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とりあえず、久しぶりだね

「もしもし、今大丈夫?」

「もしもし、大丈夫だよ」


「・・・とりあえず、久しぶりだね」

「うん、久しぶり」


「・・・いつぶり?」

「うーん、もう五年ぶりくらいじゃない」


「もうそんなに経つのかあ」

「はやいね」


「久しぶりな気がしないね」

「そうかね」


「今何してるの?」

「仕事。・・・・・・ごめん、嘘。月見てる」


「そっか、今日満月だもんね」

「五年前の同窓会の日もこんな満月だったよ」


「そうだっけ・・・」

「そうだよ、覚えてないの?」


「飲みすぎちゃって・・・」

「そうだったよね、よく飲んでたわ。一杯飲んだだけで顔真っ赤になるくらい弱いのに」


「ついね」

「強がり」


「その時、君とは席が離れてて一言も話せなかったのは覚えてるよ」

「なんで急にそんなこと言い出すのよ。ひょっとして今飲んでるんでしょ?」


「バレたか・・・」
「この酔っ払いが」


「そういう君だって飲んでるくせに」
「バレたか・・・」








「はぁ・・・」

「どうかした?」


「いいや、なんでも」

「なんだよ・・・」

「ちょっと昔のことを思い出しただけだよ」
「そう・・・まあ、私も少しだけ思い出してたわ」




「ところで今彼氏とかいるの?」

「ところで、ってなによ。いるわけないでしょ、じゃなきゃあなたと電話なんかしないし」


「確かにそれもそうか」

「そういうあなたもいないんでしょ?」


「じゃなきゃ電話しないだろ」

「それもそうね」


「もう一本開けようかな・・・」

「やめときなって、明日も仕事なんじゃないの?」


「大丈夫大丈夫」
「ほんとに知らないからね」








「あのとき、キスしたのはぁ・・・」

「ねえ、もういいから。飲み過ぎだから、頭冷やせコノヤロー」


「あぁ、ごめん・・・・・・」

「もう、いつまで経ってもこの調子なのね」


「懐かしい?」
「なわけあるか調子乗んなボケ」


「あー、やっぱり落ち着くなぁ」
「勝手に一人で落ち着いてんじゃねぇよ」








「・・・・・・」
「もしもし、まだ起きてる?」


「・・・・・・」
「もう寝た?」


「・・・・・・」
「おーい」


「・・・・・・」
「もしもーし」


「・・・・・・」
「眠れない私を置いていくな」


「・・・・・・」

「はあ・・・」


「・・・・・・」

「おやすみ・・・」


「・・・・・・」

「ねぇ、なんで今日急に電話くれたの・・・?」


「月が綺麗だって君に伝えたかったから・・・かな?」
「・・・ほんと馬鹿野郎」




赤い公園/衛星 より

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眠れない夜に

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