見出し画像

森岡書店 店主・森岡督行さんインタビュー『戸田幸四郎名作絵本集』について

銀座 森岡書店にて2022年2月1日から6日間行われた【血となり骨となれ 絵本作家・戸田幸四郎が描いた、知られざる名作絵本展 】

絵本作家・とだこうしろう、戸田デザイン研究室といえば 代表作『あいうえおえほん』のようなシンプルで鮮やか、大人も魅了する洗練されたデザインの作品で親しまれてきましたが…

今回、なぜ森岡さんがこの"知られざる作品”を展示の主役として選ばれたのか?

宮沢賢治『竜のはなし』、太宰治『走れメロス』、小川未明『牛女(うしおんな)』、花岡大学『世界一の石の塔』、『百羽のツル』。

『戸田幸四郎名作絵本集』に収められた5つの作品それぞれが描き出す世界についてお話しくださったインタビューにその答えがありました。

※インタビューをしてくださったのは前回に続き、清水屋商店 店主・清水洋平さんです。


善と悪を考える。愛と憎しみを考える。

森岡さん
『走れメロス』はね、教科書などにも出てくるから読まれていると思うんですけれど。これは人間の正義みたいなものをテーマにしている。
太宰治なりの描写でその大切さを伝えている。正しい行いとは一体何だということを考えさせられるような作品でもありますし。

『竜のはなし』は、自己犠牲というのですかね。自己犠牲は流行らない言い方かもしれませんが、人の為に何かをするというのは どういうことなのか?それを突き詰めると どういう風になるのか。宮沢賢治がその究極の形みたいな所を見せているような気がしました。

『世界一の石の塔』。これは人間は善意だけではないですからね、悪意と言いますか。
そういったものをどう考えればいいか。それをちょっとしたお話の中で無理なく喚起する。

子どもはこれを読んでも分からないと思いますが、大きくなった時とかね、ある程度もの心ついた時とかね。「あの話って一体何なんだろう?」と振り返られるような、そんな人の悪意についての話なのではないかなと思いました。

『牛女』は母親の愛、愛情ですね。母親の愛。子どもに対するそういうものの尊さをテーマにしているなと思いましたね。

で、『百羽のツル』。これは言ってしまえば友愛ですね、他者への愛というか、仲間への愛というか。友愛ですね。自由平等友愛の素晴らしさ、それを伝えているっていう。連帯感を無理なく簡潔な文章で伝えている。

ひとつひとつテーマが違っているなあっていう風に思います。この5冊でひとつひとつの人間を造っているというか。私はそんな風に思ったりしましたね。

画像1

清水さん
今聞いていると『走れメロス』が正義で『竜のはなし』が自己犠牲、人のためにと。

『世界一の石の塔』は人間の悪意をどう捉えるか。『牛女』は母親の子どもに対する愛情、『百羽のツル』は友愛、というところが森岡さんの受け取られたポイントだと思います。

この5つをちゃんと自分で考えたり、その考えを持っていれば、大人になって一人になった時にきっと間違ったことにはならないだろうと。

森岡さん
うん、そうですね。善と悪を考える、愛と憎しみを考える。そういう普遍的な人間が文学とか哲学とか宗教とかでテーマにしてきたものに紐づいているのだろうなぁと思いますね。

それを子どもに強制的に何かするわけではなく、話の中から少し考えられるような。

その時は考えられないかもしれないけれども、大きくなった時に「あれってこういう事だったんじゃないかな」と振り返るような。そういうものなのではないかなと思って。

その意味で「名作絵本集」ということではないかなと思いますね。まあ、みんな宗教をテーマにした人ですもんね。

清水さん
そうですよね。この作品ひとつひとつの主人公というか、話のテーマ自体はいろんな見え方をしているけれども、確かに森岡さんが仰ったように、等しく人間のことを捉えているものを戸田幸四郎さんが選んでいる。

森岡さん
ええ。それでひとつずつ違った人間の事象がお話となって現れているものなんだなぁという風に。

清水さん
今、森岡さんが お子さんもいらっしゃる一人の大人として読んでも、非常に感ずるものがある?

森岡さん
そうですね。5冊セットであるということがポイントかなって思いますよね。

清水さん
どれかひとつを仮に読んだとしても、それでは全体は捉えられないというか。

森岡さん
そうですね。やはり戸田幸四郎さんが見せたかった、人の心のあり方というのがここに集約されているのだろうなと思いました。

清水さん
確かに今のお話でいくと、知育絵本というのは もう少し感性的・感覚的なところを含むものだと思うのですが。

森岡さん
えぇ、具体的なものとかね。

清水さん
これは更にもうひとつ踏み込んだというか、より人間が成長していく上で欠かせないテーマを言っていると。

森岡さん
そういうことなのではないかなと。それをグラフィックデザイン処理するとこうなると。
このパッケージになるのだろうなって言うところですよね。

清水さん
パッケージの表紙が『百羽のツル』の絵になっていますが、今、森岡さんが読み解いたもので言うとそれは友愛の素晴らしさですから。それが表紙の絵にきたと言うのは。

森岡さん
やはりこれが。これは隊列の最後を飛んでいた小さいツルかな?空から落ちて行ったときに拾う場面なのでしょうけれども。まあ、これは希望ですよね。人の可能性と言うのでしょうか。そういうことじゃないでしょうかね。

まあ、世の中、いろいろありますけれども、相対することだと思うんですよね。
悪をテーマにしていたり善意をテーマにしていたり、まあどちらかあるのであれば、こちらですよと。

画像2

清水さん
人間は一人で生きていくわけではないと思うのですが。社会の中でのこういった観点が、戸田幸四郎さんとしてのメッセージとして…。

森岡さん
そうですね。ここにもう、ピシッと現れたっていう。

清水さん
面白いですね、パッケージから読み解くのも。

森岡さん
偶然でしたけどね。でも、それはやはりデザインで感じ取れるようなものだったのでしょうね。

清水さん
これは面白いですね。これを森岡書店で一週間売っていくのは。話自体はしっかりした内容で。

森岡さん
これは全巻、全国学校図書館 協議会選定図書ですから!読めということですよ、大切なのだと。やはり子供の時に読む、触れておくことが大事だと思います。

清水さん
でも面白いですね。改めてしっかり読み解いていくというか、作った人の想いとかを少し考えてみる。本において大事なことのひとつですよね。

森岡さん
そうですよね。戸田幸四郎さんもある程度会社が順調になってきたから、こういうことができたんだろうっていう気もしますよね。

戸田デザイン研究室HPでは、他にもインタビューをお楽しみいただけます。
https://toda-design-column.blogspot.com/2022/01/blog-post_21.html