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おい、QOLってなんなんだ?

quality of life:QOLについて、特に医療評価における健康アウトカムとしてまとめてみました。QOLは、費用対"効果"の"効果"を評価する効用値にも使用されています。医療における個人への効果だけではなく、医療技術評価でも重要なQOL。今後使用するにあたり、概念から評価尺度の違いを再学習したので備忘録としてまとめました。記事の内容は、QOL尺度の種類とその内容がメインです。QOLを向上させるにはみたいな記事ではありません。


QOLとは

~ 生活の質って何に対しての質? ~

『生活の質』と訳されるQOLだが、概念を調べると複雑で共通見解がない・・・。一方で、健康についてはWHOが『完全な肉体的、精神的および社会的福祉の状態であり、単に疾病または病弱の存在しないことではない』と定義している(1951年官報掲載の訳)。ここから、QOLの概念構造は

1. physical status and functional abilities(身体的状態
2. psychological status and well-being(心理的状態
3. social interactions(社会的交流
4. economic and/or vocational status(経済的・職業的状態
5. religious and/or spiritual status(宗教的・霊的状態

の5つの領域から構成されている。つまり、QOLは健康な状態に対して現状がどうなのかを測定するための概念である。
医療分野では、特に健康関連QOL(HRQOL)が健康アウトカム: 医学的介入によりどれだけ健康な状態に近づいたか、として使用されている。医療の文脈でのQOLはほぼHRQOLのことと考えても良さそう。(以下の文章もQOL=HRQOLで置き換えていただきたいです。)

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QOL評価の意義

~ なんのためにこんな概念を作ったのか? ~

介入に対して”健康”がどうなったかの評価指標。医療の質を評価する際の「構造(structure)」「過程(process)」「結果(outcome)」(Donabedian A, 1969年)のoutcomeにも含まれている。効果を生/死以外の広い視点で見るためのものとも言える。特に医療においては、治療エビデンスを創出することで診療ガイドラインへの反映や患者ー医療従事者間のコミュニケーション改善、政策の意思決定など"so what"へ繋ぐことができる共通の"ものさし"としての役割が大きい。HTAの文脈においては、Quality adjusted life year:QALYという効用値に変換され使用される。(HTAについてはこちらの記事を参考に)QALYのコンセプトも生存アウトカムだけでなく、いかに健康に過ごした期間が長いか(QOL)を考慮した効用値を表し、医療介入の費用対効果を比較しようとするものだ。このように複雑な概念をスコアリングすることで、医療資源の個および集団への最適化を議論することできる。

QOL評価の種類

~ どうやって測定するのか? ~

さて、ここからが今回の勉強の目的です。本番です。
QOL評価の尺度、測り方は大きく2つある。

1. プロファイル型尺度
2. 選好に基づく尺度(Perference-based measures:PBMs

プロファイル型尺度は、QOLを構成する多次元な要素を詳細に評価する。1. 主観的尺度と2. 客観的尺度の2種類があり、主観的尺度(つまり、患者さんから直接得られた症状・健康状態)についてをPatient-reported outcome:PROという用語で定義している。主観と客観は部分一致の関係で決して、主観<客観という関係ではない。最近は、PROとQOLの両者を健康アウトカムと使用することが始まっている・・・らしい。この主観的評価(患者)と客観的評価(医師)の不一致を指摘する論文も出ている(その中の一つSonn GA, 2013)。代償的なプロファイル型尺度は、SF-36(包括的尺度)やSF-8(包括的尺度、軽度)、QOL-ACD(疾患特異的尺度、がん)、KDQOL(疾患特異的尺度、糖尿病性腎症)などがある。

PBMsは、QOLを一次元の効用値、単一の数量で表すことを目的にしている。つまり、QALYの算出が可能である。健康状態のシナリオを用いて一般人に評点尺度法(Rating Scale:RS)や基準的賭け法(Standard Gamble:SG)、時間得失法(Time Trade-Off:TTO)により健康効用を評価してもらう直接測定法と患者さんに質問表を用いて評価してもらう間接測定法がある。代表的なものはEQ-5D(イギリス)やSF-6D(アメリカ)、HUI(カナダ)があり、それぞれ直接測定表との対応関数がある。

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そして、神サイトの紹介
新潟医療福祉大学(PBMs評価指標のデータベース)
C2H(PBMsのまとめ)

QOLの臨床的に意味のある差について

臨床的に意味のある差(minimal important difference:MID)についてはQOLに関わらず健診結果でも議論されているところである。つまり、"QOL値がOO点改善した"と"QOLが改善した"は乖離している。基数的効用値(水準や大きさに意味がある尺度)であろうが序数的効用値(序列にのみ意味がある尺度)であろうが、効用値の変化=”改善”と言って良いのかという指摘だ。特に統計的有意な差について考察するときには注意が必要であろう。
結論としては、完全にコンセンサスが得られているのはない。
- 7-8% change of QOL score
- 0.5*SD (standard deviation, SD)
- 0.4*ES (effect size, SD)

あたりが大体の目安なようだ。(医療評価胎動プログラム講義2020より)
この辺りは、定期的な見直しと改善を繰り返して最適にしていく必要があるのでしょう。私見としては目安があるのが本当にありがたいです。

まとめ

奥が深い!!そりゃそうだと思う。概念的なところの理解や定義を行い、それを満たすような評価表を作り、スコアリングし、健康アウトカムとして使用してみて内的妥当性や外的妥当性を検証していくという・・・真面目に医学に向き合ってきた人たちの叡智の結晶のような気がして泣けてくる。研究会もあるくらいだ。QOLについての講義を受けた後、使いたいと思って調べてみると見事にハマった。まとめた内容で大枠は理解できていると思うので、各論については、必要に応じて調べよう。
アウトカムとしてQOLを評価したいと始めた学習だったが、”正しさ”を学ぶとなんだか使いにくくなってきた(笑)。と言っていても始まらないので、できることできないことをわかった上で、アウトカムの一つにQOL評価を取り入れてみたい。

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