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おい、HTAってなんなんだ?

Health Technology Assessment(HTA;医療技術評価)、限られた医療財源を適正に配分するための意思決定を目的とした医療経済学の政策研究分野の一つ。HTAは、医療機器や薬剤の価格算定へ導入されており、ヘルスケア領域のデータを扱うもの(私のことです。)としては、知っておく必要がある知識と思って勉強した。が、ややこしい・・・。


はじめに

HTAは、EBM(Evidence Based Medicine、医療の質)やVBM(Value Based Medicine、医療の価値), CER(Comparative Effectiveness Research、効果の比較)を包括した集学的なプロセスであり、理解しようとすると広く網羅的な知識が要求される。そのため、『医療政策の教科書』みたいな体系的にまとめられた本を一読しておけばもう少しスムーズに理解できたのだろう(あとで読んでめっちゃ頭が整理された)。導入編を飛ばして、実践編から始めた感はあるのだが、HTAとその手法の一つである費用対効果の評価方法について勉強し、ついでにnoteにまとめた。HTAの概念具体的な手法の一例ってとこまでまとまっているので興味のある方はどうぞ。

HTAという概念。

HTAについて、さらっとまとめる。思ったよりややこしかったので、さらっとまとめる。定義については、参考文献(1)から引用し、図は、参考文献(2)を少し改変して使用した。

名称未設定

Efficacy(実験的に環境を統制した状況での有効性)、Effectiveness(より現実的な条件での有効性)、Value(経済的な価値)の3軸とエビデンスの創出と統合、意思決定という3軸を合わせた3x3マトリックスで分類している。ついでに、実験手法であるRCTや論文研究手法のSRT・SREの位置付けも記載しておいた。このマトリックスを思い浮かべながら、以下の定義を読むと理解が深まる。

EBMとは・・・

患者と(又は)医師の意思決定に援用されるエビデンスの合成,及び意思決定のプロセスである。

CREとは・・・

疾病の状態を予防,診断,治療,監視する,あるいは医療の提供を改善する種々の方法の利害を比較するエビデンスを生成し,合成することである。

HTAとは・・・

医療技術を用いたときの臨床効果(effectiveness)、安全性、費用対効果(cost‒effectiveness)のエビデンス、更に場合によっては、社会的、倫理的、法的側面におけるエビデンスを考慮して、それらの合成を行う方法である。

要するに、HTAは、効率的かつ効果的な医療政策を作成するために患者さんを中心とした提供価値を包括的に評価するためのプロセスと覚えておけば間違ってないだろう。”HTA利用して・・・”とか言ってたら、この学術的なプロセスをやっているんだなってことでいいと思う。

HTAのプロセスは、Assessment(分析)→ Appraisal(総合的評価)→ Decision(意思決定)の3つに大別される。分析では、費用対効果や有効性、安全性等の評価が行われる。その結果をHTA機関(日本だと中央社会保険医療協議会?)が総合的に評価し、保険償還を決定する機関等の意思決定者が最終的な意思決定をするという流れとなっている。

費用対効果評価について

HTAで重要な要素の一つである、費用対効果評価。
費用に対する効果って…わかるようでわからない。何故か、効果って何?というところがはっきりしていないから。この定義は、難しく複雑だ。ただ、実際のところどうやって評価してるのっていうのがわかると、少しはスッキリすると思うので、医薬品の評価を題材にまとめる。

ありがたいことに、日本製薬工業協会とデータサイエンス協会が一般公開してくれている参考文献(3)が非常に分かりやすかったので、その資料をベースにする。

費用対効果評価のフレームワーク

1. 分析の目的と比較対照の決定
2. 分析の立場と費用の範囲の決定
3. 効果指標と分析方法の決定
4. モデルを構築、効果と費用のパラメータを推定
5. 費用と効果の比較
6. 分析結果の解釈と報告

※ モデルのパラメータとして投入する「費用」や「効果」は、「データ」に基づいて作成する。「データ」は文献や臨床データ、調査データ、疫学データなどから生成・収集する必要があり、不確実性を除外することは不可能。ここが肝心。

1と2については割愛!!

