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かぞかぞ③演じる余白のある脚本、それを感じる余白のある演出、上品な胸に沁みるドラマです

錦戸亮の仕事を見守るために見始めたドラマ「家族だから愛したんじゃなくて、愛したら家族だった」ですが、その魅力にハマりました。1,2回は錦戸亮の出番はとても少ないが、残された家族(父は他界している)を見ているだけでも常に存在感を感じるものだった。第3話では、父・耕助が亡くなるエピソードが描かれる。このドラマ原作のエッセイも読ませていただいたが、実にいい脚色がされている。声を大にして言いたい。もう、ホント素晴らしいドラマです。

3話は、沖縄の海で祖母のモノローグから始まる
【玄関】
《帰宅する耕助の足元、疲れている。そのまま洗面台へ行く。父の背後から話しかける娘》
七実「パパ帰るの遅すぎ」
《うがいする耕助》
七実「今日遠足で京都行ってん、これおみやげ」
《リビングへ向かう耕助》
ひとみ「パパぁ、シャツにシミがついた時は洗う前に教えてよ」
《ソファに座り込む耕助、草太は立って何やら遊んでいる》
七実「なぁ、なぁ、これおもろいやろ?・・・着てみ」
《ひどく疲れた耕助は返事できず、ソファに倒れこむ》
七実「はぁ、なんなん・・・(手にはお土産の面白Tシャツ)帰って来ても寝るだけやったら家におらんでもいいやん」
ひとみ「七実、やめなさい」
耕助「・・・(小声で)今日はしんどいねん」
七実「帰ってこんといて、邪魔、どっか行って」
ひとみ「七実!」
草太「パパぁ」
耕助「うっとうしいなぁ、今日は疲れてんねん」
七実「・・・なんやねん、、、パパなんか死んでまえ」
【寝室】
ひとみ「大丈夫?」
耕助「苦しくて寝られへん」
ひとみ「ちょっと待ってな、パパぁ、救急車呼ぶからな」
耕助「七実と草太には言うな・・・心配させたない」
【病院・廊下  運ばれる耕助】
耕助「ひとみ、草太…頼むな、七実は大丈夫や、七実に絶対大丈夫やって伝えてくれ」
ひとみ「なんでそんなこと言うの!しっかりしてょ…」

劇中から抜粋

その後、急性心筋梗塞で入院した耕助は、カテーテル治療を終え寝たきりに

観てもらえたらすぐ分かるけれど、このドラマ、状況は胸に迫るけれど、観る者を〝泣かそう〟としない〝上品な演出と演技〟で作られている。そしてオモロい場面やセリフも散りばめられているのだ。大学生になった七実とマルチ(友人:福地桃子)をキャンパスで色んなサークルが勧誘する中、テニスサークルに止められた。ダブルスを組もう!と迫るキラキラ大学生に向かってマルチの必殺技が登場する。
マルチ「そのダブルスの成功を約束する《水》はいかがですか?1本税抜き1,280円です」《”水”とはマルチの親がマルチ商法の商品”成功水=サクセスウォーター”の事。ツボって描いちゃいました(笑)》
と、撃退成功。そしてマルチから、一軍女子のマリカさんが、この大学に落ちたことを知らされる。
七実「みんなそれぞれの段差を前に生きとるんやな」

車椅子に乗る母、ひとみには《出来んことはないって思ってほしいねん》と強く願う七実は《絶対に母を沖縄旅行に連れて行く!》と旅行代理店へ。ここの描写も抜群だ。車椅子で沖縄旅行は難しいかな…と不安を胸に相談する七実に、「全然、無理じゃないですよ。ぶっちゃけ、行きやすい!」と対応するベリーツアーの篠宮さん(川﨑珠莉)がホントにいい。初めて見た演者さん(吉本興業所属の方)でした。原作イメージと寸分たがわずとてもいい!

旅行資金を貯めようとバイト3つをかけ持ち奮闘する点描の見事なこと!
引っ越し業者、野球場でホット珈琲売り、交通整理員の悪戦苦闘がテンポ良く描かれる。野球場のバイトリーダーの背中に小声で「噓つきバイトリーダー、噓つきメガネ」と毒を吐き(笑)、交通整理員の短すぎる制服ズボン姿でする天才的なお辞儀ポーズもツボ(これもつい描いてしまった…笑)、名言らしき口調でスベり散らす全てのバイト先にいる「瀬尾さん(岡野陽一)」の存在も(笑)、堪らない。と、笑いながら見ていると、この子めちゃくちゃ頑張って、いい子やなぁ、と《親の応援心》が刺激されじんわり感動するし。頑張り屋の若者をみると、無性に応援したくなるのです、年を取ると(笑)。
余談ですが、工事現場の交通整理員ロケ地が、見慣れた緑山スタジオの一角だと気づいて、やたらテンションが上がった。上手い事、プレハブ作ってロケしたなぁ、と思います。おそらく、緑山スタジオのM1かM2で収録していてスタジオの敷地内でロケしたんだと思います。ホント、余談でスミマセン(笑)。

このドラマで素晴らしいのは《いわゆる感動場面を盛りあげない》ところだ。劇伴も、ありきたりな(🙇‍♂️)ドラマだとピアノやストリングスを使って抒情的なヤツにしそうなところを、音数の少ない小気味いいリズミカルな、おどけたような、楽し気なものをあててある。感動させようと意図的な演出を感じると白けてしまう視聴者も多いことを、大九Dは熟知しているのだと(勝手に)思う(単に趣味じゃないのかもしれないが)。そして、収録した俳優たちの生の劇(演技)の力を信じているし、自信もあるんだと思う。そこが分かる。本当にいい。

草太と一緒にあくびしたり跳ねたり、シンクロした動きをする耕助も自然で実に良いし、「孫の世話からエスケープや!」と美保純が根岸季衣や片桐はいりと一緒に「沖縄なんかこっちから呼んだるわ」と宴会をする場面も白眉のひとつだった。

沖縄旅行のシークエンスに行きつく頃には、胸が一杯になっていた。もう、全てが美しく、完璧にみえた。ここは、自分の家族とも重ね合わせてしまった。僕には4人の子供がいて、家族旅行なんてものはほぼしたことがなくて、沖縄旅行は、一度だけ家族で行ったことがあって、それも子供たちがまだ幼い頃だ。またいつの日にか行ってみたいなぁ、などと考えながらみていたら、ホント、感動を禁じえなかった。

沖縄 Then & Now

ホンマに楽しかったよ  そうやな
明日からまた頑張らんと そうやな

シンプルかつ必要不可欠なセリフも実にいい
このドラマでは、役者たちもいわゆる《決め顔》を一切しない。全くしない。それが、どれだけ強い説得力となって人の胸に響くことか。

「家族だから愛したんじゃなくて、愛したら家族だった」は、
演じる余白のある脚本、それを感じる余白のある演出が揃った
上品で上等なテレビドラマだ
と、本当に思っている。

来週も楽しみです。

家族だから愛したんじゃなくて、愛したら家族だった
【出演】河合優実,坂井真紀,吉田葵,錦戸亮,美保純,福地桃子,奥野瑛太,根岸季衣,片桐はいり,川﨑珠莉,岡野陽一ほか 草太担当:安田龍生【原作】岸田奈美,【脚本】市之瀬浩子 他【演出】大九明子


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