫煙室に通っていた。

 喫煙室の中は色んな匂いが充満していて、息苦しくもあったけど、その色んな匂いのなかから好きな匂いがしたときは、どの煙草なんだろうと探した。

 未だに見つけられてはいないけど。

 この歳になって、煙草の有害性とか、人体に与える影響とか、依存性とか、ただ単にカッコいいだけじゃないとか、このご時世でどれだけ煙たがられているかとか、もろもろ理解できるようになった。

 家で換気扇の下で申し訳なさそうに吸っている父に「臭いからやめて」と文句を言うようにもなった。



 あと一年で煙草が吸える歳になるけれど、果たして自分は吸うのだろうか。

 あの頃出逢った、好きな匂いにもう一度出会えるのだろうか。


 結末は薫る先か……。


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