3. 効果指標と分析方法の決定について
効果指標については長期的な有効性を評価対象とするために、多くの場合でQALY(Quality Adjusted Life Years、質調整生存年)が使用される。QALY は、QOL(Quality of Life、生活の質)から変換した効用値(Utility)で調整した生存年を指し、完全に健康な状態で何年間生存できるのかを表す指標のこと。(QALYってなんなんだって書かないと・・・。)
分析方法については、A. 費用最小化分析、B. 費用効用分析、C. 費用効果分析、D. 費用便益分析みたいに効果指標の違いでいくつかあるのだが、QALYを用いた費用効果分析がメジャー。

◆ 費用対効果評価の分析方法
A. 費用最小化分析:効果指標(有効性および安全性)が対照技術と同一であることが明らかになっている(または期待されている)ことを前提とし、費用の大小により医療技術を比較する分析方法。
B. 費用効用分析:効果として、効用値から算出される QALY(質調整生存年)を用い、費用と比較する分析方法。
C. 費用効果分析:効果として、生存年数や物理的な尺度(イベント発生の有無など)を用い、費用と比較する分析方法。費用最小化分析と費用効用分析を含めて費用効果分析としていることもある。
D. 費用便益分析:効果をすべて金銭に換算し、医療技術の使用により発生した費用と比較する分析方法。

とにかく、評価指標を共通のものさしにするという視点が比較の際には重要。なので、効果については費用便益分析のようにお金に変換するか、QALYを使用するかが必要だと理解している。

4. モデルを構築、効果と費用のパラメータを推定
分析期間から真のエンドポイントまでを予測するためモデルに基づく分析を行うのが一般的。代表的なものにA. 決定樹(decision-tree)モデルB. マルコフ(Markov)モデルがある。モデル作成時に必要なパラメータや費用は、オープンデータベースや先行文献(システマティックレビューなど)、ネットワーク・メタアナリシス(三段論法的な比較)から推定する。そのため、透明性および納得性の高い報告を選択する必要がある。

A. 決定樹モデル
複数の治療が行われた場合の費用や効果を推定することが可能なモデル。評価する期間が短く、ステート(状態)を行き来しない場合に有用とされている。

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B. マルコフモデル
慢性疾患など罹病期間が長い場合に利用される。はじめに患者の取りうる複数のステート(疾患の状態)を定義し、マルコフ性(未来は現在によってのみ決定され、過去の状態は無関係であるという性質)を前提に、これらのステートへと移行していく推移確率を定義していく。推移確率は、実データからの推定が望ましいが文献から引用することもあるため、推定の根拠については明確に示す必要がある。

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5. 費用と効果の比較
ICER(Incremental cost-effectiveness ratio、増分費用効果比)
という尺度を使用する。

ICER = (費用A - 費用B) / (効果A - 効果B)

例えば、dragAの費用対効果を評価する場合には、一般的に使用されているdragBと比較して、ICERを算出する。

6. 分析結果の解釈と報告
これまでのプロセスを見ると、不確実性を除去することは不可能ということがお分りいただけるだろう。そこで、一次元感度分析やPSA(Probability Sensitivity Analysis、確率的感度分析)によりパラメータを変動させた時に取りうるICERを可視化する必要がある。要するに不確実性の把握と開示が必須ということである。

まとめ

HTAがなんなのかは理解できた。つまり、医療技術に対して包括的な評価をまとめるためのプロセス。その医療的効果評価の部分で、費用対効果評価が使われる。ただ、まだまだ自分のものになっていない感がすごい。実際に手を動かしてみるのが一つだと思うので、扱えるデータでモデルまで作ってみようと思う。ただ、QALYの効用値についてがわかっていないのでこの辺を勉強がてらnoteにまとめてみようと思う。はぁー難しかった・・・。

参考文献

# HTAという概念
(1)医薬経済学的手法による医療技術評価を考える<2>ーEBM、VBM、HTA:概念を整理するー
(2)Luce BR, Drummond M, Jönsson B. EBM, HTA, and CER: Clearing the Confusion. Milbank Q. 2010; Jun; 88(2): 256–276.

# 費用対効果評価
(3)医薬品の価値の科学的な評価-データサイエンス担当者のための費用対効果評価の現状と手法の解説-
(4)医療技術の費用対効果評価と活用


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